いよいよラリーのスタートです。レイド部門のスタートは、全競技車両が出発した後です。同じ日本チームの2輪参戦者を見送り、4輪、カミオンがスタートした後、いよいよ私もスタートです。スフィンクスをバックにしながら、数年間の夢が現実のものとして、動き始めました。
スタート後は、SSスタート地点まで約60kmのリエゾンです。舗装路ですが、早速先生からラリーに於けるリエゾンでの走行の仕方及び注意点を教えて頂きました。その内容は、市街地と郊外での各々の走行方法や速度、また他の車両や人の追い越し方、危険物の避け方等にまで及びました。SSスタート地点到着後は、再び全ての競技車両の出発を待って、自分もスタートしました。
SSスタートは、軟らかい砂地です。最初、少しハンドルを取られながらも恐る恐るアクセルを踏みました。初めてのラリーですので、まずはコマ地図に記されているコーション1〜3(1 :注意2 :危険3 :大変危険)がどの程度のものなのか、またナビが伝える地形と距離情報について、その情報を理解するところからトレーニングは始まりました。
SSスタート後、それらの指示を1つ1つ自分の中で理解し確認するように、慎重に走行しました。スタートから約30km地点にて、早速目の前の視界をクリーム色の高いDuneにより遮られました。これは、今回のラリー参戦に於ける最重要課題であり、私はこの Dune越えのトレーニングの為に、このファラオに参戦したようなものでした。
最初は要領が分かりませんし、ラリー初心者にはレベルが高いとの先生の判断にて、私はシートポジションを助手席へと替え、先生からDune越えのテクニックについて教えて頂きました。先生は運転しながらアクセルワーク他、 Dune越えの一連の運転操作につき、分かり易く説明すると共に、軽々とその障壁を越えていきました。 “先生はそうやって軽々運転できるけれども、果たして自分はこの7日間の間に Dune越えをマスターできるかな…?” と、内心思っていました。
そんな不安を抱えながらも、初めての本格的な砂地での登りや下り走行が続き、その都度先生から言われる「踏んで踏んで。埋まっちゃうよ。」「ハンドル真っ直ぐ。エンブレのまま降りて。」等の指示を忠実にこなし、本コースを進んでいきました。
途中、競技車両のアウディが車両トラブルの為にコース上で止まっており、それを横目で見ながら通過しては暫くするとアウディに抜かされ…といった状況が数回繰り返されました。その後、アウディを目にしたのは、砂丘内でスタックし、脱出板を使いつつも抜け出せないで四苦八苦している姿でした。彼等はランチパックのスナックを片手に、砂と格闘していました。私達がアウディに近付くと、案の定、牽引して欲しいとの事で、彼等の脱出を手助けしました。しかし、結果的にはアウディを救出する事はできずに、後続のカミオンバレーに思いを託し、その場を離れました。
しかし次に嵌ったのは自分達で、丁度アウディがスタックしていた周囲は砂も重かったですので、程なくパジェロもスタックしてしまいました。タイヤ周囲の砂を掘り、またタイヤの空気圧を抜くも上手く脱出できず、更に脱出板を使用するもやはり脱出不能にて、結局私達もカミオンバレーにお世話になり、牽引ロープにて引いてもらいました。
この日のシートチェンジは数回あり、路面状況が変化しては暫く私が走り、その後先生の実践指導により走行方法を学ぶ、という事が繰り返されました。そういったトレーニングをしている間にCP1からCP4まで通過し、時刻も18時を回っていましたので、CP5は通過せずに舗装路へとエスケープし、初日のビバークに到着しました。
暗闇の中で、前方にピカピカと光る明かりを見つけた先生が、「あれがビバークだよ」と教えてくれた時には、その日1日の緊張感から少し解き放たれる思いがしました。
初日の実際の私の総走行距離は380km、SS 232km、走行時間は約9時間半でした。
10月3日〜STAGE 1 Cairo-Baharija
競技総走行距離 398.76km SS 340.13km〜
【 自分の夢が、現実のものとして時を刻み始めた日 】