キミが好きです。後編 〜Freedom番外編〜
2月14日は俺の誕生日。
「鳳、モテるからイイよな」
友達に肩を叩かれても笑えなかった。
紙袋イッパイのチョコレートとプレゼントが重い。
そりゃ悪い気はしない。
誰かに好かれて嫌な気持ちにはならないから。
でも本当に欲しいのは甘いチョコでもプレゼントでもない。
キミの名前が知りたい。
友達に向けられているキミの笑顔を俺だけのものに出来たなら・・・そう思う。
宍戸さんたちは何所かに出かけていった。
恋人たちにとっての14日はバレンタインデーなんだ。
駅に向かう俺の足取りは重かった。
彼女に会える確率の高い時間には少し遅れてしまった。
校門前で女のコたちに捕まったのが原因だけど、だからといって急ぎもしなかった。
「鳳クン、テニス頑張ってね!私たち西高なんだけど応援してます!」
校門にはキミと同じ制服のコがいて声を掛けられた。
他にも青学や立海のコもいたりして、テニスを通してファンになってくれたのだと言う。
跡部先輩ほどカリスマ性があるならまだしも、俺のどこがいいんだか。
よく分からないけれど彼女たちの気持ちを無下には出来ない。
俺は丁寧にお礼を言って包みを受け取った。
キミも誰か好きな人にチョコレートを渡したくて待っているのだろうか。
それとも既に誰かと一緒にいる?
いつもの時間にキミの姿を見つけられなかった時には、
酷く傷ついてしまうだろう自分を守るために足取りは鈍くなっている。
ああ・・・忍足先輩が言ってた事って、そのまま俺だな。
傷つくのが怖くて逃げてるんだ、俺。
駅が見えてきたところで足が止まった。
宍戸さん専用に設定している着信音が制服のポケットで呼んでいる。
「もしもし?」
『長太郎!今、どこだ?』
「もうすぐ・・いつもの駅です。」
『なら走って来い!彼女が一人で立ってるから』
「本当ですか?」
『俺たちは向かいのホームにいるんだが、電車に乗らないで誰かを待ってるみたいだ。』
「誰かを待ってる・・・・」
俺は自分の靴先を見ながら宍戸さんの言葉を繰り返した。
俺ではない誰かを待っているだろうキミ。
大事な人なのかもしれないと思うだけで、息が詰まるほど胸が痛くなった。
『コラッ、長太郎!ボサッとするな、早く来いよ!』
「でも俺が行ったって・・・」
『逃げるな、長太郎!
お前、俺に言っただろ?何があっても逃げない俺だから、俺を信じて、ずっと共に戦いたいって思ったって。
俺だって一緒だぞ?お前はどんな時も逃げないで俺の傍に居てくれた。
だから俺はお前を信じて、お前と戦ってきたんだ!
俺が信頼して背中を預けてる長太郎は、んな弱い奴なのかよ!』
そうだった。俺は宍戸さんに憧れて、宍戸さんみたいになりたいと思ってきた。
宍戸さんは逃げたりしないじゃないか。
テニスだって、彼女の事だって、家のことだって。
迷っても、苦しんでも、結局は宍戸さんが自分で決めて立ち向かっていった。
俺はそんな宍戸さんが好きで、俺もそうありたいと思ってきたのに。
「宍戸さん、俺・・・行きます!」
『ヨシ、早く来いよ!』
西日に染まっている駅を見つめ、ギュッと手にしたカバンと紙袋を握り締める。
傷つくのが怖い言うてるうちは自分が可愛い言うことやろ?
