第4章 詩人の秋


いっぱいのすすきが原をぬけると突如前
方に油コブシの大岩が突き出ている。右
手にあるトーテムポールは三等三角点。
海ばつ六〇〇メートルとのこと。土橋から
一気に直登コースを四〇分。もうせなか
があせでびっしょり。このコースではこの
ながめが最高だ。


    <じっとねむったまんま>

じっとねむったまんま 夜汽車の古ぼけた箱に一人
ゴトンゴトンと音がするだけ
外はまっ暗 窓ははく息でくもっていて
ときどき ボゥーと汽笛
停まる駅のないはてしない原野
不安はもう忘れてしまって
じっとねむったまんま
どこまでもだまってついていく
前進しているのか 後退しているのか
ゴトンゴトン
生への執着は悪夢ではないさめた現実
醜い水滴の
窓をおちる
風がどこからか入ってきて
うでをくむ
じっとねむったまんま
<じっとねむったまんま ぼくは旅をする>


    <ある夜ふけ>

ある夜ふけ
一たん寝むったまんま
詩人は考える
どうして詩をかかなくなったんだろう
どうしてぼくはぼくでなくなったんだろう

ある夜ふけ
すてられた犬がやってきて
そこいらじゅうを吠えまくる
太郎もねむらずほえ叫ぶ

詩をかけなくなった詩人は
犬の遠吠えが気になって
寝むられぬままペンを持つ
すごく朝(あした)が来てほしいのに
夜のしらむのがこわくなって
詩人の胸は重たくなった


    <ぼくは怒っております>
                ―― dans l'ambre ――

ぼくは怒っております
昼の日中からかんかんです
このようにしいたげられた扱いをうけるのは
ぼくが悪いからでしょうか

ぼくは怒っております
強いコーヒー豆のかおりの中で
ねむい目を強くつむって
シンフォニーを聞きながら
つぶされた虫のように怒っております

一人でいるということは
あなたをまっているということでしょうか
くるはずがないあなたは
いま何をしておいででしょうか

待っているあなたは時間がたつにつれて
別のあなたにかわっていきます
しだいにあなたを呼ぶぼくの声も
別人のようになります

怒っているぼくは
しがないひがみっこなのでしょうか
こんなにもしずかにたんたんとおこっているのに
みんなはまるで無視です


    詩人の秋

    i
詩人は詩をつくるのが仕事です
毎夜毎夜お月さまを見てはあごに手をあてます

    ii
詩人はコックさんです
たくさんのことばという材料を
みるもすてきな料理につくり上げます
詩人はコックさんです
誰かに味見してもらわねばなりません

    iii
詩人はさびしがりやです
遠くや近くの星を招待してはお酒を飲みかわします
ときどき赤い星が出てるでしょう
それは詩人をなぐさめようとして飲みすぎたのです

    iv
     ロマンチスト
詩人は夢見人です
秋の夜ながのすずむしはヴァイオリンの美しいしらべ
詩人はうっとりと風と恋をします

    v
詩人は秋が大好きです
すずしくてながい秋が彼の世界
ただぼやっとお月さまをながめては
一人ぶつぶつつぶやきます


    せっけんのにおい
                 ―― Kに ――

あおぞらにぽっかりと浮かんだみどり色の雲にのっかって
きみの手にまだのこっている
せっけんのにおいを嗅いでいると
いつのまにかまぶたが重くなってあくびをする
そのとききみの髪がぼくのほっぺにもたれて
ぼくはおもわずうっとりとして口づける
秋の陽射しはやわらかで日なたぼっこにぴったりだ
ぼくは雲の上に仁王立ちになって
こだまするような大きな声できみの名を呼んだ


    蟻

18メートルもある蟻の姿 どんな風に想像する?
どっちかというと胴のながーい
どっちかというとドタドタ それもあまり音がしないような
そう ヨタヨタって感じで歩いているの
けっして化け物みたいにはおもえないな
むしろそんな大きな蟻は もとの小さいのよりも
あいきょうがあるよ