
は子供の頃から花が好きだった。
高校時代から花屋でバイトをして、卒業と同時にバイト先に就職。
フラワーアレンジなどの資格を取りながら、自分の店を持つことを夢見ていた。
そして、とうとう彼女は小さな店を持つことが出来た。
店といってもワンボックスカーがお城だ。
毎日たくさんの花を積み込んで店を開きにいく。
天気予報とにらめっこの毎日。
今日は快晴。ヨシッ
彼女は愛車に仕入れてきた花を積み込んでエンジンをかけた。
遅くなってから急に雲行きが怪しくなってきた。
遠くで雷鳴がし、時々空が明るく光る。
もう時間は夜の九時をまわっている。
撤収してもいいか・・・と考えていたら、突然激しく雨が降ってきた。
「きゃあああ」
ひとりで騒ぎながら急いで花を片付ける。
あっという間に濡れていく服が体に纏わりついていくのを感じて、
自分の判断の甘さに苦笑いをした。
その時。雨音に混じって聞こえてきた声。
「おい。花束、作ってくれ。」
振り向けば。土砂降りの中でも悠々と傘を差して立つスーツ姿の男性。
一瞬どうしようか迷った。花の大半は車に乗せてしまった。
自分はびしょ濡れ。
本当はお断りして、残りを片付け帰りたい。
でも・・・
「いいですよ。ご予算は?どのような感じにしましょうか?」
「オープンした飲み屋に持っていくんだ。適当で良い。予算は・・・3万くらいでいいか。」
「3万っ?」
「なんだ?足りないのか?じゃあ、5万。」
「いえ・・・3万もかけなくても、見栄えのいい花束は出来ますよ?」
「ふーん。まあいい。適当にしてくれ。」
「はい。」
ザアザアと降り続く雨。
ワンボックスカーの後ろのドアを開いて雨を避けつつ花束を作り始める。
ふと気が付けば。傘を差した客の肩が濡れていた。
「あの。傘差しても濡れるでしょう?良かったらこっちに入ってください。少しはマシだと思います。」
客はほんの少し眉を上げて。黙ったままの隣に入ってきた。
これで待たせてる間に濡れることはない・・・とホッとして、は作業を再開した。
バラ・・・ユリ・・・デルフィニウム・・・あとは・・・
甘めの配色に加えて香りを重視した。
そこにあるだけで、ふんわりと優しい香りがするように。
黙々と作業をするの前髪から雨の雫が落ちていく。
それを時々拭いながらする作業。
奥に仕舞ってしまった花を出すために他のドアから体を滑り込ませては、また雨に濡れる。
雨がの体温を奪っていき、色白の顔は赤みのない真っ白な顔になっていた。
「リボンの色とか、ご希望はありますか?」
「いや。まかせる。」
男の声に。一瞬、ドキッとして手が止まった。
うわぁ、この人。すごくいい声。
隣に立つ客を意識したら急に緊張してきた。
だから客は極力見ないようにして、黙々と花束を作っていった。
「いかがでしょう。」
最後にリボンの端を始末して振り返った。
それだけで周囲に甘い香りが漂う。
華やかでいて騒がしくない。全体的には甘く。
けれど男の人が持っていく花束だから、少しブルー系も入れて爽やかな感じにした。
じっーと花束を見つめた客が胸のポケットから財布を出してきた。
「それでいい。いくらだ?」
「1万円です。」
客の手が止まる。
「マジか?」
思わず噴出してしまった。
すました顔で立っていた男性の本来の姿を垣間見たかんじ。
目を見開いて唖然としている顔がおかしくて、はクスクスと笑った。
「マジですよ?消費税込みです。」
「お前・・・そんなんじゃ商売にならないだろう?」
「そうでしょうか?一応、もとは取れてると思いますけど。」
「そんなんじゃ潰れるぞ。取れるものは、しっかりとれよ。」
「あはははは。はい。」
説教されてが笑うと。男性もほんの少し口元を緩めて金を出した。
が、それは3万円。
「そんなっ・・・1万円ですって。」
「いいんだよ。客がいいって言ってるんだから受け取れ。」
「駄目ですッ!1万円は1万円。何が起ころうと1万円ですっ」
は受け取らない。それどころか力強く主張した。
が、客も引かない。段々と口が悪くなっていく男性客。
「お前っいい加減にしろよ。一回出した金を引っ込めんのは嫌なんだよっ」
「もうっ。 ちょっと財布を出すだけでしょ?さっさと仕舞って、さっさと行ってください。」
「何っ?」
「分からず屋」
「どっちがっ」
黙り込んで睨みあう。
花束を抱いたままの。札を握ったままの客。
なんか可笑しくて。ぷっとが吹き出すと。客もふっと笑った。
二人でクスクスと笑う。
「それなら・・・またお花を買ってください。土曜日はここに店を出してるんです。だから。」
「土曜日か。分かった。」
客は苦笑しながら財布に札を収めて1万円だけをに差し出した。
はニコニコしながら花束を差し出す。
「ありがとうございました」
客は花束を受け取ると傘を差して、屋根にしていた車のドアから出て行く。
その背中を見送るを男が振り返った。
「おい。風邪ひくなよ。」
「あ・・・ありがとう。」
の返事に満足そうに微笑んで、男は背を向けた。
優しい・・・人なんだ。
体は冷え切っていたが、心はあたたかくなった。
いつの間にか雨も小降りになっている。
さあ、今度こそ店じまい。
は急いで片付け始めた。
また・・・会えたらいいな。
心の中。自然と思いながら。
それが、と景吾の出会いだった。
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