秋扇

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俳句

卓袱台に かつて父の座 秋団扇

海らしき 孫の落書き 秋団扇

お立ち台 踊るバブルや 秋扇

秋扇 身振り大きく 女形(おやま)舞ふ

ペン立てに 必勝文字の 秋団扇
 
経終へて 寄進話の 秋扇

湯上がりの 将棋崩しや 秋団扇

舞終へて おひねり受くる 秋扇

七十路の 母の白塗り 秋扇

道産子の 妻の離さぬ 秋団扇
 

 

季語について

 

 

俳句にまつわる話


 秋扇又は秋団扇は、残暑に使う扇や団扇のことで、秋の季語です。
本来扇や団扇は夏の季語で、それが秋になって、
使われなくなった扇や団扇には、一抹の淋しさがあります。
又、そんな意味から、古来より秋扇は、
寵愛を失った女性を意味する言葉としても使われています。

 卓袱台に かつて父の座 秋団扇

 日本住宅の中でなくなったものに、
縁側、座敷、床の間、茶の間などがあります。
その中で茶の間は、TPOに応じて、
食事室にも居間にも寝室にも変化する日本独特のものですが、
それは和室特に畳の持つ、特性故のものでした。

 ただ、それは裏を返せば、かつてうさぎ小屋と言われいた
狭い日本住宅のせいで、
TPOに応じて転用せざるを得ない事情があったためでもあります。

 昔の家には茶の間があり、卓袱台があり、
一家団欒の食事風景がありました。

 卓袱台には、それぞれに座る場所が決まっていて、
その中心に父の座がありました。
でも、いつしか父の権威は失われ、
怖い頑固親父から、やさしい父親に変わっていきました。

 家族の崩壊は、父の権威の失墜が原因の一つであり、
それは学校教育(先生の権威の失墜)にもいえることです。

 海らしき 孫の絵のある 秋団扇

 私の孫は今は一歳にも満たないので、
これは近い将来を思って作った句です(*^_^*)。

 夏休みに孫が来て、団扇にクレヨンで何か描いてある、
何が描いてあるか分からないが、ひいき目に見れば、
夏の日に行った海の思い出の絵のようにも見えます。

 孫がいた喧噪の日々は過ぎ、今は静かな二人だけの日常に戻っている老夫婦、
団扇に描かれて孫の落書きを見ながら、喧噪の日々を懐かしがっている、
そんな老夫婦の寂しさを描いて見ました((*^_^*)

 秋扇 身振り大きく 舞ふ女形
 舞終へて おひねり受くる 秋扇

 温泉宿に旅芸人の一座。
股旅ものの寸劇の後は、歌謡ショウ。
演歌に合わせて身振り大きく舞う女形、
そして踊りが終われば忽ち、
その舞扇はおひねりを受けているという、そんな風景です。

 七十路の 母の白塗り 秋扇

 母は年老いてから、地元の公民館活動で踊りを習っていて、
仲間との時間が生き甲斐でした。
その発表会の舞台で、演歌に合わせて舞う母が
今でも瞼に焼き付いています。
 

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