「キミが好きです。」 前編 〜Freedom番外編〜










今日も大きな体を柱の影に寄せて盗み見る。
この時間が一番イイ確率だなと時計を確認していたら、後ろから背中を思いっきり突かれた。



「痛っ」



今のは肘で突いたでしょう?
人が身をよじって痛みに耐えているのに、突いた方が不機嫌そうな顔で俺の肩に腕をまわしてくる。
そしてグイッと力強く俺を引き寄せると耳元で怒りはじめるんだ。



「お前、激ダサだぜ!んなところからコソコソ見てたって何にもならねぇんだぞ?」
「わ、分かってますって。でも、ものには順序ってものがありますし・・・」


「何の順序だよ。夏が過ぎ秋が来て、今は冬だぞ。どれぐらい見つめてりゃ気が済むんだ?
 いいから走ってって『付き合ってください!』って告ってこい!」


「む、無理です!そ・そ・・そんなことしたら俺は心臓が止まります。」


「そん時は心臓マッサージしてやるから、行けっ!」


「や、やめてくださいって!宍戸さん!」



無理矢理俺の体をホームの中ほどに突き出そうとする宍戸さんに思わず大声を上げれば、
こともあろうに今だけは気づいて欲しくないキミが振り返った。


キミと目が合う。
一瞬で顔に血が昇って沸騰している俺をよそに、キミは可笑しそうに口元を抑えると友達のほうを向いてしまった。



「今さ、お前見て笑った気がしたぞ?良かったな、認識されて!」


「喜んでいいんでしょうか?なんか違う気が・・・」
「ヨシ。これをキッカケにして告ってこい!」


「だ・か・ら!ものには順序があるんですって。宍戸さんだって手順を踏んだじゃないですか?
 自分だって行き成り告ったりせず、ずっと見つめてたくせに。」


「俺はお前ほど長くない。それに決める時は男らしくビシッと決めた。」
「悪かったですね、男らしくなくて。」



口を尖らせて、また柱の影に身を潜ませる。
すると溜息をついた宍戸さんが片眉を上げて頭をかいた。



「ま、お前の気持ちも分かるけどな。
 でもさホント・・・見てるだけじゃ始まらねぇって。
 俺はお前に助けてもらったっていう気持ちがあるし、お前の想いを叶えてやりたいって思ってる。だから・・・」


「宍戸先輩!鳳クンも。」
「お、来たか。」



後ろから声を掛けてきたのは宍戸さんのカノジョで、俺のクラスメイトだ。
走ってきたのか息を弾ませた彼女の頬は真っ赤だった。
宍戸さんは自分が巻いているマフラーを素早く外すとサッと彼女の首にかけた。



「寒いだろ。ほら、」
「あ、あの・・マフラーあるの。ただ急いでたから巻かなかっただけで。」


「いいから、それ巻いてろ。俺が温めておいたからさ。」
「でも・・・先輩が寒くない?」


「俺はヘーき。」



いつもの事ながら隣で見ている自分が恥ずかしくなるような甘い二人。
うらやましくないと言えば嘘になる。というか、俺だって恋人の首にマフラーを巻いてやりたい。



でも・・・俺はキミの名前も知らないんだ。



また柱の影からキミを見つめる。
今日のキミも花のような笑顔を浮かべて可愛らしかった。










「今週中に声をかけなかったら、俺が声をかける。分かったか?」
「・・・脅さないで下さいよ。」



深く考えずに突っ走る宍戸さんを牽制していたら、
たまたま食堂で隣り合わせになった忍足先輩が話に割って入ってきた。



「で?どこの学校や?」


「西校だと思います。」
「ふーん。公立では上の方の学校やな。あそこセーラーやろ?可愛いよな。」


「お前、よく知ってんな。そーだ、長太郎!ここにプロの男がいた。忍足に助けてもらえよ。」
「プロって何のや?なんや人聞きの悪い呼び方すんな。」



カレーライスのスプーンを鼻先に突きつけて睨む忍足先輩にも怯まずに、宍戸さんは両手を合わせた。



「な、忍足たのむよ。長太郎を何とかしてやってくれ。」


「どうにかって言われてもなぁ。
 駅のホームで一目惚れしたんやろ?他は何の接点もなし。名前も学年も分からん。
 ならもう、とにかく何かキッカケを掴んで話すしか方法はないよな。」


