万緑

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俳句


今生の この万緑の 一会かな

万緑や ちやほやされて 嬰太る

万緑の 島へ宙から 里帰り

万緑の 小川たゆたふ 笹の舟

万緑や 希望の像は 手を広ぐ

 

万緑や 輪廻の果ての 今の生

万緑や 初髷力士 奮闘す

万緑に 立つや愁ひを 持ちしまま

万緑や 親子芝居の 第二幕

万緑や 滴残して 雨上がる
 

 

季語について

 

 

俳句にまつわる話


 万緑とは、辺り一面が草木の緑に覆われた状態を言い、夏の季語です。

 万緑はもともとは俳句の季語ではありませんでしたが、
近現代の俳句を代表する名句中の名句である、
中村草田男の次の一句により、俳句の季語として定着しました。

  万緑の中や吾子の歯生え初むる (中村草田男)
      吾子=あこ。我が子のこと。
      初むる=そむる。生え始めること。

 中村 草田男(なかむら くさたお)1901年(明治34年)7月24日 〜 1983年(昭和58年)8月5日)


 万緑に 立つや愁ひを 持ちしまま

 季節は万緑となり、生命の喜びであふれていたとしても
自分の心の中には常に心配ごとがあり、愁いはあるものです。

 でもその愁いはそのままにして、
万緑の今を、楽しみながら生きて行きたいとの、思いを込めた句です。
そして、これができれば人生の達人となれますが、
私の如き凡人には、いくつになっても、その境地になれないものです(*^_^*)。

 でも誰にも愁いはあり、心配ごとがあるものだと知ると安心に繋がります。
例え大スターであっても、宗教家であっても、完全な人はいない、
誰でも同じような悩みを持っていると思えばしめたものです。
気楽に生きて行けます(*^_^*)。

 
 万緑や 輪廻の果ての 今の生
 今生の この万緑の 一会かな

 輪廻転生とは、人が生まれ変わり、死に変わりし続けるという仏教の教えです。
「輪廻」は車輪がぐるぐると回転し続けるように、人が何度も生死を繰り返すことを指し、
「転生」は生まれ変わることで、一般には輪廻転生という熟語で表されます。

 その教えを信じるかどうかは別にして
人は死んでからのことはわかりません。
だから、実は何度も生まれ変わって、今の生があるのかもしれませんね。
ひょっとしたら、人は死ぬ時、生前の記憶が抹消されるため、
生まれ変わっていても分からないかも知れません。

 まあこの世の中は不思議なことが一杯あり、
今の人間には理解できないことや、わからないことが多くあります。
でもたとえ何度目かの生であっても、今この時の万緑は一期一会ですから、
大切にして、この時を楽しんで行きたいものです。

 万緑や 小川たゆたふ 笹の舟

 <たゆたう>とは、(1) ゆらゆらと揺れ動いて定まらない。
(2) 気持ちが定まらずためらう。心を決めかねる。とあります。

 小さな笹舟が、水に身を委ねるように揺れる姿は、
自分の心のようでもあり、もっと言えば、
自分の人生は、水にたゆたう笹舟のようなものかもしれません。

 万緑の 島へ宙から 里帰り

 国際宇宙ステーションで、
日本人初の船長を務めた若田光一さん(50)が五月に帰還しました。
このニュースを句にしました。
宙(そら)は宇宙の意味です。
 

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