日々の思い
<h18.1.26> |
新川和江(2) |
1929年、茨城県生まれ。15歳の時、西条八十に師事する。53年に第一詩集『睡り椅子』を出版。詩集に『ローマの秋・その他』(室生犀星賞)、『ひきわり麦抄』(現代詩人賞)、『星のおしごと』(日本童謡賞)、『けさの陽に』(詩歌文学賞)など多数ある。83年には「現代詩ラ・メール」を創刊した(93年に終刊)。2000年、勲四等瑞宝章受章 彼女の詩で一番好きなものを紹介します。 「わたしを束ねないで」 わたしを束ねないで あらせいとうの花のように 白い葱のように 束ねないでください わたしは稲穂 秋 大地が胸を焦がす 見渡すかぎりの金色の稲穂
わたしを止めないで 標本箱の昆虫のように 高原からきた絵葉書のように 止めないでください わたしは羽撃き こやみなく空のひろさをかいさぐっている 目には見えないつばさの音
わたしを注がないで 日常性に薄められた牛乳のように ぬるい酒のように 注がないでください わたしは海 夜 とほうもなく満ちてくる 苦い潮 ふちのない水
わたしを名付けないで 娘という名 妻という名 重々しい母という名でしつらえた座に 坐りきりにさせないでください わたしは風 りんごの木と 泉のありかを知っている風
わたしを区切らないで ,(コンマ)や.(ピリオド)いくつかの段落 そしておしまいに「さようなら」があったりする 手紙のようには こまめにけりをつけないでください わたしは終りのない文章 川と同じに はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩
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