■お話

  1975年4月、アメリカの支援する南ベトナムと、ソ連の支援する北ベトナム(ベトコン)の間のベトナム戦争は、終焉を迎えようとしていた。
  ベトナムの田舎娘だったキムは、17歳で家族を失い、家を焼かれ、首都サイゴンまで逃げてきた。そこで、フランス人とベトナム人の混血の通称エンジニアの経営する売春バーで働くことになった。
 最初のお客は、アメリカ兵のクリスだった。クリスは、戦争も何もかも嫌気がさしている状態だったが、戦友のジョンのおごりで、キムを買うことになった。キムとクリスは一晩だけの契りのはずだったが、お互いにひかれ、愛し合い始めた。【サン・アンド・ムーン】

  南ベトナムは、ベトコンの侵攻におされていたが、アメリカは、国内の厭戦気分の高まりもあり、ベトナムから撤退することを決意した。1975年4月30日、ついにサイゴン陥落。アメリカ軍は全面撤退する。クリスは、キムを連れて、アメリカに帰ろうとし、全ての手続きを終えていたが、サイゴン陥落の日の混乱で、ついに、キムに会うことができず、一人で帰国することになった。
 アメリカに帰国した後、3年たった。クリスは、ベトナムに残してきたキムのことを気にかけながらも、新しい生活を始めることを選び、エレンと結婚する。【今も信じてるわ】
  キムには、13歳の時に親が決めた婚約者トゥイがいた。トゥイは、ベトコンに寝返り、新政府のもとで、高い地位にのしあがった。トゥイは、執拗にキムを探し続け、ついに探しあてる。しかし、キムはトゥイとの結婚を拒み、そして、クリスとの間にできた子供タムがいることを告げる。逆上したトゥイは、タムを殺そうとした。キムは、やむをえず、トゥイをクリスが残していった拳銃で撃った。 【命をあげよう】 
 キムはエンジニアとともに、バンコクに逃げる。

 1978年9月、アトランタで、ベトナム帰還兵がベトナムに残してきた子供(ブイ・ドイ)の支援活動を行うための集会の場で、ジョンは、クリスに、キムがバンコクで生きており、子供がいることを告げた。クリスは、苦しむが、エレンとともに、バンコクに行くことを決意する。
 バンコクキャバレーで、キムはホステスとして、エンジニアは客引きとして働いていた。そこへ、キムを探しに来たジョンに会う。キムはジョンからクリスがバンコクに来ていることを知り、歓喜にうずに飲み込まれる。ジョンは結局、クリスに妻がいることを告げることができなかった。
 キムは、早くクリスに会いたい一心で、クリスの泊まっているホテルに出向く。そこには、キムを探すために、クリスもジョンも外出しており、エレンだけがいた。そして、キムは、クリスに妻がいることを知る。
 キムの夢は、たった一つ。タムを自由の国、アメリカに連れて行き、幸せな生活を送らせることであった。しかし、自分がいては、タムもアメリカに行けないことを悟り、自ら命を絶つことを決意した。