雁渡し

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俳句


菰樽に 信濃の地酒 雁渡し

雁渡し 鳥居に望む 穂高かな

奥社抱く そばだつ山や 雁渡し

千年の 杉の鼓動や 雁渡し

雁渡し 塩街道に 道祖神
 

安曇野の わさび育む 雁渡し

雁渡し アルプス画布に 烏城

戸隠の 古道は清し 雁渡し

千年杉 神へ禊ぎと 雁渡し

雁渡し 一茶の句碑に 陶蛙(すえかわず)

 

季語について

 

 

俳句にまつわる話


 10月19日(土)の栄句会の季語は<雁渡し>でした。

 渡り鳥は、酷寒のシベリヤから秋の日本に渡ってきて、
日本で冬を越します。
これを俳句の季語では、<鳥渡る>と言います。

 そして、日本で冬を越し春になると、
故郷のシベリアに帰って行きます。
これを俳句の季語では、<鳥帰る>と言います。

 今回の季語である<雁渡し>は、
渡り鳥である雁が日本に渡ってくる頃に吹く北風のことで、
この風が吹くと、一気に秋らしくなります。
いわば秋を実感させる風で、
清々しい気持ちになると同時に、寂しさも感じさせてくれます。

 奥社抱く そばだつ山や 雁渡し

 戸隠神社の奥社を詠んだ句です。
そばだつ山とは、切り立った山のことで、
戸隠神社は、今でこそ観光用に道が整備されていますが、
その昔は、人を寄せ付けない山岳宗教の聖地でした。

 人を寄せ付けない厳しさがあるからこそ魅力があります。
苦労してやっとたどり着いたご褒美のように、
神聖で心洗われる凛とした気持ちにさせてくれるのでしょう。

 千年の 杉の鼓動や 雁渡し

 戸隠神社の奥社までは、歩いて30分くらい、
両側には巨大な杉の並木道があり、奥社まで誘導してくれています。
その道を歩いている時、
修験ツアーかなにかの、うら若き女性たちが、
案内人に導かれて、千年杉に手を当てている姿を見ました。

 今流行のパワースポット巡りなのかもしれません、
それは、まるで木からパワーをもらうように、
杉の鼓動を聞いているように感じられたので、
詠んだ句です。

 千年杉 神の禊ぎと 雁渡し

 最後の10分程は私にとっては、
結構きつい坂や階段が続き、
息を切らしながら登りきると、
長い行列があいました。

 それは奥社の御手洗に並ぶ人の列でした。
お詣りをする前には、御手洗で手を洗い、
心を清めるのが礼儀と
思っている日本人が多いためでしょう。

 私たちはそれと知って、そこを素通りしましたが、
自分は何のために並んでいたのか
わからない人もいたみたいです(*^_^*)。

 また、御手洗の先の奥社の拝殿の前にも長い列があり、
そこには、2列に規則正しく並び、整然とお参りしていました。
その姿を見て、さすが日本人だと思ったものです(*^_^*)。

 戸隠の 古道は清し 雁渡し

 戸隠のシャトルバスで鏡池に降り、
奥社まで約2kmの戸隠古道を歩きました。
30分程ですが、山の中を自然を感じながら歩くことができ、
清々しい気持ちで歩ることができ、疲れを感じませんでした。
ここはお勧めの散策路で、紅葉の時はさらにすばらしいと思います。

 山道ですれ違う人と挨拶をする、
これがマナーであることは知っていますが、
なかなか見知らぬ人に挨拶をするのは、勇気のいることです。
でも、ここでは自然に挨拶ができのは、
閉じた心を開かせる、そんな力があるのでしょう。

 雁渡し 一茶句碑に 陶蛙 

 長野の小布施にある岩松院(がんしょういん)は、
小林一茶が
『やせ蛙 まけるな一茶 ここにあり』と詠んだ場所です。

 小林一茶は、江戸時代の有名な俳人ですが、
親族との骨肉の相続や、妻や子供を亡くなどの
さんざんな人生でした。
やせ蛙にきっと自分の姿を重ね、頑張れと応援していたのでしょう。

 そんな人生とは対照的に
一茶の代表的な句は、

 『雪とけて 村いっぱいの 子どもかな』
 『雀の子 そこのけそこのけ お馬が通る』
 『やれ打つな 蝿が手をすり 足をする』
 『名月を とってくれろと 泣く子かな』

のように、ユーモアあふれる明るい句が代表句となっています。

 

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