本気のキミを無下にはできぬ 2










「忍足が風邪をひいて休んでる。これで何か買って持って行け」



跡部が財布から出したのは一万円札だった。
この暑い夏に風邪をひきやがったのか、なんで私がという気持ちも浮かんだけど・・・それより。



「ねぇ、千円札持ってないの?」



跡部の財布には万札しか入っていないという噂は本当かもしれない。



「あ?これじゃ足りないか?」



そう言って、また一万円札を財布から抜こうとする跡部を焦って止めた。
跡部は忍足に何を持って行かせたいのだろうか。
まさかお見舞い用の高級果物籠でも買って行けと?



「いえいえ、十分。後でレシートと残金を返すから」
「細かい釣りはいらないぞ」


「お願いだから返させて」
「まぁ、いいが。足りなかったら、また請求してくれ」


「足りないことはないよ、うん」



あまりに庶民感覚から外れている跡部に呆れ、断るタイミングを逃してしまった私だった。


これはマネージャーの仕事から逸脱していると思う。
忍足の相棒である向日に跡部から貰った一万円を握らせようとしたが振り払われた。



「やだね、大会前に風邪うつりたくないし」



マネージャーが大会前に風邪をひくのは良いらしい。
というか、大事なダブルスの相棒なのに放っておいていいのか?


向日のおかっぱ頭に『ハゲろ』と呪いをかけ、忍足の住む家の場所を聞いた。





休日の部活を途中で抜け、とりあえず本人に何がいるのか確かめようと電話をしたが出ない。
他の手段でも連絡を取ろうと試みたが、返信はなし。
ひとり暮しみたいだし、さすがに心配だ。



「ジロちゃん、自転車借りるよ~」



遠くで練習しているジロちゃんに声をかけたら、こころよく了承の意を表しラケットを振ってくれた。
鍵をかける習慣がないジロちゃんの自転車は、数ヶ月に一度は盗まれているが良いのだろうか。
自転車を借り放題のテニス部員にはありがたい存在だけど。


そんなことを思いつつ、ジャージ姿のままジロちゃんの自転車に乗って出発した。





途中の店で忍足に電話をしたが、やっぱり出ない。
しかたないので適当に必要そうなものを跡部のお金で買い、忍足の住む家を目指した。



わりと学園から離れた場所だ。
氷帝は他県から進学してくる子が多いので、近くに大きな学生寮がある。
寮に入っておけば病気をしても誰かがなんとかしてくれるのだが・・・合わないのかね。



照りつける真夏の太陽の下、自転車をこいだ私は汗がダラダラだ。
ちょっと迷ったりもしたが何とか目当ての家を発見。
二階建ての単身者用ぽい小綺麗なアパートだ。



しっかり自転車の鍵をかけてから、教えてもらった部屋番号の前に立った。
ピンポンを押し、しばし待つ。
待つ間に変な緊張感があり、わけもなく手にした袋を持ち直す。


応答がない。
後ろをバイクが走っていくのに気をとられながら、再びインターフォンを押す。
今度は続けて押してやった。


これで出なければ、どうすれば・・・
考えていたらプツっと音がした。



『え・・?なんで』



忍足は生きていたらしい。
私が名乗るより先にインターフォンのカメラで分かったらしい。
掠れた声が名前を呟くと直ぐに奥から物音がし始める。


ガチャガチャと音がして、玄関ドアが開かれた。


眼鏡のない素の忍足が目を丸くしている。
乱れた長めの黒髪も相まって、忍足ファンから見たなら悶絶ものの姿だろう。



「えっと、どうして」
「お見舞い。跡部に頼まれたの。熱は?」


「測ってない。というか、体温計がないんやけど」
「さすがに体温計は買ってこなかったわ。電話、出ないし」


「あ・・ほっといたから充電切れてるかも」



具合が悪いのに部活に出るつもりだったのか、テニス部のTシャツとジャージを着たまま。
昨日まで元気そうだったから、今朝になって急に具合が悪くなったのかもしれない。
そう思うと少しかわいそうになって、忍足の額に手を伸ばした。


それにも吃驚したらしい忍足が若干のけぞったが、気にせず額に触れる。
かなり熱い。外を自電車で走ってきた私が熱く感じるぐらいだから相当だ。


よく見れば頬も赤いし、結構つらいのだろう。


手にした袋の中を見せるようにして忍足に差し出す。



「額に貼るシートが入ってるから。あと水分補給のドリンクね。他に直ぐ食べられるようなもの」
「うん・・・ありがとう」


「アイスクリームとか冷たいのも食べやすいかと思って。すぐに冷やしてね」
「わかった」


「今日は病院休みだけど、大丈夫?」



いつもの忍足なら打てば響くように返ってくる言葉が出てこない。
あ然としているというか、信じられないものでも見ているみたいに私から視線を動かさない。
汗の浮かぶ顔をマジマジ見つめられるのは居たたまれない。



「大丈夫ならいいけど。それじゃ、お大事に」



役目は済んだと身を引いた私の腕が強い力で引かれた。
手のひらの熱さが肌に伝わり、息が止まる。



っ」



大きな声で名前を呼ばれた。
切羽詰まったみたいな忍足の視線に怯んで声が出ない。



「好きや。本気で想うてるから」



つきあってください、お願いしますと忍足は頭を下げた。




















本気のキミを無下にはできぬ 2 

2015/05/12




















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