真田弦一郎改造計画 〜お付き合い編〜 その2
「で、彼女をランチには誘ったんだろうな?」
「ランチ?あ、いや・・まだだ。ここ最近は委員会もなくて会ってないのでな、誘えん。」
ロッカーでウェアに着替えながらの会話。
実はすっかり『ランチ』のことなど忘れていた真田だが、幸村の追求に何とか表情を取り繕い答えた。
「は?なに言ってんだ。ランチは明日だぞ、明日!携帯を出せ、真田!」
「携帯?いいが・・・電源が入ってないぞ?」
「電源が入ってないだって?そんなんじゃ持ってる意味がないだろう?
携帯電話ってのは、いつも電源入れて持ち歩くのが鉄則なんだぞ!」
電話に出るのが面倒。細かい操作もキライ。
加えて幸村の嫌がらせメールが多いから見るのが煩わしい。
自分がかけたい時だけ電源を入れればいいという、公衆電話的身勝手な使い方が真田の携帯であった。
「とにかくに今すぐ電話しろ!電話!」
真っ暗な携帯の画面を真田に押し付けた幸村に衝撃的な一言が落とされる。
「の番号など知らん。」
「はぁ?」
「電話番号など知ってるはずがないだろう?聞いておらん。」
「念のために聞くけど・・・アドレスも?」
「知らんな。」
暫しの沈黙。
「仁王!今すぐ、の電話番号とアドレスを入手して来い!」
「お、俺が?」
「お前が真田の担当だ!」
「俺の担当とは何だ?」
「真田は黙ってろ。つまんないとこだけ訊いてるんじゃないよ!」
「待て。それなら俺がリサーチ済みだ。こんなこともあろうかと思ってな。」
柳が冷静な声でポケットからノートを出してきて呟いた。
恐るべし、柳蓮二。他人のカノジョの電話番号とアドレスまで知ってるのだ。
カッカッしている幸村は柳からノートをひったくると、直ぐに真田の携帯を操作し始めた。
携帯を耳にあてて呼び出し音が鳴り始めたのを確認すると真田に突き出す。
「ホラ!お前のカノジョだ!」
「ホ、ホラと言われても何を言えばいいんだ?」
『もしもし?』
焦る真田の手元からは彼女の声が聞こえてきた。
「出たじゃないか!誘うんだよ、ランチ!さっさとしろ!イタズラ電話だと勘違いされて着信拒否をかけられるぞ!」
「いや・・だが、」
「もうっ、世話の焼ける奴だな。貸せ!」
幸村は真田から携帯を取り上げると、さっきまで出ていた声は何だったのかと思うほど爽やかな声を出した。
「こんにちは、幸村です。」
『幸村君?』
「ウン。今さ、真田の携帯から電話してるんだ。
あんな老成した顔してるくせにキミに電話するのを恥ずかしがっちゃってね。
で、僕がお節介にも代理で電話しているんだ。」
『そ・・そうなの?』
「ゴメンね。真田の奴、本当は24時間キミに会いたくて声も聞きたくて色々とムラムラしてるんだけど、
ムッツリだから言えなくてさ。」
「オイ、ちょっと待て!いつ俺がそんな事を・・・」
横から口を挟む真田の足の甲を幸村は容赦なくシューズの踵で踏む。
悶絶して蹲る真田を無視して幸村は続けた。
「でね、良かったら明日のお昼に食事でもどうかなと思って。
もちろん直ぐに押し倒したりはしないように良く言い聞かせておくから安全だよ。」
幸村・・・二人を上手くいかせる気が本当にあるんじゃろうか?
