本気のキミを無下にはできぬ 完










ジローちゃんの自転車に鍵をかけ忘れた。
普段から鍵をかけないジローちゃんは気にしないだろうけど、私は気になる。
コートに向かっていた足を止め、鍵をかけるために戻った。


跡部に残ったお金も返した。
札も小銭も後ろに立つ樺地君に平然と渡す跡部。だか、つっこむ気力もない。


忍足の具合はどうだったと聞かれても、咄嗟に言葉が出なかった。
口ごもる私を見て、跡部が眉を顰める。



「なんだ?そんなに具合が悪かったのかよ」
「いや・・・どうかな。熱はあったけど」


「咳してるようでもなかったが、夏風邪か?」
「なんだろうね」


「なんだろうねって、お前」



見下ろしてくる跡部の片眉が上がるのを見た。
あ、絶対に『コイツ、使えない』とか『子どもの使いじゃねぇんだぞ』と思っているに違いない。


男漁りを目当てにくる女子マネはいらないと突っぱねていた跡部が、わざわざ女テニのマネをしていた私を引き抜いた。
その期待に応えられないのは、私としても本意じゃない。


ひとつ息を吐き、動揺を悟られないよう気をつけて口を開く。



「熱は測ってないけど、高熱で動けないってほどではなかった

 部活のジャージを着てたから、行こうと思って着替えてみたものの具合が悪かったみたいな感じだと思う

 話している間は咳も出てなかったし、鼻声でもなかったから分からないけど

 熱さえ下がれば大丈夫って本人は言ってたよ

 明日も熱が下がらないようだったら、私が病院に連れて行く」



以上ですと心の中で付け加えて跡部を見たら、少し顎を上げて薄ら笑いを浮かべていた。
ご満足いただけたのか知らんけど、相変わらず嫌な笑い方するなぁと思う。



「跡部のお金で飲み物と簡単に食べられる物、熱を下げるシートとか買ったから」



つけ加えると、ふふんと跡部が鼻で笑った。



「忍足の奴、なんか言ってたか」



ぎくっとするが、問われているのは部活とか跡部の差し入れに関することだろう。



「ありがとうって言ってた」


「へぇ。あとは?」
「とくに・・・寝てたみたいだし」


「家に入ったのか?」
「まさか、玄関先だよ」



慌てて答えると、また跡部が意味ありげに私を見て笑う。
なんなの?心臓に悪いのだけど。



「他に聞く事がなければ」
「お前、分かりやすいな」



分かりやすい?
言葉が呑み込めなかった。



「忍足の名前を出るたび、きょどってんの丸わかりだぜ
 付きあうのはいいが、部活に影響が出ないようにしろよ」



不意打ちのダメージを私にくらわし、跡部は笑いながらコートに戻って行った。





忍足は言った。
熱のある頬を更に上気させて、震えるような声で私に頼んだ。



『冗談とか、ノリやない
照れるから、ふざけたみたいな物言いになってたけど俺は本気やから
せやからも真面目に考えて返事をくれ』



その場で無理だと言いそうなった私の口元に忍足の指が伸びる。
唇に触れはしないけれど言葉を止めるように。



『直ぐに答えを出したら駄目や
 ちゃんと考えた返事が欲しい。目をそらさずに俺を・・見てほしい』



忍足の声を思い出して、私は水飲み場に座り込んだ。
頭を抱え「ギャー」とか「ワー」とか叫びたい気分だ。
それじゃなくても気温が上がっているのに、顔が熱くて熱くてたまらない。



なんなの?忍足は少女漫画でも愛読してるのか?
一般の男子高校生があんな甘いセリフをすらすらと口にできることが信じられない。


なにより信じられないのは、甘く告げられた忍足の低音ボイスにうっかりときめいてしまったことだ。
思い出すだけで何度でも心臓がドキドキするし、意味不明なことを叫びたくなる。



どうしよう。
具合が悪い時に冗談を言ったとは思えないし、何より忍足の目が本気だった。
あれは大事な試合の時に見せる忍足の目だ。


いつもは『ちゃん』とわざとらしく呼ぶのに、今日は『』と真面目に呼んだ。


本気じゃないと信じていたからこそ聞き流し、適当にあしらってきた。
それが違うとなったら、今までのようには流せない。





「まずい・・・まずいよ、どうしよう」





うずくまったまま独り言を呟く私の背中を
宍戸たちが生温かい視線で見ていたことなど知るよしもない。













本気のキミを無下にはできぬ 完 


2015/05/19




















戻る     テニプリ連載TOPへ