どうしようもないほどに 2











「じゃあね。」
「ええ、また。」



高校の卒業式、また明日も教室で顔を合わせるかのような挨拶をして私たちは別れた。
観月はテニス部で目立っていたし、そりゃ女のコたちに人気があった。


でも、あの性格だ。
気難しいうえに理想が高い。
おまけに言うことは辛辣で、それがまた正当な意見だから腹が立つ。
そんなこんなで観月と親密に付き合えるようなコは、そう居なかった。


それでも卒業式には抱えきれないほどの花束を貰い、歩けばカメラのフラッシュが追いかけてくるような状態。
献身的に彼を支えてきた我慢強いテニス部の面々に囲まれ、観月は幸せそうだった。


私には名残惜しさ一つ見せずに背を向けた観月。
それはそれでいいと私は思って、学校に別れを告げた。



用もないから連絡も取らない。
夏には新しい住所に几帳面な文字の暑中見舞いが届いて驚いたぐらい。
そんな私たちが約束もなく街中で出会ったのは、絶対に神様の気まぐれか悪戯だと思う。





クリスマスイブの前日だった。


恋人もおらず、冬休みも賄い付きのレストランでバイトしていた私は疲れた足取りで帰っていた。
バイト先から大きな公園の広場を通り抜け、近道して帰るのが日課となっていた私。
12月に入ってから広場に作られた巨大なクリスマスツリーに、人だかりが出来て歩きにくいったらなかった。
それも恋人同士ばかりで目のやり場に困る。


ひとりハーフコートの襟を合せるようにして足早に通り過ぎる私の背に、懐かしい声がかかった。





     





振り返れば同じようにコートを着て独りで立ってる観月がいた。










     久しぶりですね。
     元気だった?


     元気ですよ。あなたも元気そうで何よりです。
     どうしたの、こんな所で。


     ああ・・・まぁ、ちょっと。なんだかジッとしていられなくて。
     なに、それ。


     いいじゃないですか。とにかく久しぶりに会ったんですから、お茶ぐらいはしましょう。
     お茶?


     誰かと約束が?
     ないけど・・・帰るとこだし。


     ならいいでしょう。僕が奢ってあげますよ。
     行く。


     相変わらず現金ですね、あなた。










観月が癖のある前髪を指にからめて笑った。
その後ろにクリスマスツリーの明かりが煌いて、とても綺麗だった。



恋人たちがウヨウヨしてるカフェでお茶を飲み、観月の奢りだからとケーキまで食べた。
お互いの大学の話をして、ついつい昔の思い出話やクラスメイトの近況を話していたら、クリスマスイブになっていた。



終電がなくなるからと真冬の空の下を走り、まるで高校時代の持久走だと笑いあう。
やっとたどり着いた駅で私たちは上りと下りのホームに分かれることになった。
深夜とはいえ、終電を逃すまいと家路を急ぐ乗客で駅は賑やか。
ひっきりなしに乗客が行き来する左右に別れた階段の前で観月が手を差し出した。



どう見ても握手を求めている仕草。
呆気にとられたが、観月が真面目な顔して手を差し出しているから無視もできない。
気恥ずかしさに堪えながら手を差し出せば、驚くほど冷たい指先が私の手に重なった。





     観月、手が冷たいよ。





その言葉が発せられることはなかった。
それより先に覆い被さってきた影は私の視界を覆い尽くし、うなじの辺りを押さえられた冷たさに身が震えた。



なのに・・・観月の唇は温かかった。



私は目を開けたまま。
あまりの驚きで目が閉じれなかったんだと思う。



人がたくさん通っているのに観月は恥ずかしがるふうでもなく微笑んでいた。
呆けている私の顔を見て、その顔がほんの少し困った表情になる。










     あなた、キスする時に目をあけてるんですね。
     だ、だって、こんなこと。


     まぁ、いいです。メリークリスマス、また会いましょう。
     またって、


     僕、明日から田舎に帰るんですよ。戻ってきたら連絡します。
     いや、そんな。


     あ、いけない。終電が来ますよ。良い年を。
     ちょっと、あの・・観月!










じゃあと簡単に手を振って、観月は私のホームとは反対に駆け下りていった。
直ぐに電車の入ってくる轟音が鳴り響き、それと重なるように私の乗る電車が入ってくるとアナウンスが流れる。


先を急ぐ乗客に背を押されるようにして私も階段を駆け降りた。
向かいのホームは電車と乗客で見えない。


もう一度、観月が見たかった。


今のは夢ではなかったか。
現実に起こったことなのかを確認したかったのに、観月の姿を見つけられないままに電車は走り出す。
ぎゅうぎゅう詰めの電車の中、私は自らの唇を押さえて熱くなる目の奥に力を入れて我慢した。





クリスマス、大晦日、新年と慌ただしい時間を過ごせば、イブの深夜に起こったことは現実味が薄れてくる。
観月に会ったことは確かなのだが、最後のキスは幻だったかも。
なんだか変な考えに陥りそうになりながら、何度も携帯の着信を確かめた。


あの頃は可愛かったと思う。
私は観月からの連絡をちゃんと待っていたのだから。


何を考えているのか分からない観月から連絡があったのは、七草粥を食べて実家から戻った日の夕方だった。



『あけましておめでとうございます。ところで、あなた家に居ます?』
「い、いるけど?」


『ああ、良かった。僕、直ぐ近くにいますから。』
「近くって、どこの?」


の家のですよ。番地的には近いと思うんですけどね。
 えっと角にコンビニがあってですね、その向こうにクリーニング屋が。』



ギョッとした。私の住むアパートはクリーニング屋の隣だ。



「ちょっと、観月!なんのつもり?」
『お土産持ってきたんですよ。あ、ここだ。ありましたよ。じゃあ。』



ブツっと切られた携帯を手に、私は半狂乱で服を着替えた。
学生が住む狭いアパートには散らかった荷物を隠す場所もない。
とりあえずベッドの下とクローゼットに何もかもを押し込めば、玄関のインターフォンが鳴った。


不機嫌丸出しでドアを開けたら、マフラーに顔半分を埋めた観月の目が笑っていた。



「ハイ、お土産です。寒いんですけど、あがらせて貰ってもいいですか?」



その日は上空に、この冬一番の寒波がやってきていて本当に冷え込んでいた。
今思えば雪国育ちの観月には何でもない寒さだったのだろうけど、西日本育ちの私には震えあがる寒さだった。
だから手土産持ちで来てくれた観月を追い返せなかった・・というのは言い訳だろうか。



観月は私の部屋に泊まっていった。



思うに、観月は手が早い。
流される私も私だが、なんだか突然に手を伸ばしてきて腕の中に閉じ込められてしまう。
予想もつかない早業で私を捉えると、無駄に甘くて優しい声を囁くのだ。










     あなたを抱きたい。抱いてもいいですか?










それは魔法のように私の思考を鈍くする。
優しく抱きしめられてしまえば、抵抗など最後まではできない。



絶対、私の知らないところで遊んでいる。
恋人だって過去には山ほどいたに違いない。



ただただ純粋に好きだと思う。
そんな恋心を多分・・・観月は知らない。




















どうしようもないほどに 2 

2008/01/07




















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