夜店

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俳句

当たりても 落ちぬ夜店の 射的かな

夜店にも 不易流行 ありにけり

B級の グルメの増ゆる 夜店かな

面売りの 香具師は強面 夜店の灯

競ふかに 夜店の準備 始まりぬ
 
序破急の ありて夜店の 一ト日終ゆ

夜店の灯 傷痍軍人 見し記憶

眸の合ひし ひよこ不憫と 買ふ夜店

奉納の 幟高々 夜店立つ

五七なる 寅の口上 夜店の灯  

 

季語について

 

 

俳句にまつわる話


 夜店から思い浮かぶイメージを、
少年の頃の体験から考えてみました。

 夏の夜、お祭り、縁日、浴衣、金魚掬い、
ヒーローのお面、ヨーヨー釣り、
カーバイトの匂いとアセチレン瓦斯の灯。

 最近の夜店は食べ物屋が多いけど、
私が少年だった頃(50年以上も前のこと)には、
今にはなかったもの、例えば見世物小屋のような
ものがあり、
夜店も時代と共に変わって来ていることを実感しています。

 見世物小屋は、今なら絶対に差別とか虐待で問題になるもの、
たとえば小人とか、奇形とか、身体的な特異な特徴を使って、
お金をとって見せていました。
ずいぶん前の映画「エレファントマン」の世界です。

 それはおどろおどろしき、江戸川乱歩の描く世界、
まか不思議で、異次元の世界でした。
そんな世界は、少年の私にとっては怖いけど、
ものすごく好奇心をかき立ててくれる世界でした。

 怖いといえば、傷痍軍人も怖かった。
今の人は、映画やドラマの世界の話になってしまいましたが、
私の小さい頃は、人がたくさん集まる所に出没していました。

 腕や足を失ったり失明した男性が、
白衣を着て、兵隊の帽子を被り、
アコーディオンを弾いて、物乞いをしていた。

 あの当時は、傷痍軍人が何を意味するのかよくわかりませんでしたが、
それだけによけいに怖かった。
避けて、目を合わさないように歩いているだけでなく、
駅前とか、人の集まる夜店などにいると思っただけで、
自然と足が遠のいたものです。

 夜店の灯 傷痍軍人 見し記憶

 夜店の定番といえば、今も変わらず、
金魚掬い、ヨーヨー釣り、射的、輪投げなどですが、
私の子供だった当時は、ヒヨコを売っていました。
買ったことは覚えていますが、
どのように世話をしたとか、
その後どうなったかは、さっぱり記憶にありません。

 目の合ひし ひよこ不憫と 買ふ夜店
 縋るよな 目をしたひよこ 買ふ夜店
 当たりても 落ちぬ夜店の 射的かな
 理屈とは 違ふ夜店の 金魚かな

 夜店の食べ物は昔からの
たこ焼き、お好み焼き、焼きそばもありますが、
昨今では、カタカナの名前の食べ物が増えたり、
ご当地のB級グルメも多くなってきました。

 夜店にも 不易流行 ありにけり
 B級の グルメの増ゆる 夜店かな

 昔から私はたこ焼きは大好きで、
名前の<たかゆき>から<たこ>
というあだ名で呼ばれていたこともあります。
最近は、コンビニで冷凍ものを買って食べますが、
安くてほんとうにおいしいです。

 それに引き替え、6個500円の夜店の
たこ焼きはどうなんでしょうか?
値段は夜店価格だから仕方はないとしても、
せめて、味だけは頑張ってほしいものです。
ひどい時は、たこが入っていないときもあります、
蛸なしのたこ焼き、これはまさしく詐欺でしょ(;>_<;)。

 見せ蛸を 高々積みて 夜店かな
 見せ蛸の これ見よがしの 夜店かな

 夜店、露店といえば、「フーテンの寅さん」で、
お決まりの口上が聞こえて来るようです。
口上を述べて商品を売ることを、啖呵売りというのだそうです。
そういえば、昔は路上でバナナの叩き売りや
蝦蟇の油売りもありました。

 五七なる 寅の口上 夜店の灯
 寅さんの 振られて終はる 夜店かな
 

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