第2章 一九七一


Apprecions san vertige
l
'etedue de mon innocence. ―Arthur Rimbau―
   

目まいせずに 
ぼくの無邪気さの広がりを測ってみよ。  ――アルチュール・ランボー――



     だあれ?

おうまさん おうまさん
あなたは だあれ?

おうまさん おうまさん
あなたは どこをかけるの?

おうまさん おうまさん
あなたは はやい?

おうまさん おうまさん
ぼくを のっけてくれる?

おうまさん おうまさん
ぼくの星めざして走ってよ!

おうまさん おうまさん
ぼくのチョコレート あげるよ!

おうまさん おうまさん
さあ でかけよう!

おうまさん おうまさん
ぼくは だあれ?

おうまさん おうまさん
あなたは だあれ?


    <公園>

公園にいます
ひとりでいます
うんとほそ長い公園です
すぐ前を自動車が走っています
もうよるです
そして街燈がともっています
ぼくのほかはだれもいません
さびしくはないけど
ちょびっと悲しくなったりします
ほんの少し風が吹いています
さむいけど
レインコートにくるまっているので
がまんしています
さっきコルネを一つたべたので
おなかはげんきです
タバコを一本だけ吸いました
なにを考えているのかわかりません
さっきからなにやらしゃべっています
ぼやっとしながら空を見上げています
ぼくの星はきょうはやってこないようです

公園にいます
ひとりでいます

このごろのぼくはとってもおかしいのです
ルシフェルはいつもぼくを苦しめてるようです
どうしていいのかわからないのに
とても急ぐのです
毎晩ぼくのだいじな涙をひとしずくづつあげているのに
ルシフェルはそれでは満足しないのです
ルシフェルはゆるしてくれないのです

公園の中は
さっきとくらべるとずうっとさむくなってきました
人のけはいがするのに
さっとふりむくと やっぱり
だれもいないのです
ぼくはまだぼくで
ぼくはまだじっとしています
ねむたいけど
じっとみつめています
じっとあなたをみつめています

公園にいます
とってもほそ長い公園です
ひとりでいます

もう冬です


    コツコツ

おれはこらえている
こんなにも まっかな目をしている
そして コトバをしるしている
まるで
おのれの心臓を彫刻しているように

    おれは なにをこしらえようとしているのだ!
    こんなにかたくななおれが
    いったいなにをコツコツ

おまえにはその音がきこえているのか
おれにもきこえぬ コツコツ
だとしたら
その音がおまえにとっておれだ

    コツコツ コツコツ

さあ 聞くがいい
その音に耐えられるのなら
おれは待とう
おれの唯一の彫刻ができるまで
そのときおれは答えよう
おまえがおれだと


    SYNTAX IN → OUT ――プロクルステス

ルシフェルよ
おまえは 仮構か

ルシフェルよ
おまえは 虚構か

おれはルシフェルを<見た>
おれの中に空に舞うルシフェルを<見た>

おれは つねに ルシフェルに なろうとしてきた
おれは いまも ルシフェルに なろうとしている

おれはおれの中にルシフェルを<見た>
しかし依然としておれはルシフェルで<ない>

おれの中にルシフェルは居るが
ルシフェルの中におれは居ない

ルシフェルは<おれ>かもしれないが
おれは<ルシフェル>ではない

おれは<ルシフェル>をもとめてさまようが
ルシフェルは<おれ>につきまとうだけだ

ルシフェルはおれを苦しめ
おれを破壊せんとしている―つねに

<おれ>は なんだ
おれはルシフェルを守ろうとしているのに

たかが悪魔のはしくれにすぎないのに
おれはルシフェルを愛している

<眠くなあれ>
<眠くなあれ>
<眠くなあれ>
と三べんつぶやくと
とろんとまぶたがおりてくるのだと
ちいさいころまくらもとできかされた

おれは二十四になったいま
それを実行してみた

しかしきかしなかった
おれはずっとねむれないでいる

おれに子供ができたとしたら
おれはなくだろうか
わらうだろうか

おれの子供が大きくなったら
おれはなくだろうか
わらうだろうか

おれの子供が結婚したら
おれはなくだろうか
わらうだろうか

おおルシフェルよ
大魔王ルシフェルよ
おしえておくれ
おれはこのまま生きていけばよいのか
おれはこのままなすべきことをすればよいのか

ルシフェルよ
おまえはおれをにらむだけで
おれには何一つおしえてはくれない

ルシフェルよ
おまえは一体<おれ>の何なのだ

ルシフェルよ
おれは一体<おまえ>の何なのだ

ルシフェルよ
おまえの眼は
そう
悪魔の眼だ

おれは旅立たねばならないのに
おれは出発しようとはしない