瓢箪から駒 1











今日は乾の結婚式。
朝からヘアサロンに行って、なんかもう気合いの入ってる私。
三十を前に恋人もいない私にとって、友人の結婚式は出会いのチャンス。
これを逃してなるものかと一週間前から念入りに美白パックまでしてしまった。


なかなかに素敵なスタイリストさんが、丁寧にブローしてくれるのを鏡越しに鑑賞しつつ思う。



それにしても・・乾が結婚とはねぇ。





『は?結婚?誰が』
『俺』


『俺って・・・乾?まさかっ』
『うん。その、まさか』



それは数か月前に聞かされた、今年一番のびっくりニュースだった。
偶然に駅で会い、なら夕飯でも一緒に食べようかと行った先で聞かされた。



『誰、誰?私の知ってる人?』
『知らないだろうね。見合いだから』


『お見合い!?本当に?』



乾にお見合いを持ってくるような人がいたんだ。
心底驚く私をよそに、乾は照れるでもなく淡々と事の次第を語り始めた。
女っ気もなく大学に残って研究ばかりしている息子を心配して、両親が必死に探してきた見合い話だったとか。
会ってみたら悪い人でもなさそうだし、断る理由もないので結婚することにしたとか。



『結婚って、断る理由もないからするものだったっけ?』
『そんなものだろう?』



しれっと答え、乾は揚げ出し豆腐を黙々と食べていた。



『で、彼女は幾つよ?やっぱり年上?』
『いや。俺より一つ二つ下かな。いや、もっと下だったかな』


『へぇ〜、意外。で、どんな人?』
『さぁ。あまり話してないから分からないな。普通の人だと思うが』


『乾・・・』
『うん?』


『揚げ出し豆腐を食べてないで、奥さんになる人と話し合った方がいいよ』
『何を?』


『何でもよ。まずは生年月日から!』



なんで?面倒くさいんだけどオーラを醸し出している乾を前に、本当にコイツは結婚できるのかと心配になる。
それと同時に『私だったら絶対に(強調)こんな男とは結婚しないね』と内心で悪態をついた私だった。


翌月には披露宴の案内がきて、本当に結婚するのかと再び驚いた。

あの調子では破談にされても仕方ないと思っていたから。





中、高、大学と一緒だった私でも、乾という男は理解不能だ。
背も高いし、顔だって見られないほど酷くはないと思うのだが、とにかく変わっている。
彼の研究室からは常に異臭がしていたし、時には壁に向かって会話したりしていた。
いつもジャージの上に薄汚れた白衣をまとってフラフラと歩いていたのが乾。


なのに何故かモテた。
それも年上ばっかりで、綺麗なお姉様が運転する車の助手席に乗っているのを何度も目撃したっけ。
これっぽっちも乾の魅力が分からない私だったが、腐れ縁で長く続いた付き合い。


その間に一度も恋愛感情を抱くことのなかった貴重な異性が乾だ。
変人の乾でも結婚できるんだ。私も頑張ろうっと。



鏡に映る自分を励まし、ちょっとだけ空しくなった私だった。










披露宴の時間には早いし、どこかで時間を潰そうかなと考えているところで携帯がなった。
確認すると意外な名が浮かんでいるのに眉をひそめ、とりあえずは急用なのだろうと電話に出る。



「はいはい。乾?.」
『ああ、連絡がついて良かった。急なんだけど、すぐに式場へ来てくれないか』


「いいけど。どうしたのよ?」



話しながら、ショップの大きな窓ガラスに映る自分の姿をチェック。
うん、まぁまぁいいんじゃない?



『それがさ』
「うん」


『花嫁に逃げられた』



もう少し痩せて・・・、は?
花嫁が、どうしたって。



『逃げたんだよ。悪いんだけど、今すぐ君に来てほしい』





ショップのガラスには驚愕に言葉を失った私が映っていた。




















瓢箪から駒 1 

2013/07/25




















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