第1章 ぼくの空


Mon dieu, mon ieu, la vie est la,
Simple et tranquille.
Paul Verlaine

神さま、神さま、人生はあそこにあります。
素朴に、また穏やかに ――ポール・ヴェルレーヌ――


     きいろい月

月は黄色くよどんでいる。
仮想した友の来る部屋
古きビートルズの鳴き柄
リズムには決して乗ることのできない鼓動の打つ
不確かな低音

まだ
月は黄色くよどんでいる。

S、O両君来る。夕方帰る。

一つのエポックとして
何かが
残れば
これでいいのだ
という
コトバが
消えて行く。

残った<何か>が
蘇生して
新たに
細かく
分裂を始め
目にみえるような
形となって
再び苦しめるまで
僕は生きてゆこう。


    風

決して窓から入ってくる風ではなくて
年代モノの扇風機のつくる風であれば
それでよいのだ
何も涼しさを求めているのではないのだから
この冷たい静けさを
少しでも壊していくものがあれば
それでよいのだ


    過去

黙って
目の前の対幻想をみていると
ほほえましさと
懐疑が
さびしい心の空間を横切っていく

作られた対幻想は
やむを得ず成立した対幻想は
横からみてみると
たのしさと
嫉妬が
むなしい心の空間を過ぎ去っていく

黙って
一人でうなづくのだが
捨てきれない
古びた人形のように
手からはなせなくなる
‥‥‥

友達が友達でなくなるときは
そんな気持ちがする。

過去は
どうしても捨て去っておかねばならない
過去は
どうしても捨て去っておかねばならない

月が何故こわいかって
自分を知っているからさ


    アンチ・テエゼ

ものの感覚は精神的なものではないというアンチ・テエゼは、私にとっては、乗り越えるのに時間を要する。感覚は肉体の自同律であり、極めて唯物的でさえあるのに。

耐えることも、爆発することも、肉体の自同律の問題であれば、それらを抑えるものは何ものであろうか。精神の自己運動は精神でもって制御できるのだろうか。


    存在

ぼくの存在は
存在そのものが半近代的なんだ!


    モーツァルト

モーツァルトには物語はいらない
モーツァルトには風景があるから


    ちいさなあとがき

ちいさな群をながめるよりちいさな群へ
ぼくは微笑みをなげかけよう
そして
黙って去ってゆこう