「例えば?」



宍戸さんと俺は身を乗り出して忍足先輩の話を聞く。
食堂のざわめきで大事な話を聞き漏らさないよう真剣だ。



「お前らマジやな。まぁ、ええけど。
 例えば・・・そうやなぁ、目の前で貧血をおこして倒れてみるとか。」


「ありえねぇだろ。」
「そうか?じゃあ、何か落としてみたらどうや?ハンカチとか。」


「おお、いいかも!な、長太郎?」
「拾ってくれたとしても『ハイ』で終わっちゃったら、どうすればいいんですか?」


「アホ、そこで『どうも』って受け取って終わらさんのが腕の見せどころやろ?

 あ、キミ。よく同じ時間の電車で会うなぁ。いっつもカワイイなぁって思うてたんや。
 ハンカチ拾うて貰うたんも何かの縁や!なぁ、よかったらお茶でもせぇへん?
 お礼もしたいし、キミのこと・・・もっと知りたいねん。

 と、こんなふうに・・・」



宍戸さんと俺は、つい感心して手を叩いてしまった。



「すげぇな、お前。やっぱプロだ。」
「喜んでええんか複雑な褒め言葉やな、それ。」


「待ってください。今のは関西弁だからいいですけど、俺が言ったら引きませんか?」



目の前の二人は暫し考えて無口になった。
俺には言う自信もないし、それよりもっと気になる事があるんだ。



「それに・・・声をかける事が出来たとしても、彼女には恋人がいるかもしれない。
 恋人は居なかったとしても好きな人ぐらいはいるだろうし・・・」


「そりゃそうだけど、んなこといってたら告白できねぇぜ?ガツンとぶつかって砕けてこい!」


「コラコラ、砕けたらアカンやろ?
 けど・・鳳、宍戸の言うことも当たってるで?
 相手に誰かおって諦められるほどの恋なら、はじめから告白なんて考えたらあかんわ。」


「でも、」 好きだから、怖いんだ。


「俺の友達にな、人の恋人に惚れたあげくに正面から奪っていった奴がおる。
 そいつは俺にも女のコにも全く遠慮や誤魔化しはせず、自分の気持ちも誤魔化すことなくぶつかってきた。
 その強い意志に俺は圧倒され、気づけば恋人は・・・俺よりもその男を好きになってた。

 ええか?気持ちの強い者が人の心を動かすんや。
 傷つくのが怖い言うてるうちは自分が可愛い言うことやろ?
 どれだけ欲しいのか・・・どれだけ痛みや傷をも厭わん強い気持ちがあるか、や。」 



俺は意気地のない自分を振り返り拳を握り締める。
忍足先輩は表情を緩め「まぁ、頑張り」とトレイを手に席を立った。



「あ、噂をすればや・・・」



そう言う忍足先輩の視線を追えば、食堂に遅れて入ってきた跡部先輩とジロー先輩がいた。
忍足先輩が手を振ると、ジロー先輩が三倍くらいの勢いで手を振り返し、跡部先輩は唇の端に笑顔を浮かべる。



「な、忍足!跡部のカノジョって・・・」



宍戸さんが忍足先輩の腕を掴めば、笑顔の忍足先輩がウインクをした。










今日も俺はキミを待ってホームに立つ。
いつもの場所、いつもの時間。


キミに会いたくて、馬鹿みたいに突っ立っている。


俺はキミの声を知らない。


キミの好きなもの。キミの嫌いなもの。


キミの興味のあること。


キミの・・キミの・・キミの・・。



俺は知りたい。



キミが好きです。




















2006.01.30 




















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