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「こうやって、手と手を繋いでただ添い寝しているだけでも、お互いを思い遣る
気持ちがそこにあれば、それはもうセックスなんだっていうんですよ」

いきなり人の手をとって何を言い出すのかと思えば。
ロイは思いっきり憐憫の情をこめてハボックの顔を見た。

「またロクでもない女に引っかかったのか?」

「違いますよ!確かにここんとこ、女運は悪いですけどね」

「インチキ占い師にでも一杯食わされたか」

「どっちにしろ俺は騙されなくちゃいけないわけですか」

「おまえが気持ち悪いこと言うからだ」

軽く握られていた手を振り解いて、ロイは背を向けてしまう。

「いや、ほら、その、女性って、できない時があるじゃないっすか。からだが
辛かったりだるかったり。そういう時はお互いのからだに触れてるだけでも、
なんか安心したりしませんか?」

振り向いた顔には、なんとも怪訝な表情が浮かんでいる。

「生憎そういう経験がない」

真剣に見つめ返してくる上司の眉間の皺に、ハボックは返す言葉を失った。
選り取り見取りだったよな、この人は…。クソ、言うんじゃなかった。 

「おまえは女性にまでお預けを食らっているのか。つくづく不憫なやつだな」

ふぅ、と小さな溜息をもらすと、愛しい人はゆっくりと視線を天井に向ける。
そんな態度を取られては、もう自嘲気味に笑うしかない。

「おまけにあんたにまで食らってる始末で。情けないっすね、はは…」

 

ここの所ずっとすれ違いばかりだった。

ちょうど一週間前、ハボックはセントラルへの急な出張を命じられた。到着早々、
親バカ中佐のエリシアちゃん攻撃を掻い潜り、勤務中の喫煙もそこそこに鬼の
ような形相で慣れぬペーパーワークをこなした。

口さがないボンクラどもの、自分ばかりか上司にまで向けられる揶揄にも、拳を
握り締めつつこれ以上ないくらい爽やかな笑顔で耐え続けた。

「さすが焔の大佐の護衛だけあって何でもそつなくこなすものだ、いやまったく
羨ましいかぎりですな、どんなエサで釣ればこうもしっかりと手懐けられるの
でしょうなあ、はっはっは」、だとぉ?

余計なことグダグダ言ってる暇があったらおまえらもっと働けこの給料泥棒!

どつき回したい衝動をグッと堪え、殊勝で有能な部下を演じ切ったハボックが、
当初の予定を一日繰り上げて帰ってきてみれば、愛する彼の人はその間に
発生した軍部高官子息誘拐未遂事件の犯人検挙及び事後処理に追われて。

自分の小隊は人手不足のテロリスト警戒のため残業に次ぐ残業で。

緊急事態においては、軍人の勤務時間だのシフトだのあってないようなものだ。

会いたくて会いたくてたまらない想いを、それでも必死に押し止めてやっと今日。

 

「この三日間ほとんど寝ていないのだよ。そっちも出張に残業続きで疲れている
だろう?頼むから寝かせてくれ。でないと燃やすぞ」

ロイの容赦ない宣言を受けて、思い描いた甘い夢は一瞬にして消し炭になった。

かくして漸く同じベッドに横たわった幸せと、肌を合わせることの叶わぬ虚しさと
悔しさと切なさを、せめて眠りに落ちるまでのこの僅かな時間に甘い言葉にして
伝えておこうと。いつかどこかで聞いた睦言を、恥ずかしくも披露してみたのに。

あえなく撃沈。

やっぱり、言うんじゃなかった。
あんたに会いたくてあんたが恋しくてあんたに触れたくて、寂しかったってこと。
少しでもわかってもらおうなんて思った俺がバカだった。

 

