恋はあせらず。 最終章










     よ、お前・・・海堂のコト、どう思ってる?


     そっか、やっぱ好きか。そうだと思った。
     おっと、んな顔するなよ。ぜってぇ、誰にも言わない。約束する。


     海堂な。あーんな顔してるだろ?口数も少ねぇうえに、ぶっきら棒だし。でもよ、イイところもある。


     あ、そうだよな。は、んなとこも全部知ってて海堂が好きになったんだよな。
     俺が思うに海堂ものコト、好きだと思うぜ?


     ホントだって!冗談なんかじゃ言えねぇよ、こんなこと。
     けど、アイツはあんなんだから・・・絶対に自分からは告ったりはしねぇと思う。つぅか、出来ないだろうな。


     だからな、。今度のバレンタイン、お前から勇気出してやってくれよ。俺も、こっそり手伝うからさ。
     アイツ、毎年誰からもチョコ受けとらねぇけど、ちゃんと受け取るように俺が作戦立ててやるから。


     どうして?って。そうだよなぁ、俺らケンカばっかしてるしな。
     けど、アイツの努力はスゲェって思ってるんだぜ?アイツがいるから俺も頑張れる。
     ムカつくこともイッパイあるけど、海堂がいるからテニスが楽しい。それは・・・本当だぜ?


     なーんちゃって、実は見え見えなのに悶々としてるアイツ見てるとイライラしてよ。
     俺のほうがシビレを切らしちまったってとこ!


     ダイジョーブ。
     海堂は大事にしてくれるよ。そういう、ヤツだ。





桃城君の明るい声が今も耳の奥に残ってる。




『うるさいっ!俺にはテニスが一番だ!邪魔をするならアイツはいらねぇっ!』





海堂君の怒りを含んだ声が胸を突き刺す。



ゴメンナサイ。
想いが通じただけで。少しでも好きだと思ってもらっただけで充分すぎるほど幸せだったのに。
もう少し近くなりたいと、海堂君の優しさや想いに触れたいと欲を出してしまった。
お菓子を作り渡す事だけでは満足できず、彼の喜ぶ笑顔が見たいなんて・・・見返りを求めてしまった。


だから、海堂君を怒らせてしまった。
海堂君にとってはテニスが一番。分かっていたのに、邪魔をしてしまった。



もう・・・嫌われてしまったかもしれない。



涙が後から後から流れてきた。
待つはずだった中庭のベンチの前を走りぬけ、門に向かう。
とにかく学校から外へ出たかった。



!」



後ろから呼ばれて振り返れば海堂君の姿が見えた。
怖かった。きっと、叱られる。嫌われてしまう。頭がパニックになった私は足を止める事が出来ない。


何も聞きたくない。聞けないよ。



、待てっ!」
っ!」



!」



後ろから肘を掴まれて、振り回されるようにして強引に後ろを向かされる。
そのまま痛いぐらいの力で両肩を抑えられた。



、俺の話しを・・・聞け」



掴まれた左肩には私が落とした紙袋が押し付けられている。
海堂君は紙袋と一緒に私の肩を掴んでいた。


初めて・・・名前で呼ばれた。
本当はとても嬉しいはずなのに、こんな時に呼ばれるなんて。
また、涙がポロポロと溢れてくる。



「頼む、泣くな。」
「ゴメン・・ナサイ」


「謝るな。お前が悪いんじゃねぇ」
「でも、大事な練習の時間・・・」


「そんなことは、どうでもいい!あ、いや・・・どうでもよくはねぇが。 今は、お前のほうが大事だ。」



海堂君の言葉に瞬きを忘れた。
今のは私の都合のいい幻聴なのだろうか。


茫然と海堂君を見つめていたら、彼は私の肩から手を離し紙袋の中に手を突っ込んだ。
そして、少し芝のついたカップケーキをそのまま口に運んだ。



「海堂君!それ、落ちたやつ」



慌てる私から目をそらさずに、海堂君は黙々とカップケーキにかじりつく。
そして、とうとう下の紙をはがし最後の一欠けらを口に放り込むとフッと瞳を細めた。



「相変わらず・・・ウマイ、な」



私は顔を覆って泣いてしまった。
落ちたカップケーキを食べてくれた海堂君の気持ち。
ウマイ、って言ってくれた気持ちが・・・ちゃんと伝わってきた。
声も殺せずに子供みたいに泣いてしまった。



