小悪魔 〜続編〜













「なにがどうなってこうなったんだ?」



呆れた声で問いながら、景吾が洒落た紺色のネクタイを緩める。
ポイポイと無造作に放られたコートやジャケット。
いつもなら坊ちゃま付きの執事さんが回収についてまわるのだけど、今日はそのまま。



「だからねぇ、ゼミコン行ったら偶然にジローがいてぇ」



うまく呂律が回らないのは自覚済み。
冷たい水の入ったグラスに頬をつけると、すっごく気持ちいい。



「なんでジローがいるんだ?アイツとは違うゼミだろ」
「わかんないけど混ざってた」



ネクタイも放り投げた景吾は、ワイシャツのボタンを幾つか外しただけでソファに腰を下ろす。
ソファの前に座り込んでいる私を見下ろす格好で、遠慮もなく脚を組んだ。



「あぶないなぁ。蹴られるかと思ったじゃない」
「そりゃ悪かったな、足が長くて。それで?」


「ジローがブン太さんと飲もうよって」
「いまだに『さん』付けかよ。で、立海の奴らと飲むことになったのか」


「そうそう。ジャッカル君のお父さんがやってるお店でね、これがいい店なのよ」
「そりゃ良かった」



段々と面倒くさそうな相槌になる景吾。
自分から聞いておいて、おもむろに携帯のメールチェックを始めた。
ま、そんなのはいつものことなので私も気にしない。


だって今夜は気持ちがいいんだもの。



「でね、そこへまた偶然に真田君が来たの」
「真田もよっぽど暇なんだな」


「景吾みたいに忙しい大学生って、そうはいないと思うけど」
「分かってんなら、さっさと寝ろ」



犬でも追い払うように手を振られたが、無視して話を続ける。



「私さぁ、ずっと真田君のコトを誤解してたよ。強面でさ、いつも怒鳴ってたし、老けてるし
 けど実際に話してみたら、これがえらくイイ人だったの」


「へぇ」
「へぇ・・じゃなくて、感動もんだよ?あの人、笑えたのよ。それも可愛らしく」


「可愛らしくだと?お前、酔っぱらって幻でも見たんだろう」



景吾が携帯から視線をあげ、不審そうに眉を寄せた。
そりゃ景吾みたいに常に喧嘩腰の男には、真田君も絶対に見せない笑顔でしょうよ。
照れくさそうに視線を逸らして笑うとこなんか、思わず抱きつこうかと思ったもんね。



「そんなに酔ってないって。とにかく真田君の周囲にお花がキラキラと」



キラキラを振り付けで表現してあげたが、景吾は「完全なアルコールによる幻覚だ」と言いきった。
なんで分かんないんだ、この男。真田君のキラキラが通じないのが悔しい。



「違うって、景吾。私ね、その瞬間に彼の笑顔にフォーリンラブしたのよ!!」



力強く声をあげ、目の前にあるテーブルを叩いた。
景吾は再び携帯に視線を戻し、大げさに溜息をつく。



「あの人こそ運命の人だと思うの。なんかこうビビビ・・・ときたの」
「お前のビビビは頻繁に反応し過ぎだろ。センサーがイカれてるとしか思えねぇな」


「いやいや、今度は本当に。それに真田君もまんざらじゃないっていうか」
「幻覚の次は妄想かよ」



鼻で笑った景吾はメールの返信を打ち始めた。



「心配だからって真田君が送ってくれたのよ
 何度も『大丈夫か?』って聞いてくれて・・・優しかったなぁ」


「そりゃ女がフラフラしてたら誰でも大丈夫かぐらいは聞くだろ?」
「誰かさんは言わないけど?」



私が道端で倒れていたとしても景吾は素通りするね、確実に。



「それでね、それでね、勇気出してメアド交換してくださいって言ったら」
「は?アイツ、携帯なんか持ってんのかよ。昔は公衆電話を探してるようなヤツだったぜ」



景吾のツッコミは無視。



「かまわんが・・・って。きゃあ〜、カッコイイ。武将みたいでしょ!?」
「意味が分からねぇ」


「現代に生きる武士なのよ。で、武士とメアドを交換しちゃたぁ」



景吾も私の言葉を無視して、自分のメールに集中。
私が黙り込むとカチカチと携帯を操作する音だけがする。



「あのさぁ」
「なんだ?」


「なんで景吾がウチにいるの?」



テーブルに頬杖をついて訊いてみた。
だって、ここは私の部屋。


今日もどこぞのパーティーに行ったはずの景吾が、その服装のままで連絡もなしにやってきた。
その理由を聞いてなかったことに気がついたから。


メールを打ち終わったらしい景吾は、音をたてて携帯を閉じるとソファに投げた。
そのまま私を見据えて口を開く。



「酔っ払いを寝かせるためだ」
「へ?」


「ジローからのメールがきたんだ。お前が酔っ払ってるから何とかしてやれとな」



言うと同時に、腕を引っ張り上げられる。
何すんのって訊く前に視界が逆転して、景吾の肩に抱えあげられていた。



「き、気持ち悪い。下向いたら吐くよ」
「吐いたら放り投げるぞ」



慌てて口を塞ぐ私を宅急便の荷物のように抱えて寝室に向かう景吾。
吐かなくてもベッドには放り投げられると覚悟を決めた私は舌を噛まないように口をつぐんだ。
景吾は遠慮なく寝室のドアを開き、迷いなくベッドへ進む。


そうして思ったとおりにベッドへと放り投げられた。


悲鳴をあげて沈んだ私の横に腰を下ろした景吾は、えらそうに腕を組むと顎をあげる。



「どうする?帰って欲しいか、一緒に寝て欲しいか、二つに一つだ」
「真田君と一緒に寝・・」


「俺とだ」



俺という言葉を強調した景吾が睨んでくる。
半目で睨むのって怖いってば。



「じゃあ・・・景吾で我慢する」



渋々といったふうで呟けば、人差し指で思いっきり額を弾かれた。
そのままワイシャツ姿の景吾と布団にもぐり、寝心地の良い位置を探す。


景吾の腕枕で肩に額をひっつけて目を閉じれば、一気に眠気が押し寄せてきた。



「おやすみ・・景吾」



夢うつつで告げると、ふんわりと頭を撫でられて意識が沈んでいく。



「寂しかったんなら素直に言いやがれ。遠まわしなコトして俺を振り回すなよ」



ささやく景吾の声が子守唄に聞こえる。



そうよ。景吾がちっとも相手してくれないからだよ。
暇だから誰とでも飲みに行くし、優しくしてくれる人には甘えちゃう。
真田君はホントにイイ人だったから、景吾に冷たくされたら乗り換えてもいいかな。








目覚めると既に景吾の姿はなかった。
相変わらず冷たいヤツだと怒りながら、さて真田君にメールでもと携帯を開く。



が、登録したはずの真田君のメアドは影も形もなく消えていた。




















小悪魔 続編 

2010/04/08



















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