真田弦一郎改造計画 〜お付き合い編〜 その3










真田のランチデートを前に、仁王は頭を抱えていた。
幸村が恐ろしいし、一応は真田にデートについてレクチャーしようと試みた。
だが・・・



「どうせ部活へ行くのに、なぜ私服に着替えなくてはならん?」
「ジャージはお前さんらしいと言えば、らしいが・・・ちょっとな。」


「飯を食うだけだろう?
 冠婚葬祭に出るならまだしも、飯を食うためだけに着替えるなど時間の無駄だ。」


「冠婚葬祭ってな、・・まぁいい。ジャージは仕方ないとして、せめて支払いは真田がして・・」
「それは困る。今週は漫画の新刊が出て金がない。それにお互い親に扶養してもらっている身だ。割り勘が基本だろう。」


「また『テニスのお侍様』か?お前も好きじゃの。いや、それよりじゃ。フリでも男が出す仕草をするのが礼儀じゃろ。」
「出す気もないのにフリだと?たるんどるっ!だいたいお前はいつもそうだ。詐欺師などと噂されて恥ずかしくないのか?」


「いや、まぁ、恥ずかしくはないが・・・俺の事は置いといて。彼女を何所の店に連れて行くつもりじゃ?」
「それなら、俺は蕎麦が食いたい。蕎麦屋だ。」


「蕎麦屋・・・」
「ああ、駅の立ち食い蕎麦屋が好きでな。サラリーマンで混んでなければいいのだが。」



それ以上に説得する気力を仁王は持っていなかった。
もともと努力とか忍耐は嫌いなのだ。
なるようになれと思う。


それでも、やっぱり幸村は恐ろしい。
泣く子と幸村には勝てないだろう。










明日はとうとうXデー。
仁王は心から信頼する自分のペア、柳生に弱音を吐いた。



「なぁ、ヒロ。もしもの時には俺を助けてくれるか?」


「何のことですか?」
「真田の石頭は変わらん。ジャージで立ち食い蕎麦、それも彼女に奢る気など皆無じゃ。」


「それは・・・ミッション失敗ということですか?」
「そうなるの。」



答えた途端、眼鏡を押し上げた柳生が素早く自分から離れた。
仁王は愕然とする。



「ちょっ・・まさか、ヒロ」
「申し訳ありませんが、私は君と心中する気はありません。それでは、お元気で。」


「待て、ヒロっ」



くるりと背を向けた柳生のシャツを掴んで、仁王は青くなった。
常々冷たいとは思っていた柳生だが、最後には必ず自分を受け入れて助けてくれた。
気まぐれで飽きっぽい自分に一番合ったのが真面目な紳士であった事は不思議だが、そんなこと今は問題ではない。
ここで柳生に庇ってもらえなかったら、部室のロッカーがなくなったり、真田とペアを組まされたりするかもしれない。
テニスは続けたいし、細かいうえに自分中心で直ぐに説教する真田とは組みたくない。


仁王は必死で柳生に縋った。
柳生には幸村と同じく妹がいる。二人ともシスコン気味なので、実は仲良しなのだ。



「酷いじゃないか、ヒロ。俺を見捨てるつもりか?泣くぞっ」
「仁王君が泣いたって可愛くありません。それに嘘泣きです。」


「ヒロ、俺がテニス部を辞めることになったら誰と組むんじゃ?
 柳は根暗なうえに何を考えとるか分からんぞ。幸村は問題外じゃし、真田は口うるさい。
 赤也はキレるからの、ヒロは苦労するぜ?」


「ジャッカル君なら暑苦しい容姿以外は問題ないのに。でも丸井君が引っ付いているし・・・」



柳生が真剣に考え込んで呟く。
ヨシヨシと内心で微笑む仁王を横目に、溜息をついた柳生はポケットから携帯を取り出した。



おお、幸村に命乞いをしてくれるのか。



ホッとしたのも束の間、柳生は想像とは違う人物に電話をしていた。



「あ、真田君のお宅ですか?私、弦一郎君と同じテニス部に所属しております柳生と申します。
 弦一郎君は御在宅でしょうか?はい。よろしくお願いします。」


「ヒロ?どうするんじゃ。」



仁王の問いに電話を軽く離した柳生が真顔で答える。



「幸村君と交渉するのは最後の手段です。あの人、頭に血が上ると人が変わりますからね。
 怖いし、シツコイし、たちが悪いし、悪魔みたいな人なんですから。
 ああ・・・真田君?柳生です。」



柳生の幸村に対する評価の酷さに絶句する。
実は彼らは仲良しではなかったようだ。



「テニス部の連絡網です。明日は部活の前に他校から見学があるそうです。
 はじめにご挨拶があるようですから、ジャージでは登校してこないようにしてください。そうです。制服でお願いします。
 あとですね、駅の蕎麦屋は店内改装中で暫くお休みですよ。念のためお知らせしておきます。
 連絡網は後に回さなくていいです。ええ。真田君が最後ですから。では、」



電話を切って、小さく息を吐いた柳生が仁王に済まなそうな笑みを浮かべた。



「すみません、これが私に出来る精一杯です。ジャージで立ち食い蕎麦が回避できればマシでしょう?
 嘘の言い訳は仁王君が考えてくださいよ。」


「ヒロ〜!」



持つべきものは素行の良い友。同じことを仁王が言っても、真田は決して信用しなかっただろう。
仁王と柳生ペアの絆が深まった瞬間だった。










そして、ランチ当日。
真田たちとの待ち合わせ時間より十五分前に集まったメンバー。
引きつる仁王の隣で、双眼鏡を覗き込んでいる幸村と柳がいた。



「野鳥の会に入ってる爺さんの双眼鏡を借りてきたんだ。すごいだろ?」



嬉々として語る幸村の隣で、柳が頷く。



「ふむ。これぐらい見えれば読唇術も使えそうだな。
 さて・・・残り一分三十秒ほどで弦一郎が現れるな。弦一郎は約束の十分前に来る習性がある。」



仁王は思った。やっぱり、この二人に心を許すことなど出来ないと。
そうして一分三十秒後、真田は約束の場所に現れた。


良かった、制服を着てる。だが、あれは・・・
仁王が思うのと、幸村が双眼鏡を投げ捨てる勢いで怒るのとは同時だった。



「なんだ、あれ!」
「せ・・制服じゃな。ジャージじゃないだけマシじゃろ?」


「それじゃないっ、あの激ダサ野球帽だよ!捨てたはずなのに、どっからまた拾ってきたんだっ」
「さ、さぁ?新しく買ったんかのう。」


「くそっ。誰だ、真田に野球帽を売ったのは!とにかくアレを何とかしなきゃ。」



もう笑うしかない仁王の隣で、イライラと携帯を耳に当てる幸村。
数秒後には携帯をバチンと閉じて更に怒り始めた。



「また携帯の電源を切ってる!アイツは携帯を持つ意味を理解しているのかっ。仁王、あの超センスの悪い帽子を奪ってこい!」
「そ、そんなことしたら切り殺されるかもしれん。」


「俺を敵に回すのと、どっちがマシだ?」



双眼鏡を手にニッコリ微笑んだ幸村は恐ろしかった。
その時だ。柳が「静かに!が来た。」と幸村の腕をひく。
三人は街路樹の陰に潜んで様子を窺った。


おお、も制服じゃ。神様、ありがとう!
心の中で信じてもいない神にお礼を言ってしまう仁王。
その隣ではチッと舌打ちする幸村がいた。



真田との初デートは始まったばかりだ。


















真田弦一郎改造計画〜お付き合い編〜その3

2007.08.26




















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