しめぢ

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俳句

病床の 子規の日記や しめぢ飯

漱石の 妻の忍耐 しめぢ汁

よそ行きの 顔して売らる しめぢかな

恙なく 過ごす幸せ しめぢ汁

英国の 名もなきしめぢ 反乱す
 
子規支ゆ 律の献身 しめぢ汁

しめぢ飯 第二芸術 とて宝

しめぢ茸 見目良き順に 売られ行く

しめぢにも かつては高き 志

平凡に 暮らすも努力 しめぢ茸

 

季語について

 

 

俳句にまつわる話


 正岡子規は肺結核から脊髄カリエスを患い
34歳の若さでなくなりました。
 彼は俳句や短歌を現代に蘇らせた人として有名です
俳句は江戸時代の芭蕉の時代にピークを迎えますが、
その後は衰退の一途をたどり明治に至ります。
 その俳句を蘇らせるために改革をして、
今のような俳句の形にしたのが子規で、
そのため現代俳句は子規に始まると言っても過言ではありません。

 死の前の七年間は病床に寝たきりであった子規の楽しみは食事で
彼の病床日記(病床六尺)には、毎日(朝昼晩)の食事の献立が書いてあります。
病人なのにこんなに食べるの?と子規の健啖振りに驚かされますが、
ある意味、食事をすることが彼にとっての
生きている証しであったのかもしれません。

 柿食えば 鐘がなるなり 法隆寺

 これは有名な子規の俳句ですが、
こんな句ならだれでも読めし、一体どこがいいのか?と
言われそうですが、
普通のことを普通の言葉で表現するという、
この写生法が革新であり、
形骸化した言葉の遊びに終始していた俳句を
身近な題材を読むことによって、
大衆のものとしたことが子規の功績です。

 病床の 子規の日記や しめぢ飯

 NHKの土曜日の夜、4回に渡って
ドラマ「漱石の妻」があり、毎回楽しく見ることができました。
妻の側から見た漱石像であるため、
今までの漱石とは違う漱石を見ることができました。

 神経質でかんしゃく持ちですぐに家族に当たる、
イギリス留学の後遺症である不安神経症から胃潰瘍を患い
それも重度で、何度も吐血を繰り返し、死の淵を何度も見ました。
 その自分勝手なふるまいは明治の人間といえばそれまでですが、
あまりにも妻が可哀想で、
その耐えて耐えている姿は悲壮ですらありました。
そのあまりの理不尽に自殺を計ったこともあります。

 最後はハッピーエンド風に終わりますが、
果たしてその妻の忍耐は報われたのでしょうか?

 占地(しめじ)を擬人化して見ました。
そうすると、エリートで上級階級である松茸と、
それに対してしめじは、下流の虐げられて、
声もあげることができない人にたとえることができる気がしました。

 英国のEU離脱は、今年最もびっくりさせられた出来事の一つですが、
それはもの言わぬ下流の<しめぢ>の反乱だったとも言えます。
 英国の下流にいる人々は、東欧からの移民によって
自分の仕事がなくなり、EUの移民政策に不満を持っていました。
普段はものを言わぬ、そんな人達の力を甘く見ていたためのショックでした。
 これも一つの民主主義、良い悪いは別にして、
そういう時代であることは知るべきです。

 そしてアメリカ大統領候補のトランプ氏に吹いている風も
名もなき人(しめぢ)が吹かせている風です。

 世界でもっとも豊かなアメリカは、
ものすごい格差社会であり、下流の中にもさらに格差があります。
そんな格差にあえぐしめぢ達の、エリートに対する反乱が
トランプ現象となっています。
トランプ氏の発言の異常さは、今のアメリカの異常さでもあるわけで、
たとえ彼が大統領にならなくても、
根は深いものがあります。

 トランプの 風はしめぢの 吹かす風
 英国の 名もなきしめぢ 反乱す

 幸せとは平凡に暮らすこと、普通に暮らすことです。
でも、その平凡がむつかしい。
何もしないで幸せは来るものではなく、そこには不断の努力が
必要です。

 平凡に 暮らすも努力 しめぢ茸
 平凡に 暮らす非凡さ しめぢ茸

 スーパーに並べられているしめぢ。
その姿をちょっとユーモアを込めて描いてみました.

 よそ行きの 顔して並ぶ しめぢかな
 しめぢ茸 見目良き順に 売られ行く
 売れ残る しめぢになぜの 一夜かな
 売れ残る しめぢに辛き 一夜かな


 

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