4周年記念 「ふたり」 〜前編〜











「いかがですか?どちらもお似合いでしたよ」



純白のウェディングドレスを着たが鏡の前で困った顔をしている。
鏡越しに目が合うと『どう?』と問いかけてくるのが分かって、話途中の携帯を僅かに離した。



「お前の好きな方にしろよ。なんなら両方を着てもいいぜ?」
「色ドレスもあるのに白を二枚も着れないよ」


「そうか?なら両方買っといて、当日の気分で決めたらどうだ?」
「そんなのもったいないじゃない」


「一生に一度なんだからケチケチするなよ」



そういう問題じゃないのと怒る恋人の隣で、ドレスのデザイナーが苦笑する。
俺としては甲乙つけがたく似合っているドレスならば両方を買ってやりたいと思うのだが。


また悩みモードに入った恋人を横目に、俺は再び携帯を耳にあてる。
直ぐに仕事の話を再開した秘書の声を聞きながら、プライベートもあったもんじゃない日々に溜息が出た。










「本当に、あれで良かったのか?」
「ウン。なんで?」



オフィスへ戻る前にを送るべく車を走らせた。
普段は運転手つきの車だが、恋人と一緒の時は自分の車を出してハンドルを握ることにしている。
ポルシェの助手席にも随分と慣れてきたの薬指には俺が贈った婚約指輪が輝いていた。



「さんざん迷ってたくせに、俺の一言でドレスを決めちまって」
「いいよ。だって・・・」



だってなんだと視線を遣れば、愛しそうに指輪を撫でたが微笑む。



「やっぱり景ちゃんが一番気にいったドレスを着たいもの」



可愛いコトを言うから、思わず車を停めそうになった。


も大人の女になった。
化粧もするし、洋服だって年相応の落ち着いたものを品よく着ている。
それでも性格は変わらなくて、いつまでたってもガキの頃のままの無垢な笑顔を俺に見せる。



「あれが一番だ。お前に似合っていて綺麗だった」



手を伸ばし頭を撫でてやると、くすぐったそうに肩をすくめた
その仕草がとても愛しかった。





次の仕事があるからと挨拶もそこそこに邸を出る。
車を出す前には、しっかりを抱き寄せて唇を重ねた。


短いが充電完了。
近いうちには夜も腕に抱いて充電できるのだから、もう暫くの辛抱だ。
こんなに近くで住んでいるのに、厳格な親のもとで育てられたはなかなか俺に抱かれてくれない。
もちろん既にの初めては全て俺様のものとしたが、いい年をした男が欲求不満なんざ笑い話にもなりゃしねぇ。



長く待ったが、もう直ぐ結婚できる。
ずっと・・・ふたりで生きていける。


青臭いガキのような言葉は胸に秘めたまま、俺はとの結婚式を心から待ち望んでいた。





それが、このありさまだ。


時計は既に四時を指し、もうランチとは言えない時間になっていることを確認する。
空腹も過ぎれば何も感じなくなるものだ。


昨夜の就寝時間は三時前で、今朝は六時に起きた。
食欲もなくて紅茶とフルーツだけを口にしたのだが、あれから胃に入れたものはコーヒーだけ。
ベルトが緩くなってきたのは気のせいだけではないだろう。


日が傾くアスファルトに足を下ろした途端、立ちくらみがした。



「大丈夫ですか?少し休まれた方が・・」



不覚にも女性秘書に心配をされてしまった。
そっと支えられたマニキュアの指にを思い出す。


の爪の形は曲線が柔らかで、薄い桜色。
その柔らかな指先に唇を寄せるのが俺は好きだ。
はずかしそうに笑って目を伏せる、そんな仕草が好きだ。



・・・会いたい。



「大丈夫だ」



肘に添えられた秘書の手から嫌味にならない程度に逃れる。
優秀な女性秘書は直ぐに後ろへ下がり、そこへタイミングよく迎えの車が来た。



車の中で少し寝よう。
そう決めて車に乗り込みホッと息を吐いたとき、通りの向こうに目がとまる。


一瞬は会いたいと願った幻かと思った。
だがは泣き出しそうな顔で通りの向こうに立ち尽くしている。


俺が見間違うはずがない。


動き出した車に止めてくれと叫び、外へ飛び出した。
後ろで秘書が俺の名前を呼ぶのにも応えず、対向車を避けて向こうの道へと渡りきる。
するとデパートの買い物袋を提げたが泣いてるんだか笑っているんだか分らないような顔で走ってきた。



「景ちゃんっ」



人通りの多い歩道の真ん中だが、今すぐ引き寄せて抱きしめたい。
それほどに俺はお前に餓えている。



!」


「景ちゃんの馬鹿っ!事故に遭ったらどうするの!?」
「はぁ?」



久しぶりの再会に、ソレか?
再び眩暈が襲ってきそうになったが、躊躇いがちに頬へと伸びてきた温かい手が意識を引き戻す。



「顔・・・見るの久しぶりだね」



婚約者が言うセリフとは思えない。
隠しきれない寂しさを瞳の奥に見せて囁く恋人の手に、ゆっくりと自分の手を重ねる。



「まったくだ。今夜あたりロミオよろしく窓から忍び込もうかと思ってたぜ」
「無理よ。二階の窓にも全て防犯センサーを付けろって言ったの、景ちゃんだよ?」


「俺が忍び込む時は切っときゃいい」
「じゃあ警備の人に言っとくから早めに連絡して?」



お互いが顔を見合せて小さく笑う。
その間も俺はの手を離さずに、優しく握り直した。



「式の準備を任せっきりにして、すまない」


「それはお義母様が一緒に進めてくれてるから平気だけど、景ちゃんは大丈夫なの?
 ずっと休まずに働いて、景ちゃんが病気にでもなったら・・・私・・・」



俯いてしまったの頭を軽く小突けば、大きな瞳が俺を見上げた。
潤んだ瞳に夕日の色が映って、ただただ綺麗だ。



「バーカ。俺はあれだけテニスをしてきた男だぜ?」
「でも」


「もう少し、・・・もう少しで結婚式だ。それまでだから」



は物言いだけに俺を見たが、それ以上は何も言わずに頷いた。
今度は俺からの頬に触れる。



「け、景ちゃん、人が」
「なんだよ。往来でキスしないだけマシだ」



自分から触れるのは平気だったくせに、俺が手を伸ばせば途端に周囲の目を気にしはじめるのが可笑しい。
恋人の温もりと微笑みに疲れが消えていくのを感じる現金さ。
そんな自分にも笑ってしまった。



乗っていくかと誘ったが、まだ寄る所があると言うを置いて車に戻る。
ドアを開けて待っていた秘書が見送るに頭を下げれば、丁寧に礼を返してから俺に手を振った。



「可愛らしい方ですね」



俺の後に車へ乗り込んできた秘書に言われて、俺は大きく息を吐く。



「ああ。おかげで充電できた」



俺の言葉を聞いた秘書が可笑しそうに瞳を細める。



「ご馳走様です」と。




















4周年記念SS 「ふたり」 〜前編〜 

2008/07/24




















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