本気のキミを無下にはできぬ 1










「なぁ。俺と付き合おう?絶対に損はさせんし」
「付き合うのに損得ってあるの?別に誰かと付き合って得したいとも思わないし」


「オトコマエやなぁ、ますます惚れそうや。じゃあ、損得なしで俺と」
「付き合いません。あのねぇ、忍足の冗談に付き合っていられるほど暇じゃないの」



言葉と同時にタオルを投げ渡し、空になったボールのカゴを持ちあげて歩き出す。


テニス部のマネージャーは力仕事の上に雑用が山ほどあるんだから遊んでいられない。
その背中に懲りもせず繰り返すのだ、忍足侑士という馬鹿は。



「つれないとこも好きや〜、ちゃん」



私は振りむきもせず、『ハイ、さようなら』と手を振ってやった。










食堂で女子に囲まれている忍足を見た。
可愛いコたちに話しかけられ、優しげに微笑む姿はさながらアイドルだ。
胡散臭い笑顔のアイドルだが、見た目はいい。


ふざけているとしか思えない丸メガネが、なぜか似合っている。
あのメガネがあるからこそ、目を逸らさずに端正な顔を見られると言ってもいい。
あんな男の冗談を真に受けて、うっかり頷いたりしたら大恥をかきそうだとあらためて思う。


食堂は諦めて購買を目指す。
触らぬ神には祟りもないだろうから。


教室で売れ残っていたクリームパンを食べていたら、突然に背後から目隠しをされた。


ひんやりとした大きな手。
背後をとられ、心臓が止まるかと思った。



「だ〜れ、だ」


「迷惑な関西人」
「迷惑は余計やけど、当たり。やっぱり愛の力やなぁ」



視界が開けたと思ったら、後ろから覗きこんでくる漆黒の瞳。
直視するのは躊躇われ、無視して残りのパンをかじる。



「なんやご機嫌ななめやなぁ。なんかあった?」
「べつに」


「あ、ひょっとして・・さっきのか?」
「さっき?」



また何を思いついたのかと視線だけ動かせば、眉を寄せた忍足がいたわる様な笑みを浮かべた。



「心配せんでも、あの子らとは何もないから」
「はい?」


「妬いてくれるんは嬉しいけど」



パンが喉に詰まりそうになって野菜ジュースを飲んだ。
この男の頭の中はどうなっているんだろう。というか、コッチを見ているふうでもなかったのに。


私はもう一つ残っていたカレーパンを袋ごと差し出す。



「このカレーパンあげるから、あっちに行って」
「え〜、まっええか。あとな」


「なに?」
「俺、メロンパンのほうが好きやから。次はメロンパンで」



絶対にメロンパンは買わない。
そう心に決め、カレーパンひとつで忍足を追っ払った。


私は機嫌など悪くないし、忍足の取り巻きに妬くことなんてない。
気になって窓際の席に目をやれば、カレーパンを手のひらにのせて嬉しそうに眺めている忍足がいた。





忍足がふざけた事を言い始めて、もう随分と経つ。


とっかえひっかえしていたカノジョの姿を見なくなったのは、いつからだったか。
女のコたちからの差し入れを断るようになったのも同じ頃だったかも。



その理由は?










「忍足がカレーパンを宝物にしてたぜ」
「明日が賞味期限だよって教えてあげて」



ラケットを指先に立たせた宍戸が言うのに返せば、「相変わらず冷てぇのな」って笑われた。
私が抱えた練習用のコーンを横から宍戸が持ってくれる。
口は悪いが意外に好い奴なのだ、宍戸は。



「で?忍足の何がダメなんだ」
「ダメもなにも本気じゃないでしょ。からかわれる、こっちの身にもなってよ」


「そうかぁ?俺にはそう見えないけどな」



そもそも、アイツのお前を見る目が違うだろうと。


口をつぐんだ私の横顔を宍戸がじっと見ているのを感じる。
これ以上は何も言わせないと無視をきめこむ私に、宍戸は呆れたように呟いた。



「お前さぁ、可愛げが足りな・・痛っ」



遠慮のない宍戸の足を思いっきり踏んでやった。




















本気のキミを無下にはできぬ 1

2010/04/05



















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