尺取虫

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俳句

尺取りの 生まれ変はりて 忠敬に

尺取りの ごとく忠敬 国測る

尺取りの 見事小枝に なる夕べ

尺取りの 小枝となつて 息殺す

尺取りの 十字懸垂 して小枝
 
尺取りや 進化の果ての この動き

身を守る 術や尺取り 変身す

尺取りに 土瓶落としの 異名あり

尺取りや 無名なること 愉しみぬ

尺取りの 伸びて縮んで 前進む

 

季語について

 

 

俳句にまつわる話


 シャクトリムシ(尺取虫)は、
シャクガ科のガ類の幼虫で、特徴のある歩き方
(自分の身体全体で寸法を測ったいるような)に愛嬌があります。

 尺取虫は大人になってからは見ませんが、
子供の頃には、尺取虫に限らず
いろいろな虫がいるのが普通の風景でした。

 ただその習性や、特性はほとんど知らなかったので、
俳句を作るために、ネットで調べました。

 なぜ尺を取るように動くのか?
それは、きっとダーウィンの進化論よろしく、
長い時間の間に尺取虫が生存するのに一番相応しい形に
変わって行ったためなのでしょう。

 尺取りの 進化の果ての この動き

 生存の為といえば、尺取り虫は
色を変えたり、小枝になったりと、
変幻自在に変身ができます。
これもまた身を守るための術ですね。

 小枝になると言っても、生半可なものではなく、
完璧なるプロの為せる技です。
あまりにも見事な小枝なので、
人がこの枝に土瓶をかけ、その土瓶が落ちて割れてしまったことから、
<土瓶落とし>の異名があるくらいです。

 弱いものには、弱いものの生きる知恵があり、
神が与えた武器があるものです。

 尺取りの 見事小枝に なる夕べ
 尺取りの 小枝となつて 息殺す
 尺取りの 十字懸垂 して小枝
 尺採りに 土瓶落としの 異名あり
 身を守る 術や尺取り 変身す

 尺取虫からイメージを膨らませていくと、
私は江戸時代日本地図を作った伊能忠敬に行き着きました。
伊能忠敬は、五十にして家督を息子に譲り隠居し、
一念発起し測量を学び、
五十六歳で日本中を歩き回り、日本地図を作りました。

 そのころは、今のような測量機器があるわけではなく、
星の位置で距離等を計算していましたが、
歩測(自分の歩幅から距離を割り出す)も
重要な役割を担っていました。

 五十にして、未知なる世界に一から挑戦する。
その向上心や意欲は尊敬すべきもので、
私も見習いたいと思っていますが、
なかなかできることではありませんね。

 特に、江戸時代の平均寿命は40歳程度だったことを
考えると、なおさらです。

 尺取りの 生まれ変はりて 忠敬に
 尺取りの ごとく忠敬 国測る


 

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