ふんわりと。
柔らかく私の体を包むのは青学のレギュラージャージ。
慰めるようにポンポンと頭を優しく撫でられた。



「すまん。さっきのは・・・嘘だ。」
「ゴメンナサイ。私が我儘になってたから。」


「違う。お前は・・・我儘なんかじゃねぇ。俺の我儘だ。」
「海堂君の我儘?」



つい海堂君の胸から顔をあげたら、「見るな」と頭を胸に押し付けられて赤面する。



「桃城が・・・お前のカップケーキを食ったのが気にいらなかった。」
「あ、あれは、桃城君には悪いけど焼き色にムラの出来た失敗作で、」


「それでもっ!俺は、お前の作ったものを他のヤツが・・・特に桃城が食うなんて我慢できねぇ」
「海堂君、それって」


「お前の・・・のものは、全部が俺のものじゃないと気にいらねぇ」



それって、ねぇ。どういう意味?
その答えを私は海堂君の胸から直接聞くことが出来た。





     俺は、お前が・・・どうしようもなく好きなんだ。










、携帯鳴ってるよ!」



家庭科室でパウンドケーキの焼き色を見ていたらメールの着信音が響いた。
周囲の友達に「また、海堂君?、愛されてるねぇ」なんて冷やかされつつ皆に背を向けて携帯を開く。



『部活が終わるのが早くなった。
 乾先輩も立海へ偵察に行くらしいから、今日は帰るぞ。
 終わったら、門の前だ。』



海堂君らしい文面に、つい笑顔が零れた。
ちょうどオーブンから焼きあがりのタイマー音が聞こえた。



まだホカホカするパウンドケーキを胸に門の前で海堂君を待っていたら、後ろから騒がしい声が聞こえてきた。



「だ・か・らっ、大きなお世話なんだよ!何度言えば分かるんだ、このお節介ヤロウ!」
「お節介ヤロウは、お前の方だろうが?俺はお前にだけは借りを作っておきたくねぇんだ。」


「俺はマムシにカシなんか作った気はねぇって。だから、俺の事はほっといてくれ!」
「そうはいかねぇ。俺がお前の恋を成就させてやるっていうんだから、おとなしく待ってろ。」


「頼む!本気でやめてくれっ!まとまるものも、まとまらねぇって。」
「心配するな。俺は作戦を練った。乾先輩監修だ。問題ねぇだろ。」


「問題ありすぎだってぇの!、なんとかしてくれっ!」
「桃城、勝手にの名前を呼ぶんじゃねぇ!」



海堂君が桃城君の自転車を蹴り、桃城君も負けずに蹴り返している。


バレンタインデーの件も桃城君のアドバイスだと知った海堂君は暫く黙り込んだ後「お節介ヤロウが」と舌打ちしたけど、
表情は何ともいえない困ったような嬉しいような複雑なものだった。


そして翌日には桃城君が想いを寄せている女のコとの仲を取り持ってやると言い出した。
桃城君が私たちの事に逸早く気づいてたことにも驚いたけど、
海堂君も桃城君が片想いしているコの存在に随分前から気づいていたらしい。



「あいつは嘘がつけねぇっていうか、隠し事が出来ない真っ直ぐな野郎だからな。見てれば分かるんだよ。」



そういって口元を緩めた海堂君。
海堂君と桃城君。私から見たら羨ましいほど強い絆で結ばれてる友達だと思う。
それを言うと二人とも烈火のごとく怒るから言わないけれど。



私はナイショで夢を見てるの。
いつか海堂君と私、桃城君と彼女で遊園地にでも行けたら楽しいだろうなって。



、行くぞ」



差し出された大きな手に自分の手を重ねながら、私はこっそりと笑った。




















「恋は、あせらず。」 

2006.05.01 

〜Thank you 200000HIT present to Yun〜




















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