『カレシとカノジョと言えばデートだろう?』 
『デート?俺に、そんな時間はない。赤也を鍛えなくては、』


『赤也は俺が鍛えておくから、真田はカノジョに逃げられないようデートに行っといでよ。』 
『俺は去るものは追わん。男とは、そういうものだ。』 


『・・・真田。部長命令だ。来週末デートに行く事を命ずる!』 
『横暴だぞっ、幸村!』


『やかましいっ、そんなに不満なら部長になってみろっ』
『なんだと?』



言い合いしながら、中央のコートでラリーは延々と続く。
部員達は恐ろしくて誰一人近づこうとしないため、両脇のコートが空いている。



「柳ぃ。あれじゃあ、練習できないだろぃ。俺、帰ってもいいかぁ?腹減ったし。」


「・・・胃が痛い気がする。」柳が小さく呟いた。










     真田弦一郎改造計画 〜お付き合い編〜 その1










「食べ物といえば、丸井だろう。」
「まかしとけぃ。」



丸井は意気揚々と真田に向かって行った。
デートに行く気がない真田に『せめてカノジョと食事に行け』と命じたのは幸村だった。
土曜の部活前に二人に食事をさせよう・・・という作戦だ。
渋々了承した真田だが、今度はカノジョを何処に連れて行って何を食べるつもりなのかと幸村は不安になった。
で、食べ物担当の丸井に真田の意識調査命令が出たのだった。


食べ物なら何でもござれの丸井には、超簡単な任務だと誰もが思っていた。だが・・・



「真田。ちょっと、質問があるんだけど。」
「なんだ?俺は今からサーブ300本の打ち込みをするんだが。」


「あ、いや。時間は取らせないから、ちょっとベンチにでも座らね?」
「なんだ、かしこまって。俺に相談か?」


「ま、そんなもんだ。」



二人は並んでベンチに座る。
その後ろにはフェンスがあり低木が植えられていた。
低木の後ろには、いつもの如く立海のレギューラー陣がしゃがみ込んで聞き耳を立てていた。



『丸井、なかなか誘いがうまいのぅ。』
『静かに。弦一郎は地獄耳だ。』



真田はベンチに座ってラケットを置くと丸井のほうを向いた。



「で、相談とは何だ?」
「いや、あの・・・たいしたことないんだけど。」


「たいしたこともないのに、俺のサーブ300本の時間を使ったのか?」
「そっ、そんなことないぜ。いや、お・・俺にとったら重要な事だ。」



そう、ある意味・・・丸井にとっては重要な事だ。
以前、任務に失敗した相棒のジャッカルが後にどんな恐ろしい目にあったかは聞いている。
自分は失敗するわけにいかない。



