小悪魔
私、一目惚れをしました。
嫌々でも長い付き合いだからと出かけたテニスコートで、それはそれは素敵な王子様に出会ったのです。
サラサラの黒髪に、ガラス球のように透き通った瞳。
バランスよく付いた筋肉と力強くも美しい身のこなし。
人は彼を天才と呼ぶとか・・・その名も手塚国光クン。
う〜ん、あの声援の大きさからしても競争は激しそう。
でも私は負けません。
王子様に振り向いて貰えるよう頑張っちゃうもんね。
「やめとけ」
開口一番、幼馴染が言いました。
チラリとも視線を上げず、ファイルをめくりながらの冷たい一言。
王子様である青学の手塚クンと私の幼馴染である跡部景吾はライバルらしい。
私が考えるには思い込みの激しい景吾が勝手に『ライバル視』をしているだけで、
手塚クンはナンとも思ってないんじゃないかなぁ。
だって試合会場でもガンつけまくってた景吾を手塚クンはさらりとかわしてた。
もともと目つきが悪いうえに好戦的な景吾と違い、彼は静かな闘志を胸に秘める武士のようなたたずまいだ。
テニスコートの上空にジャージを放り投げてみたり、
いちいち妙な名前を必殺技につけて叫んでみたりする人間を相手に、動揺せず戦えるのだ。素晴らしい。
「やめない。もう、モーレツに愛しちゃったもん」
「口をきいたこともないのにモーレツに愛してんじゃねぇよ。手塚も迷惑だろうよ」
「それをいうなら景吾のライバルにされてるほうが迷惑なんじゃない?
私は木立の影からそっと彼を見つめる健気な乙女だから大丈夫」
「アイツ、テニス以外には頭がまわらなそうだからな。木立の影じゃ気付きもしねぇだろ」
「なら木の前に立つ」
「バカ」
「・・・ねぇ、景吾」
ちょっと可愛い声をだしてみた。
使えるものは跡部景吾でも使えってね。
「ムリ」
まだ何も強請ってないのに、速攻拒否。
ひらひらと手を振って、聞く耳は持ちませんのジェスチャーだ。
「いいじゃん、手塚クンとは仲良しなんだし」
「ライバルだ」
「それは自称でしょう?ねぇ、ちょこっとでいいから協力してよ
手塚クンに紹介してくれるだけでいい。あとは自分で何とかするからさぁ」
両手を合わせて拝んでみせる。
目をぎゅうっとつむってお願いすれば、特大の溜息が聞こえた。
「お前なぁ」
呆れたような声に、手を合わせたまま片目だけを開いて様子を窺う。
景吾はファイルを閉じるとデスクの上に投げ、億劫そうに腰を上げた。
さて、お返事は?
期待と不安を胸に、景吾の言葉を待つ私。
ゆっくりと私の前に歩いてきた景吾が、一息つくと大きく手を上げた。
ひぃ〜、殴られる!!
条件反射で頭を庇った私に、思った衝撃はこなかった。
吐息を感じる耳の傍。
振り上げたはずの景吾の手は私の背中を包んでいた。
「俺様を試すんなら、もうちょっと知恵をしぼらないとな
みえみえすぎて、いっそ可愛いんだよ。それとも俺をあおってんのか?」
無駄にフェロモン垂れ流しの声で囁かれ、私は慌てて首を横に振る。
「なら、おとなしく俺にしとけ。よそ見すんなよ」
ああ、ダメだ。
隠そうと思うのに、にやけてしまう。
「嬉しそうに笑ってんじゃねぇよ。ばーか」
馬鹿はどっちなんだか。
私だって実はモテるし、周囲には景吾に負けないくらいイイ男がイッパイいるんだから。
ないがしろにしたら、すぐに他の誰かを好きになってやる。
景吾の腕の中、
手塚クンの胸はもっと広いのかなぁなんて考えながら私は目を閉じた。
小悪魔
2009.05.06
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