彼はバスタブにお湯を注ぎ始め、「さ、早くしないと、お湯がたまっちゃう」そう言って、部屋に

戻った。

 うーん、やっぱり追い詰められた。これはもう、ぱぱっと脱いでしまったほうが…。

 私はクローゼットの前で、彼に背中を向けて、帯を解き始めた。

「こっち向いて」彼の面白がっているような声がした。

「えと…」

「見たいんだ」

 決して厳しい声ではないのだけれど、逆らえない。

 私はうつむいたまま、彼の方を向いた。彼は黒いカウチに座って、脚を組み、私の方を微笑んで

見ていた。

 彼と私の間には、2m程の距離。この微妙な距離感も、かなり恥ずかしい。

 えーい、もう、どうせ脱ぐんだ。

 私はしゅるっと音をさせて、帯を解いた。

 汗ばんだ浴衣もざっと脱いで、白の着物用のスリップ姿になり、浴衣をクローゼットのハンガーに

急いで掛ける。エモンカケはさすがにない。

ショーツは履いてるけど、さすがにノーブラなんだよな。

彼には見えないよな、もう乳首が立ってるの…。

薄暗いからいいようなものの、足に残る虫さされの痕も恥ずかしい。

顔だけでなく、全身が火照ってくる。

「へえ、浴衣の下でも、そういうの着るんだ」

「着物用スリップ…あとはバスルームで脱ぐね」

「よく見せて」

「え…」

「こっちに来て」

 彼の声にひっぱられるように、私は彼の方に近づいていった。

ソファに座る彼の前に立ちつくす。

彼の顔を見ることができなくて、うつむいたまま顔が上げられない。

と、彼がす、と手を動かして、スリップ越しに私の右の乳房を撫でた。

「あっ…」ぞくり。

やだ…ばれてたんだ、乳首が立ってるの。

 この分では、ショーツの中が湿っているのも、ばれているのかもしれない。

「それも脱いで」

 もう逆らえない。

 逆らっても無駄だ。

 スリップを脱いでそれで胸を隠したが、それは彼に取られてしまった。

「全部脱いで」

 私は黙って彼の言葉に従った。

 逆らえない、のじゃないのかもしれない。

 私が彼の言うとおりにしたい。

 この美しい人に、思い通りにして欲しい。

 うつむいていても、彼の焼け付くような視線が全身を這っているのが判った。

「とても、キレイだよ」彼の言葉にびくん、全身が震えた。

「…早乙女くんのが…キレイだよ」

 彼は笑って立ち上がった。「そんなことない」

 いきなり強く抱きしめられ、私は硬直する。

「だって、ほら」下腹に、堅いモノが押しつけられる。

「すぐ行くから、先に風呂入って」

 私は小さく頷いて、バスルームにぎくしゃくと駆け込んだ。一旦ドアにロックをかける。溢れそうに

なっていたバスタブのお湯をとめ、動悸を押さえながら、急いでトイレを済ます。シャワーで念入りに

股間を洗ってから、ロックを外した。バスタブに飛び込む。お湯はぬるめだった。

 そこでやっと、息が吐けた。

 お湯を満たしたバスタブに、床からの間接照明が反射して、天井にゆらゆらと金色の模様を描く。

 彼はすぐに入ってきた。すでに全裸だ。

 いい体だよな…と、私はシャワーを浴びる彼に見とれる。細身なのに、しなやかな筋肉がまんべんなく

全身を覆っている。彼も自分の体に自信があるのだろう、私と違って、視線に臆することななどない

…体の中心に屹立しているモノも含め。

 彼の躰にも、ゆらゆらと、金色の光が動く。

「お待たせ」彼がするり、とバスタブにすべりこんできた。「ここにきて」

 彼はバスタブに寄りかかって座り、長い脚の間に来るように私を促した。私は素直にそこに座り、

彼の胸に寄りかかった。尻に、堅いモノが当たる。

 背後からやんわりと抱きしめられた。

 欲しかったぬくもりが、過剰なほどに私を包んでいる。

全身が、甘い痺れに包まれる。

「会いたかった…」聞こえなくてもいいや、ってくらいの小さな声で呟いてみた。

なのに彼は耳ざとく、「…俺も。すごく」そう言って私を抱く手に力をこめ、肩先にキスをくれた。

 彼も私と同じ思いを抱いていたということを知って、せつない痛みで胸がいっぱいになる。

「ごめんね、毎日病院いってるから、携帯も通じないこと多いと思う」

「あ、うん、そうなんじゃないかと思ってた」

「明日と明後日は、お袋が外泊で一旦うちに戻ってくるから、携帯は通じやすくなると思うけど」

「そうなんだ、お母さん具合いいの?」

「よくはないけど」彼は苦笑して「今のうちだからさ、帰ってこれるのも」

「そっか…」やはり悪いのか…。「私のことは全然気にしないでいいから、十分親孝行して」

「気にしないわけにはいかないよ」細い指が私の脚から胸、胸から腹と、自在に這い回る。

「気になっちゃうんだから」

 気になっちゃうって、それって…私のこと…。

 私のこと、本当のとこ、どう思っているの?