「ほう。では、なんだ?ハッキリ、言え。
 俺は今日の夜、教育テレビの『初めての盆栽』を見なければならんから急いでいるんだ。」


「夜って、まだ夕方にもなってないぜ?」


「それまでにサーブ300本。その後、赤也を相手に一時間の乱打練習がある。
 家に帰ってからは予習復習に加え、竹刀の素振り300回もあるからな。時間がない。」



木に隠れたレギュラー陣たちは溜息。



『弦一郎は努力の人だな。』


『ちょっと待ってくださいよっ、いつの間に俺と真田副部長のマンツーマン練習が予定に組み込まれてるんすかっ!』


『ていうかさ、みんな・・・真田が盆栽の勉強を始めた事に、つっこもうよ。』


『シッ、切原君!幸村君も声が大きいですよ。』



丸井は背中に嫌な汗が流れるのを感じながら、緊張気味に話を切り出した。



「あ、あのな。週末の事なんだけど、真田はを何処へ連れて行くつもりかなぁ?なんて。」
「そんなことで俺を呼び止めたのか?」


「いっ、いや。お、俺もデートとかあった時の参考にしようかなと思って。ほら、真田の方がカノジョ持ちの先輩になるだろ?」
「それが相談なのか?」


「そうそう。俺にとっては重要な事だから、なっ?教えてくれよ。」



そういうことなら。と、真田が前を見てキッパリ言った。



「焼き肉屋だ。」



ぶっ。と、幸村が噴き出した。
ジャッカルの背中をバシバシ叩きながら笑い転げ始める。



『聞いた?焼き肉屋だって、焼き肉!初デートだよ?そんなん親と行けって』
『幸村、分かったから背中を叩くなって、痛いから。』



「丸井、今・・・何か聞こえなかったか?」 真田がキョロッと周りを見るから丸井が慌てる。
「き、気のせいだろ。」


「そうか?確か、後ろで・・・」
「真田っ、あのよっ、デート、デートだぜ?休日に家族で外食に行くのとは訳が違うだろい?もっと他に無いか?」


「ああ、いや自分が食べたかっただけだ。最近、食ってないなと思って。」


「真田・・・焼肉は初デートに連れて行くような場所じゃないぜ?
 あのさ、他にもあるだろ?チョコレートパフェとか、クレープとか、ケーキとか女が喜びそうなものが沢山よ。」



柳は『真田弦一郎改造計画』と書かれたノートを手に会話を速記で記していた。



『ブン太の食べたい物を羅列しているな。』
『というか、昼食じゃないじゃろ?デザートじゃ。』


『とにかく真田の答えを聞いて、あのガチガチの石頭を洗脳するのが俺たちの仕事だよ。』



洗脳かよっと幸村の発言に皆が心の中だけでつっこみつつ、耳をすませて真田の回答を待った。



「ああ、それなら。俺の好物を食べさせてやろう。」
「真田の好物?」



丸井は嫌な予感がしていた。
真田がレギュラージャージのポケットに手を突っ込み何かを出してくる。
丸井の前に差し出された一本の棒。



「うまか棒コーンポタージュ味だ。もう一本トンカツソース味もあるぞ。」


「真田・・・それは違うだろい。」



丸井ブン太は初めて自分の限界を感じた。










テニス部部室にて。
さっきまで涙を流して笑い転げ、ジャッカルに支えられて部室に戻ってきた幸村がやっと立ち直って言った。



「駄目だね、話しにならないよ。俺が女なら真田のポケットから『うまか棒』が出てきた時点で殴ってる。」
「ふむ。弦一郎が『うまか棒』を好んでいるのは知っていたが、まさかジャージにまで忍ばせているとは予想外だな。」


「うまか棒を差し出されて女が喜ぶと本気で思うちょるんじゃろか?それとも、俺らの作戦がバレちょったとか?」
「いや、弦一郎は大真面目だろう。カノジョには自分の好物も食べさせてやりたい。純粋な男心とも言える。」


「とにかく、お付き合いが続かなければ意味がありません。
 もう少し女性を喜ばせるというか・・・こう普通の高校生がする程度の付き合い方を教育しなけば。」


「柳生の言う通りだ。あるべき男女交際の実際を見学させてみるのも一つかもしれないな。
 聞くより実際に見るほうが教育効果が高い。そうだな、幸村?」


「そうそう。正しい男女交際というものを仁王に教えてもらおうか。」


「お、俺か?ちと、自信がないがのう。や、柳生にお願いを・・」
「私は彼女がいません。どうぞ、仁王君。」


「仁王。俺ね、どうしても真田の眉間の皺を減らしたいんだ。頼むよ。」



ニッコリと微笑んだ幸村の目が笑っていないのを確認した仁王には頷くしか選択肢がなかった。





「さっさと立て、赤也っ!初めての盆栽が見られなくだろうがっ!」
「も・・・いいっスから。帰ってテレビを見てくださいって、」


「なに?たるんどるっ!ほら、もう一本だっ!」



その頃、テニスコートでは・・・赤也が真田に特訓されていた。




















真田弦一郎改造計画 〜お付き合い編〜その1




















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