どうしようもないほどに 3
あれからもう何年たっただろう。
私は観月しか知らなくて、観月しか知ろうとしない。
何日でも何週間でも観月を待って、いつの間にか待つのに慣れてしまった。
観月は気まぐれで、毎日のように誘ってくる日もあれば、二、三週間も音沙汰がなかったりする。
そんな時は新しい恋人が出来たのかなと思う。
時間がたって、ふらっと現れた時には恋人に振られたのかなと想像もする。
だって見てしまった。
観月の大学祭に黙って行った時、やっと見つけた彼の隣には綺麗な女の人が立っていた。
周囲の人間が彼女を観月の恋人として扱っているのを見た私は慌てて逃げ帰り、
それきり観月に関わる行事にはどんなに誘われても行かなかった。
「ねぇ、指輪ぐらい買ってあげましょうか?」
観月は毎年のように言う。
それは誕生日だったり、クリスマスだったりするのだけれど、私は首を横に振る。
特別な物でも心がなければ虚しいだけ。
「いらない。仕事の邪魔になるし。」
「なら、ネックレスとか。」
「それもしないから。」
観月は眉間に指をあてては「困りましたね」と呟く。
結局はその年々に彼が考えた贈り物が手元に届き、私はそれを受け取る。
少なくとも観月が贈り物を考えたり選んだりしている間は私のことを考えているだろう。
それはそれで嬉しかったりする。
「そんな男、やめなさいって。私がもっとイイ男を紹介してあげる。」
「イイ男っているのかな?」
「あなたねぇ。この世の中、そんなサイテー男よりイイ男は星の数ほどいるわよ。
目を覚ましなさいって。かわいそうに・・・初めて意識した男が刷り込まれちゃったのね。」
職場の同僚にかかれば、観月はサイテー男になっている。
検査技師として就職して二年目の私は良き友にも恵まれて充実していた。
観月は既に二週間も連絡がない。
「とにかくね、内科の片桐先生に紹介してって言われてるのよ。
だからさ一緒に飲みに行こう、ね?相手は医者なんだし、タダ飯にタダ酒だと思えば損はない。」
「なんか嫌ねぇ、それ。」
「そうでも言わないと付いてこないから言ってるんでしょう!?」
そう雷を落とされて、結局は出かけることになった。
片桐先生という人は軽く三十を越えてそうな見た目だが、実は三十前だった。
洒落てるとはお世辞にも言えないけれど、実直で、言葉の優しい先生だ。
ああ、お年寄りの患者さんに好かれそうだなと好感を持った。
紳士的な振る舞いで、携帯の番号を交換してくれませんかと言われて頷いた。
その日から彼は毎日のように電話やメールをくれるようになる。
同じ院内で働いているのだから顔だって合わせる。
すると彼は目じりを下げた嬉しそうな顔で会釈してきた。
ちょっと、ドキドキする。
くすぐったい気持ちが心を浮き立たせてくれた。
だから見たかった映画の前売り券を片桐先生が差し出した時、断る気になれなかった。
「この前・・・皆と食事していた時に話してたから、喜んでもらえるかなと思って。」
「そんなこと覚えてたんですか?」
「え?ああ、いや・・・君の話してること一生懸命聞いてたから。」
感動してしまった。
そう。人を好きになるって、一生懸命で、健気で、愛しいもの。
数日後、私は片桐先生と二人で映画を見た。
映画は予想通りに面白くて、二人で感想を言い合いながら夕食をとった。
それから場所を変えて少し飲んで、また他愛ない話をして過ごす。
そして、随分と遅くなった夜道を肩を並べて帰る。
私が使う駅まで送ってくれた片桐先生は、ホームに入ってくる電車を前に耳を真っ赤にして言った。
「お、俺と結婚を前提に付き合って下さい。お・・お願いします!」
突然に結婚なんて言葉が出てくるとは思いもしない私は、あまりの驚きに言葉も出ない。
私たちの横に電車が滑り込んできて、生温かい風が吹きあがる。
その中でも片桐先生は視線を逸らさずに私を見ていた。
「急にこんなこと言って、すみません。でも俺はずっと・・・その、君に片思いしてて。
それで舞い上がってるっていうか、あ・・いや、何を言ってるんだろう。
と、とにかく慌てなくていいから考えてみてくれませんか?」
純粋に嬉しかった。
それでいて困惑した。そして、切なくて。
片桐先生の想いがあまりに眩しくて目がくらみそうだった。
観月、どうしようか。
私を愛してくれる人が現れたよ。
どうしようもないほどに 3
2008/01/07
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