どうしようもないほどに 1

                〜Thank you 666666HIT present to ゆっき〜











観月との付き合いは長い。
思い出せば・・・中学の入学式で隣に並んでいたのは彼だった。
クラス分けされた掲示板を見上げ、
私と同じクラスを呟いた彼に『ついていこう』と思ってしまったのが間違いだったのかもしれない。



運がいいのか悪いのか、私たちは六年間もクラスが一緒だった。
私にとって男女を問わず同じクラスメイトで居続けたのは観月ひとり。
当然のごとく、それは観月にとっても同じ。


それを観月は『腐れ縁って言うんですよ』と溜息交じりに教えてくれた。





「観月、シャツどうするの?前に置いてったの薄いピンクしかないよ?」
「それでいいです。で、アイロンかかってますか?」


「形状記憶シャツじゃないの?」
「あんなの肌触りが悪くて着られませんよ。
 ああ、皺になってる。ちょっとアイロン出して下さいよ。」


「アイロンねぇ・・・一年くらい出してないんだけど。どこに行ったかなぁ。」
「あなたねぇ」



観月は白のTシャツ姿で歯ブラシ片手に洗面所から顔を出し文句を言う。
私の家にアイロンがあろうが無かろうが観月に文句を言われる筋合いはないのだけど。


言いだしたら聞かないうえに、強いコダワリをもつ観月を知ってる私は朝からアイロンを探す。
クローゼットの奥の奥、綺麗な箱に入ったままのアイロンを見つけ出し考える。



アイロン台・・・ないし。



仕方なくバスタオルを折りたたんで、その上でアイロンをかけ始めた。
すると口元をタオルで拭きながら出てきた観月がまた文句を言う。



「ちょっと、アイロン台はないんですか?」


「ないの。ちょっと黙っててよ、気が散るから。」
「ああ、肩のところが皺になってる。退いてください、僕がかけます。下手くそ。」



なんという捨てゼリフ。
深夜に終電を逃したと突然にやってきて、
狭いシングルベッドに無理やり入り込んできて泊まった奴の言うセリフとは思えない。


朝御飯の食材を提供してやったのに、恩知らずめ。
作ったのは観月なので文句は言えないが、冷蔵庫の中身は私のものなんだから。



「観月さ、もう少し早起きして家に帰ればよかったのに。」
「ここからの方が会社に近いんですよ。あ、そうだ。ネクタイありましたっけ。」


「ネクタイねぇ。ああ、なんか派手なやつがあったような。」
「ついでにハンカチも。」


「それもあったような・・・っていうか、ウチは観月の別宅じゃないのよ。
 一式置いとかれると邪魔なんだけど?」


「これだけ散らかってれば、何がどう増えてようと変わりませんよ。
 週末、掃除しなさい。一年着なかった服は、もう着ないそうですよ。捨てなさい。」



澄ました顔で観月が言う。
話しながらも手際よくアイロンをかけ終えると、皺ひとつないシャツを手に立ち上がり時計を確認する。
ああ・・時間がと呟けば、使ったアイロンをそのままにバタバタと出社の準備を始めてしまった。



「ちょっと、アイロン!」
「今朝は早くから会議があるんですよ。急いでますから片付けておいて下さい。」


「はぁ?」
「あなたも遅刻しますよ。さっさと着替えなさい、パジャマ。」



シャツのボタンを留めながら観月が私のパジャマ姿を下から上に眺めて溜息をついた。
私は私で時間の計算をしながら準備してるんだからね、大きなお世話よ!
そう悪態つきながらアイロンを片付けていたら、あっという間にヤリ手の商社マンに変身した観月が出来上がっていた。



「じゃあ、僕はお先に。」
「はいはい。もう来ないでね。」


「ここ便利なんですよね。」
「観月、あのねぇ」


「いってきます。」



不機嫌な私など軽く無視して、爽やかにも見える笑顔を浮かべると観月は出ていった。
いってきますって、ここを何処だと思っているんだろう。


肩をすくめて玄関の鍵を閉めると自分も仕事に行く準備を始めた。
パジャマを脱ぎ捨て、目についた服を手に鏡の前に立つ。


そこで気付いた。
鎖骨の辺りに残る、小さな赤い痣。
指先で擦ったけれど痛みも痒みもない。



「観月の馬鹿。ここ、見えるじゃない。」



小さく呟いて、今日はハイネックを着ていくことに決めた。
明日には薄くなるだろう観月の跡。


恋人と呼ぶには曖昧な・・・これを彼は『腐れ縁』と呼ぶのだろうか。
考えたところで答えが出ないことを知っている私は、考えることを放棄する。



それぞれが別の大学に通うようになった年の冬、初めてキスした夜を思い出す。



あの夜に出会わなければ、こんな二人はいなかったのに。
それは後悔なのか、喜びなのか、今の私には分からなくなっていた。




















どうしようもないほどに 1 

2008/01/07




















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