始まりは何気ない一言。
体育館での全校集会が終わった後、民族大移動状態で教室に向かっている時だった。



「あの女、キレイだな。」



真田が呟いた言葉に、柳と幸村は必死で彼の視線の先を追った。
そこには生徒会会長のがファイルを小脇に抱え、ダラダラと歩く生徒達の間を颯爽と通り抜けていく姿があった。


なんとっ。
柳と幸村は顔を見合わせて目配せをする。
消えていくの背中を見送った真田は、何事もなかったように教室へ続く階段を昇り始めた。










     真田弦一郎改造計画 その1 〜真田が恋?!〜










「マジっすか?信じられねぇ。あの真田副部長が恋をするなんて。」
「赤也。弦一郎とて人間だ。恋もするだろう。」


「にしても相手が会長さんとはのう。高望みをしたもんじゃ。」
「彼女は成績優秀ですし、容姿も申し分ない女性ですからね。」


「けどよ、そりゃライバルが多いだろい。な、ジャッカル?」
「確かにな。俺と同じクラスだが片想いしている男も多いと思う。」



真田が風紀委員会に出席して居ない事をいいことに、レギュラーたちは部室で額を突き合わせていた。
黙って話を聞いていた部長の幸村が組んでいた手をポンと叩く。



「ね。ここはさ、俺たちが協力して真田の恋を成就させてやろうじゃないか。そうすればヤツの眉間の皺も減るだろうし。」
「幸村。弦一郎の眉間の皺と恋の成就との間に、どんな関係があるんだ?」


「真田って硬いじゃないか。カノジョでも出来れば、少しは柔らかくなると思わない?」
「うむ。その確率は63パーセントぐらいかな。」


「あ、じゃあ。俺も殴られなくてすむようになるかもしれないってことっすよね!」
「赤也。その確率はきわめて低い。お前は素行に問題があるからな。」


「ええーっ!なんでなんすかっ!」



騒ぐ赤也を無視して柳が部員達の顔を見回して質問した。



「弦一郎の恋を成就させように賛成の者、挙手を。」



ばらつきがあったものの手を挙げたのは全員だった。
幸村の提案には逆らえない部内の雰囲気があったのと、なんとなく楽しそうだと思った部員達だった。


それは楽しそうに幸村がパンと手を叩いた。



「じゃ、決まりね。まずは情報収集して作戦をたてないと。そこら辺は柳に任せよう。」
「了解した。の情報はジャッカルと仁王に集めてもらおうか。」


「ジャッカルはクラスが一緒じゃけ分かるが、なんで俺が?」
「仁王がを口説いた確率は86パーセントとみたが違うか?」



ぐっと言葉に詰まった仁王が頭をかいた。



「確かに、うちの参謀には嘘がつけんの。じゃが、一年以上前じゃ。それに、ケンモホロロにあしらわれたぜよ。」
「女性キラーの仁王君を袖に振るとは、たいしたものですね。」


「柳生が言うとジョーダンに聞こえんからやめてくれ。
 彼女の理想は『全てが自分より上の男』じゃそうじゃ。俺は成績の時点で負けとる。相手にもならんいう感じじゃった。」


「それは核心的な情報だな。成績なら弦一郎は問題ないだろう。いつも学年トップ5には入っている。」
「あ〜、でも。勉強は出来ても、ちょっとバカだけどね。いや、ちょっとかな?」



恐ろしい鬼の副部長をこうも簡単にケナセルのは、最強の部長幸村しかいない。
皆は聞かなかったことにして話を進めた。



「とにかく当の弦一郎に知られてはいけない。分かっているな。」
「じゃ、次の会合は来週の風紀委員会の日に。それまでに情報を集めてきてね。」



柳と幸村の声にレギュラーたちは頷いた。










その頃の真田は、風紀委員会で紙パックジュースの歩き飲み禁止を求める意見を述べていた。
先日、イチゴミルクのジュースを飲みながら部室に入ってきた赤也と出会い頭にぶつかり、
立海のレギュラージャージがピンクに染まった。
その場で直ぐに赤也を一発殴ったが、いまだ腹の虫が収まらず風紀委員会にかけることにしたのだ。
真田の意見に眉を寄せるものもいたが、
その日たまたま出席していた生徒会長のが賛成したことによりアッサリと真田の提案は通った。


真田は満足げに頷いて、心の中で思う。



『ふっふっふっ。赤也め、これで紙パックジュースの歩き飲みは出来ないぞ。
 それにしても思った以上に、すんなりと意見が通った。これも、会長のお陰か。
 うむ。俺が思ったとおり・・・あの女、キレるな。』



そう。真田は『キレイ』とは言ってなかった。
単に柳と幸村が聞き間違えただけの事で、真田はへの恋愛感情など、これっ
ぽっちも持っていなかった。










「幸村、ひとつ気になったことがあったのだが・・・聞いてもいいだろうか?」
「うん?いいよ、柳。」


「弦一郎の眉間の皺に拘っていたように思えたのだが、どうしてだ?」
「あー、あれ。あれさ、あの真田の眉間の皺を見てると嫌な気持ちになるんだよね。」


「嫌な気持ち?何故だ?」
「思い出すんだよ。中三の時、入院した時の事をね。」


「幸村・・・」
「俺の病状が悪化するにしたがって真田の眉間の皺が深くなっていってさ、
 あれを見てるうちに余計に具合が悪くなったというか、嫌な気持ちになったというか。一種のトラウマ?」



言いながらポンポンとラケットで肩を叩いている幸村の背中を柳が軽く叩いた。



「お前のトラウマを克服するためにも。この作戦を成功させて、弦一郎の眉間の皺を一つでも減らそう。」
「そうしてくれると助かるよ。あ、真田が向こうから歩いてくる。」


「ふむ。何やら弦一郎の機嫌がいいな。歩き方で分かる。」
「あ、そうだよ。きっと委員会で彼女に会えたんじゃないの?」


「なるほど。恋とは歩き方まで変えるのか。いいデータが取れそうだ。」



二人がボソボソと話しているのにも気づかず、真田は上機嫌で赤也のもとに向かっていた。
さっき決まった校則を伝えるためにだ。




















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