仁王の小さな呟きに柳が首を横に振った。
痛みに耐えながらも携帯に手を伸ばす真田の手を幸村は容赦なく叩き落す。
それでいて爽やかな声と笑顔を崩すことなく喋り続けた。
「あ、暇なんだ?良かったよ。
ウン、じゃあ・・・待ち合わせ場所は駅前ね。オブジェのある方。そこに11時でいいかなぁ。
そうそう。じゃ、そういうことで。あ、この番号は登録しといてやってね。
真田弦一郎って、今時ありえないっていう古臭い名前だけど真田にピッタリの名前をね、ヨロシクぅ。
え?なに?まさかぁ。僕と真田は親友だよ。」
「待て、幸村代われ!先ほどの言葉を訂正しなくては・・・」
「じゃあね!」
プチっと、な。
哀れ・・・真田の目の前で携帯は切られてしまった。
「ホラ、真田。こうやって男はカノジョをデートに誘うもんだ。」
「なに胸を張って自慢しているんだ!好き放題に人のことを吹き込んで。が本気にしたらどうする!?」
「別にいいじゃない。なんか嬉しそうだったよ?」
その頃、は沸騰する頭で弦一郎の『弦』という文字を検索しているところだった。
どうしよう。真田君ったら、真面目な顔して心は情熱的なんだわ。
もしも押し倒されたりしたら・・・いやん。まだ早いわ、真田君!
「あ、出た・・弦。弦一郎って登録。ああ、なんてステキな名前なのかしら。」
同じ頃、幸せなの知らないところで真田は頭を抱えていた。
「まずじゃが、明日の服装について。」
「待て。何故、俺が仁王からレクチャーを受けねばならん?」
「それは仁王が女ったらしだからだ。」
「オイッ!」
キッパリ答えた幸村に仁王がツッコミを入れたが相手にされていなかった。
「そんなもの必要ない。俺は赤也をシゴかねばならんので行くぞ。」
「待て!なら訊くが、真田は明日のランチに何を着て行くつもりだ?」
「ジャージに決まっているだろう?部活前だ。」
はぁ・・と盛大に溜息をついた幸村が肩をすくめて呆れたように首を振った。
「お前はいつもそうだ!真田の家にはジャージしかないのか?タンスの中はジャージしか入ってないんだろう?」
「いや。白のTシャツとポロシャツ、浴衣も入っているぞ?」
「真田、その時点でお前は手塚に負けている!」
「何故ここで手塚が出てくるんだ?アイツとジャージは関係ないだろう?」
「あるね、大有りだ。手塚も高校生とは思えない老け具合で真田と同類だが、まだ手塚は若く見せようと努力している!」
「な、何を根拠に?」
「この前、本屋で会った時の手塚はラベンダー色のビミョーなポロシャツの胸元に
超似合っていないシルバーのアクセサリーをつけていた!
涙ぐましい努力だと俺は思ったけど、365日をジャージでほっつき歩いている真田よりはマシだ!」
柳が何事かメモしている隣で仁王は泣きたくなっていた。
故郷の澄んだ青い空が懐かしい。
柳生、俺を呼びに来てくれ!と必死で念をコートに飛ばしていた。
「とにかくジャージは駄目だ!仁王、服だ、服!」
「もう・・・浴衣でええんじゃないか?新鮮じゃろ。」
脱力している仁王の答えをよそに幸村はヒートアップしていた。
「馬鹿!浴衣は夏祭りに花火大会と相場が決まってるんだ!」
「俺は寝るときも浴衣だぞ?」
「今時は80の爺さんでも浴衣なんぞ着て寝ないぞ!真田、今夜からパジャマに改めろ!」
仁王と柳は溜息をつきながら言い合いをする幸村と真田を眺める。
その頃の立海テニス部コートでは、鬼の居ぬまのなんとやらで和やかな部活が展開されていた。
「な、柳生。仁王は?」
「まだ部室から出てきませんが。」
「助けに行ってやらなくていいのか?」
「いいんです。この際、仁王君には生贄となっていただきましょう。」
そんな会話がされているとも知らず、仁王は柳生に念を送り続けていた。
真田弦一郎改造計画 〜お付き合い編〜その2
2007.02.05
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