「まあ、来る者拒まず引く手数多のあんたに、こんな気持ちがわかるはずもない
っすよねえ」

「こんな気持ち、って?」

もう忘れたのかよ。

「だから、お互いを思う気持ちがあれば、ただ触れたり手を繋いだり抱き締めたり、
ただ傍にいて声を聞いているだけでも、それはセックスだっていうこと」

ハボックが幾分ぞんざいに、かつ適当に繰り返した言葉を、天井を見つめながら
黙って聞いていたロイが、うわ言のようにぽつりと呟いた。

「電話は?」

「…はい?」

「電話でも、感じるか?」

ああ、蒸し返すんじゃなかった…。
今度はハボックが盛大に溜息をつく番だった。

「あんた、本当に身も蓋もないこと言いますね」

「何が?」

「電話でもやることやりゃ、感じるに決まってるでしょうが!」

「何をやるんだ?」

 

からかってる。絶対面白がってる。この性悪…。

こちらに向けられる真っ直ぐな視線を訝りながら、ハボックはどんよりとした
疲労を感じた。

 

「もういいっすよ。寝ましょう。お互い疲れてるんだから」

「いや、だから、電話で…」

「はいはい、じゅうぶん感じますよ!」

「…そうか」

どことなく腑に落ちたようなロイの表情に、別の意味でじれったさを感じる。

「あんたみたいな人でも、電話なんかで感じるんですか?」

「ん、いや、その…」

めずらしく口篭もる様子に、意趣返しのつもりでハボックはその先をねだった。

 

「二言三言交わしただけなんだ」

視線を再び天井に戻して、ロイは続けた。

「それでも、なんだか安心してね。ただ受話器を置いた途端、顔が火照って
どうしようもなかった。中尉が熱でもあるのかと心配して、誤魔化すのに苦労
したよ。例の誘拐未遂の件で、犯人の潜伏先に向かうところだったからな。
いや、あの時は参った」

 

…え。

それって…。

 

「俺が、電話した時、っすか?」

セントラルを出る前に連絡を入れたのだ。その時東方司令部は上を下への
大騒ぎで、外出間際の大佐が捕まったのは本当に幸運だったが、緊急事
態にゆっくり言葉を交わすことなどできなかった。

「…そういうことに、なるな」

ぷいと背けた顔の、頬から耳元までが、ほのかに染まっている。

 

なんだ。
この人だって、寂しくて、待ち遠しくて、たまらなかったんじゃないか。
電話の向こうで、俺を感じていてくれたんじゃないか。
会えなくても、触れられなくても、キスできなくても、抱き締められなくても。

もう、まったく、あんたって人は…!

 

「おまえは」

「はい?」

「何も感じなかったんだな、私の声を聞いても」

再び向けられた漆黒の瞳が、蒼い眼をじっと見つめている。

「え?う、嬉しかったっすよ、あったりまえじゃないっすか〜!」

アンナコトとかコンナコトがしたくてたまらなくてもうウズウズしてました!
なんて、口が裂けても言えない。

「やっぱり、しよう」

「…へ?」

「一回だけだぞ」

返事の代わりに、ハボックの力強い腕がロイを包み込む。
背中をさすって、頬を摺り寄せて、優しいキスが降ってくる。

 

 

遠く離れて感じ合うことも、肌を密着させて感じ合うことも、
互いを想うこころがあれば、それはどんな形をしていても、
ふたりの大事な時間であることに変わりはない。

 

でも今は、
からだを重ね合って感じ合うことが許されるこの時だけは、
ふたりだけにしかできないセックスを、思う存分味わおう。

 

 

 

 

 

**********
11/2/05
ハボロイ
最近はちゅうで収拾つくはずがないだろ!なバカップルでございます。
ロイは女性と長続きしないから「今日はダメなのv」なんて言われたことがない、
ハボはそれが嘘であってもなくてもこういうシチュエーションは何度も経験済み、
と、まったくもって自分の都合のいいように捏造しまくりました。
ロイが電話えちを知らんわけがないと思いますが。ま、お好きなようにとって下さい。
とはいえ、自分で書いてて、ととととっても恥ずかしくなりました。
でも勿体ないからアップップ。(貧乏性ですから。)
最近はどうやら羞恥プレイがマイブーム化?してるようです。日記とか…。

★おまけss★(ss頁からもリンクしています。)

 

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