 そんな台詞が、のど元まで上がってくる。

 でも、訊けない。

 訊いてはいけないような気がする。訊いた瞬間に、彼は手の届かないところに離れていくような

気がして。

…飛んでいっちゃうかも…。

 彼が転校してきたての頃の、屋上での光景を思い出していた。私はあのとき、彼の背中に

天使の翼の幻を見た。

 繊細な手の動きに、思考が乱れる。

 彼の手がいきなり私の脚の間にに這い込んだ。

「あっ…」

「お湯の中でもわかるくらい濡れてる」彼がピアスごと耳たぶを甘噛みしながら囁いた。

「やだ…」

 いつの間にか、彼の脚が私の脚をがっちりホールドしていて、大きく広げられていた。彼の片手は

私の乳房を揉み、片手は谷間を静かに動き、唇は耳から首筋を這い回る。

 ゆるゆるとした快感に段々ぼおっと意識が遠のいてきた。

「のぼせちゃうね。おいで、洗ってあげる」

 ああ、のぼせかけてたのか。

 私は言われるがままシャワーの下に立ったが、軽く立ちくらみがして、黒い壁によりかかった。

「大丈夫?」

「あ…うん、平気…ちょっと立ちくらみしただけだから」

栗色の深い瞳が私を覗き込んだ。「ほんとに?」

 この顔が至近距離にあると、まだかなりどぎまぎする。

「だ、大丈夫だよ」

「じゃあ」そのまま壁に押しつけられた。すっと顔が近づいてきて、唇が触れ合った。彼の舌が強引に

私の口の中に入ってきて、上あごや唇の裏側の敏感な部分を舐め回した。

「んっ…」声が漏れるのが押さえられない。閉じた瞼の裏にぱあっと赤い幕が広がる。

 その時、股間に強い刺激を感じて、私は思わず腰を引いた。

 慌てて唇をもぎ離し下を見ると、シャワーが押しつけられていた。

「逃げないで」彼は私を肩で壁に押しつけて、にやりと笑った。

「それ…強すぎる」お湯の中で、繊細な手ですっかりとろかされた躰は、とても感じやすくなっていて、

すでに息が上がっていた。

「じゃもう少し弱くしてあげるから」彼は私を押さえつけたまま、マッサージモードになっている

シャワーの水流を少しだけ弱めた。

「これで、どう?」

「あっ…」

 確かに勢いは弱くなったが、水流がモロに敏感な突起をとらえた。

「や…あっ…」がっちりと彼の全身で壁にホールドされているので、腰を引くことすらできない。

「痛い?」彼の囁きは相変わらずこまめに私の耳たぶをとらえる。

「…痛くはないけど…強烈…」

「いいでしょ?」

「いいけど…」

「けど?」

「…これじゃ…すぐいっちゃうよぉ」もう腰ががくがくしているのだ。彼のホールドがなければ、

とっくに崩れおちていただろう。

「いっちゃっていいんだよ、いくとこ、見たい」

「やだぁ…恥ずかしいぃ」

重力の感覚が薄れてきて、私は彼にしがみついた。びくびくと、全身に制御できない痙攣が起きる。

「あっ…あ…いや…あっ…」

 だめだ、もう…。

 飛んだ、と思った瞬間、私は壁に向かって裏返され、熱い棒が後ろから一気に突き入れられた。

「ああっ」

 更に高い波に持ち上げられる。

 突かれるたび、悲鳴のような声が出てしまうのが押さえられない。

「くっ…」小さく彼のうめき声がして、一気に引き抜かれた。

 朦朧とした視界の隅、バスルームの床に白い液体が飛び散るのが判った。

 ああ、そっか、外に出してくれたんだ…さすが、というか、なんというか…何でもできるのね、

というか…。

 その後、彼は優しく私の全身を洗ってくれて、バスタオルにくるんでバスルームから出してくれた。


                                NEXT   作品目次へ

樹下の天使3−3A