花が咲く 壱
〜Thankk you 700000HIT present to 菘〜
段差がある度、跳ねる自転車。
流れる景色は冬から春へと色を変えている途中だ。
まだ頬や耳を冷たくする風に吹かれながら、見慣れた広い背中に話しかけた。
「ねぇ、貞治。」
「うん?」
前を向いたままの彼は、私を後ろに乗せても余裕な感じで自転車をこいでいる。
まだ冬なんだからマフラーをすればいいと思うのだが、面倒くさいのか貞治はしない。
寒々しいうなじを見上げ、さっき見た光景を思い浮かべる。
三十分前も私は貞治のうなじと背中を見つめていた。
「さっき、告られてたでしょう?」
「え?ああ、・・・覗き見したんだ。」
「まさか。待ち合わせしてた自転車置き場で告られてたら、嫌でも見ちゃうでしょ。」
「なんだ。だから俺の顔見たとき、変な顔してたのか。」
「変な顔?」
「気不味そうな顔。」
そりゃ気不味いでしょうよ。
他人が告るところなんて、そうそう目の前で見るもんじゃないしね。
それに何ていうか・・・やっぱり思い出すしさ。
「可愛いコだったけど、今は女の子と付き合う時間的余裕がなくてね。
もったいないけど、お断りさ。まずは、カノジョよりレギュラーを取らないと。」
貞治は私の抱く内心の葛藤を知る由もなく、簡単に聞きたかった答えを口にした。
ホッと肩の力が抜ける。
貞治の後ろにいて良かった。顔を見ながらでは、とても聞けないことだ。
「そんなんじゃ、高校のうちにはカノジョできないね。」
「そうだなぁ。それは寂しいから、テニス部を引退すれば考えるよ。」
「その頃には受験だなぁ。」
「嫌なこと言うなよ、。」
貞治に下の名前を呼ばれるとドキッとして、次には胸がくすぐったくなる。
男子で私の名を呼び捨てするのは貞治だけ。
小学校から一緒の私たちは、俗にいう幼馴染だ。
「もうすぐ桜が咲くね。」
私は貞治の腰に少しだけ捕まって、もうすぐ見えてくるだろう土手の桜を思い浮かべる。
そうだね、そう答える貞治の声が三年前の声と重なって聞こえた。
『俺、のこと好きなんだけど。』
中学二年の春、桜が舞い散る土手で何の前触れもなく貞治に言われた。
動揺しながらも下手な笑顔を浮かべ、冗談には騙されないと言い返した。
『本気って言ったら、どうする?』
黒い学ランにピンクの花びらが落ちて、色のコントラストが綺麗だった。
背の高い貞治の後ろに広がる空は青くて、それが眩しかった。
今でも色ばかりが、やけに心に残っている。
『嘘だよ。は手塚が好きなんだろう?』
そう言った静かな貞治の声色は段々と薄れていく。
本当に『嘘』だったのか分からない。
あの頃の私は確かに手塚君に憧れていたけれど、好きとは違っていた。
周囲の友達が騒いでいたので、アイドルにでも憧れるかのようにして一緒に騒いでいただけ。
実際のところ手塚君に可愛いカノジョができた時も、みょうに納得して悲しくも悔しくもなかった。
知らなかった。
本当に誰かを好きになると、こんなにも苦しい想いをするだなんて。
「貞治、また春には後ろに乗せてくれる?」
「なに?改まって。」
「貞治の気になるコに誤解されるといけないから、一応ね。」
努力して軽く言った。
喉の奥で鼓動がドキドキしている。
貞治は「今も乗ってるくせに」と前置きして笑った。
少しだけ後ろを振り返るようにして、私に形の良い耳を見せる。
貞治の耳が赤い。
前は風をまともに受けるから寒いよね。
「いいよ。今は気になるコなんていないから。」
ヨカッタ。
まだ、大丈夫。
でもね。
気になるコには、私だってふくまれてない。
それはそれで、切ないよ。
花が咲く 壱
2008/02/11
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