冷奴

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俳句

冷奴 昭和のドアを 開く鍵

冷奴 名脇役の 葱生姜

夕暮に 馴染むラッパや 冷奴

冷奴 いらちな竜馬 国洗ふ

冷奴 江戸の庶民の 馳走かな
 
舟歌の 流るる酒場 冷奴

崩しつつ 妻の愚痴聞く 冷奴

口聞かぬ 喧嘩続くや 冷奴

鳴くまでは 待てぬ信長 冷奴

塊を 崩す快感 冷奴

 

季語について

 

 

俳句にまつわる話


 冷奴は、説明するまでもなく、日常的で、
誰でもすぐに思い浮かべることができます。
だから簡単に句もできそうに思えますが、
誰でも経験をしている故に、同じような句が多くなってしまいがちです。

 私はありふれた句ではなく、
他の人とはひと味違う句を作りたいと常日頃から考えています。
そんなわけで、今回も冷奴からいろいろとイメージを膨らませて、
連想ゲームのように句を作ってみました(*^_^*)。

 例えば、冷奴はすぐにできることから、
せっかちな人に向いている料理であると考えました。
そして、せっかちな歴史上の人物にはどんな人がいたか?と
考えをめぐらしていきました。
そんな中で私が最もせっかちな人物と考えたのは、織田信長です。

 郷土の産んだ三英傑のホトトギスの句、
それぞれの人物像が如実に表れて面白いですね。

 鳴かぬなら 殺してしまえ ほととぎす(信長)
 鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ほととぎす(秀吉)
 鳴かぬなら 鳴くまで待とう ほととぎす(家康)

 そこで一句。
 鳴くまでは 待てぬ信長 冷奴

 土佐弁でせっかちなことを<いらち>と言いますが、
坂本竜馬もいらちな男で、自分の夢の実現を
目の当たりにして、若くして逝ってしまいます。

 冷奴 いらちな竜馬 国洗ふ

 豆腐は信長の生きた時代にはなく、
江戸時代に発明されたそうですが、
最初の頃は高価で、庶民はなかなか口にすることができず、
何かの祝いとか、特別の日のものだったようです。

 冷奴 江戸の庶民の 馳走かな

 冷奴は豆腐、豆腐といえば京都、
京都でも特に南禅寺の豆腐は有名で、
界隈は豆にこだわる老舗ぞろいです。

 そして南禅寺といえば、その山門に登り「絶景かな」と
叫んだ石川五右衛門が有名で、彼は釜茹の刑に処せられました。

 釜茹の 熱さ思ふや 冷奴
 五右衛門は 釜茹の刑 冷奴

 京都といえば、一見さんお断りの老舗の料亭があり、
歴史がそこで作られました。
忠臣蔵の大石内蔵助もその一人で、
料亭「一力」で世間の目を欺くために、たわけを装ひ、
昼行灯と馬鹿にされながら豪遊をしていました。
その時の大石はまさに臥薪嘗胆の気持ちだったのでしょう、
その甲斐あって、やがて本懐をとげて、おおいに名を上げます。

 一力に たわけ装ふ 冷奴
 一力に 遊ぶ大石 冷奴

 冷奴は酒のつまみ。
すぐに出てくるから、せっかちな酒飲みには重宝がらています。

 居酒屋の まずは枝豆 冷奴

 場末の居酒屋の口取りにでる冷奴。
映画「駅」での、高倉健と居酒屋の女将、
倍賞千恵子を思い出します。

 舟歌の 流るる酒場 冷奴
 冷奴 少し陰ある 女将かな

 冷奴に薬味は必需品、薬味によって
主役(豆腐)の味は決まります。
家によって薬味はいろいろあるみたいで、
私は葱や生姜、たまに山葵ですが、
父は辛子豆腐が好きでしたし、天かすをかけたり、
厚揚げを載せるのも良いと聞きました。

 冷奴 名脇役の 葱生姜
 脇役に 映画は決まる 冷奴
 新妻の 魔法の薬味 冷奴

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 冷奴 昭和のドアを 開く鍵
 崩しつつ 妻の愚痴聞く 冷奴
 口聞かぬ 喧嘩続くや 冷奴
 

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