どれだけ欲しいのか・・・どれだけ痛みや傷をも厭わん強い気持ちがあるか、や。
今日の誕生日が一生忘れられない最悪の日になったって構うものか。
このまま逃げて帰ったって思い出したくもない一日になるのは確実なんだ。
なら行こう。
キミが誰を待っていようと、キミが誰を好きでも、俺がキミを好きだと想う気持ちに変わりはないんだから。
駅までダッシュし、エスカレーターを更に駆け上がる。
改札を抜けて再び階段。背中のラケットバッグが音を立てるのも構わずに階段を駆け下りた。
ああ、キミがいた。
電車を待って並ぶ乗客とは明らかに離れた壁際で、俯き加減に何かを胸に抱いて立っている。
向かいのホームには宍戸先輩たちが寄り添うようにして立っていた。
俺が視線を向けると試合の時みたいに『ヨシ』と目で気合を入れてくれる。
一つ深呼吸して足を踏み出す。
怖くて近づけなかったキミとの距離が段々と近くなった時、電車が到着するアナウンスが入った。
弾かれたように顔を上げたキミが不意に周囲を見回した。
そして俺と目が合う。
「あ・・」とキミの唇が動いた気がした。
真っ直ぐ行こう、恐れるな。
なんて言おう。いや、考えなくていい。
キミの前に立った時に出た言葉を大事にしよう。
近づいていく俺をキミは瞬きも忘れたかのように見ている。
怖がらせてるのかなと頭を掠めた時に轟音と共に電車が入ってきた。
キミの長い髪が風にあおられ舞い上がる。
それでも視線は外せずに人を避けながら足を進め、とうとうキミの目の前に立つことができた。
「あの・・」
声をかけようとした時、ドッと降りてきた客に背後から押された。
次々と人が俺の肩や背にぶつかりながら移動していく。俺は咄嗟にキミを庇うようにして壁に手をつき空間を作った。
直ぐそこにキミのつむじがある。
キミって小さいんだと、妙なところで感動していたらツンと腕を引っ張られたと同時に足元にバラバラと何かが落ちていった。
何かと思えば肘にぶら下げていた紙袋が誰かの荷物に引っかかり破れてしまったらしい。
中に入っていたチョコやらプレゼントが全て落ちてしまった。
庇っていたはずのキミが一瞬で消え、小さな体はしゃがみ込んで俺のプレゼントを拾っている。
「お、俺が拾うから、」
「早くしないと皆に踏まれちゃう」
初めて近くで聞いたキミの声は、ちょっと甘めの女の子らしい声。
俺もしゃがむと慌てて散らばった包みを拾い始めた。
二人で黙々と集めているうちに客は潮の様に引いていった。
幾つかは靴跡がついた物になってしまったけれど一応は拾って、俺とキミの手に半分ずつ。
無言のまま俺に拾った包みを渡そうとして、入れる袋がないことに気づいたキミが眉を寄せた。
「あの・・ありがとう。それは、その・・どうしようかな。
カバンとラケットバッグに分けて仕舞おうか。ちょっと待ってね。」
なんだか考えていたセリフなど吹っ飛んで、頭が真っ白になってる俺は普通に話してる。
背中のラケットバックを肩から下げてずり落とそうとしたら、キミが言った。
「よかったら、この袋を使ってください。」
見れば、さっきまで彼女が胸に大事そうに抱えていた赤い紙袋がキミの肘にぶら下がっていた。
「いや、いいよ。悪いし」
「いいの。これは鳳クンに・・・」
え?俺の名前・・・
「あげるものだから」
キミは耳まで真っ赤にして言ったんだ。
それだけ言ったら、もう言葉も出なくて俯いたまま震えていた。
キミが試合会場で俺を見ていたなんて知らなかったんだ。
俺に会うためにホームに立つ時間を合わせてくれていたのも、
視線を逸らしている間にキミが見つめてくれていたことも知らなかった。
ただの片想いだとキミが俺を諦めていたことも・・・何も知らなかったんだ。
キミが好きです。
俺は何度もキミに言うよ。
だって、ずっと言いたかったんだ。
その晩、宍戸さんに電話をした。
『気づいたのはなんだ。
あのコも長太郎が好きなんじゃないかって。
俺には分からなかったけど、そう言うからさ・・・ちょっとだけな、手をかした。
ま、これで借りは返したぞ!』
俺、宍戸さんに『貸し』なんて一個もありませんよ?
ああ、やっぱり宍戸さんには敵いません。
ますます頭が上がらなくなった宍戸さんにお礼を言って電話を切った。
次に呼び出す名前。
それは、キミの名前だ。
「キミが好きです。」 〜Freedom番外編〜
執筆 2006.01.30
2007.02.14 おめでとう
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