十六夜

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俳句

十六夜や 灯の煌々と 摩天楼

酢の倉の 卯建浮立つ 十六夜

こだわりの 屋台の麺屋 十六夜

蔵使ふ 店の盛り塩 十六夜

十六夜や 装丁淡き ごん狐
 
百年の 酢倉天心 十六夜

単線の いざよふ月を 過ぎりけり

信号の たびにいざよふ 月眺む

十六夜や 鋸屋根の 工場跡

酢の街へ 架かる大橋 十六夜
 

 

季語について

 

 

俳句にまつわる話


 旧暦8月15日の月は仲秋の名月
(今年の仲秋の名月は9月8日でした)で、
十五夜といい、その次の日の月を十六夜といいます。

 十五夜より月が出るのが遅く
「いざよい(ためらい)」ながら出る感じから、こう呼ばれています。
そして十六夜の後は、「立待月」「居待月」「寝待月」と続き、
月の出がだんだんに遅くなり、
「立って待っている」と、「居て(座って)待っている」と、
「寝て待っている」と月が出るので、
このような名前になりましたが、風情がありますね。

 十六夜や 摩天楼の灯の 煌々と

 名古屋の高層ビルに十六夜がかかっているのを読みました。
夜遅くなっても働き蜂は仕事をし、
高層ビルには煌々と灯りが灯っています。

 摩天楼に懸かる月は都会に、
幻想的で、異次元な雰囲気を醸し出します。

 働き蜂には月を愛でる余裕などはないでしょう。
でも懸命に働き、余分なことを考える暇がないことは
ある意味幸せなことかもしれません。
私は現役の時はゆとりがほしい、暇がほしいと思っていましたが、
いざ暇ができると、あの時の充実感や緊張感がほしくなります。
人間ってわがままですね。

 酢の倉の 卯建浮立つ 十六夜

 卯建(うだつ)とは、火災の延焼防止のために
隣家との境界壁の上に取り付けるものです。
 <うだつがあがらない>という諺があり、
甲斐性がない人のたとえですが、
卯建を作るにはお金が掛かったためです。

 卯建は防火用に白い漆喰で作られていますが、
それが十六夜によって浮き立つように見えた景を詠みました。

 蔵使ふ 店の盛り塩 十六夜

 今はスポーツクラブに通っていますので、
夜に散歩することはなくなりましたが、
以前の散歩コース(60分コース)には、
ミツカン酢の酢倉と運河が含まれていました。

 その倉庫群の端っこに、土蔵造りの蔵を利用した
料理屋があります。なかなか良い雰囲気なので、
散歩の度に、中の様子を窺うのですが、
何も見えないし、何も聞こえません。
ただ、店の前にはいつも盛り塩がしてあり、
上品な雰囲気を醸し出しています。

 十六夜や 鋸屋根の 工場跡

 私は蒲郡の出身です。
蒲郡は、繊維で栄えた町で、紡績工場が一杯ありました。
かつては、女性の人口の方が多いと言われていましたが、
その栄光もすでに過去のものです。

 鋸屋根とは、天窓から光を取り入れる
紡績工場独特の作りで、
その朽ち果てた姿が、かつての栄光を偲んでいるようで哀れです。

 

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