真田弦一郎改造計画 〜お付き合い編〜 その4
「ごめんなさい、真田君。待った?いや、俺も今ついたところだ。そう良かった。腹が減ったな、行こうか。はい。」
双眼鏡を覗きながら淡々と二人の会話を読み取って棒読みする柳がとにかく恐ろしかった。
歩き出した二人の後を追って幸村と柳が歩き出す。
その隙をみて、仁王は逆の方角に向かって全力疾走した。つまりは逃走だ。
「ちょっと、仁王。やっぱり隙を見て真田の帽子を取っきて・・あっ、逃げた!」
「気にするな。きっと仁王は迷子になったのだろう。」
「はぁ!?」
憤慨する幸村をよそに柳は双眼鏡を覗いては二人の会話をメモする。
「ふむ。ま、ひと先ずは良い雰囲気だ。」
「何がだ!柳はあの帽子野郎を野放しにしてもいいっていうのか?」
「別に犯罪ではないし、校則違反でもない。さ、行くぞ。交差点を曲がられてしまっては見失う可能性がある。」
「俺は許さないからね!くそぉ〜」
柳が思うに・・・他者から見れば二人は美男美女のカップルだろう。
彼女は真田の帽子など全く気にした様子もなく話している。
確かに以前は制服に帽子は如何なものかと思っていたが、慣れてしまえば気にならなくなった。
むしろ真田が帽子をかぶっていないと何か物足りないような奇妙な感覚さえしてしまう。
慣れれば大して気にならないぞと幸村に言ってやったが、俺は絶対に慣れたくないと返されてしまった。
あの帽子も近日中に捨てられる運命だろう。
尾行している二人がいることなど気づきもせず、は胸を踊らせて真田を見上げていた。
柳の言うとおり、は真田の『制服に野球帽』など気にもしない。
そんなミスマッチさえも好みなのだから愛は深いのだ(友人には「変だ」と言われているが気にしない)。
「あの・・・真田君、今日はジャージじゃないのね。」
「ん?ああ。突然に迷惑などこぞの学校が見学に来るとかで制服着用との連絡網があってな。」
「そうなんだ。ちょっと、残念。」
「残念?何故だ。」
「立海のレギュラージャージを着てる真田君って格好よくて・・・あ、ええっと何でもないの。」
自分が口にした言葉に慌て、はにかむは可愛らしい。
鈍い真田もさすがに向けられる好意がくすぐったくて帽子の上から頭をかいた。
「ジャージ姿が良いのなら、次からはジャージにしよう。その方が俺は楽で助かる。」
「次・・?ありがとう、嬉しい。」
「と、は頬を染めて俯いた。ふむ、想像以上にやるな、弦一郎。」
「ジャージ姿が好きだって?なんて変な女なんだ!俺ならゴメンだね。」
「そんなだから弦一郎を好きになったんだろう。心配しなくても幸村を好きになることはない。」
「なんかそれもムカつくな。俺のどこが真田に劣っているというんだ?」
「あ・・・弦一郎、そこは」
幸村が柳の肩越しに見た光景。
二人は駅前に新しく出来た立ち食い蕎麦屋に入っていくところだった。
いつもの店は柳生に店舗改装のためお休みと訊いた真田は、
前々から気になっていた新しい店にトライしてみることにしたのだ。
「俺も初めての蕎麦屋なのだが馴染みの店が休みらしくてな。味が保証できなくて、すまない。」
「ううん。私、一度でいいから立ち食い蕎麦屋に入ってみたかったの。
友達を誘っても嫌がられるし、ひとりじゃ入りづらくて・・・だから嬉しいわ。」
「うむ。そういえば女子高生らしき客は見たことがないな。」
「当たり前だ!ひとりで立ち食い蕎麦を食ってる女なんかと付き合えるかっ」
唇を読んで棒読みする柳の隣で幸村が憤慨している。
柳は双眼鏡を目にあてたまま、忍者のように店へと近づいて行った。
はニコニコとして、更に真田が喜びそうなことを言っている。
「実は牛丼屋にも行きたいと思ってるんだけど・・・」
「ああ、俺も牛丼は好きだ。なら今度連れて行ってやろう。蓮二たちとよく行くんだ。」
「本当?」
まさか俺たちと共に行くつもりではないだろうな?
嫌な予感を感じつつ、更に店の中が良く見えるポイントを探す柳の背中に冷たい視線が突き刺さった。
「幸村?」
「俺・・・お前たちと牛丼を食べに行ったことがない。誘われたことがない。」
「そ、そうだったか?幸村は肉より魚が好きだからだろう。」
「たまには肉だって食べるよ。俺って知らないうちに仲間外れにされていたんだ。
酷いよ!テニスが一番強いとか、アイドルになれそうなくらい美形だからって仲間外れにするなんて大人げないぞ!」
仁王に情けをかけて帰すんじゃなかった。
柳は自分の判断ミスに「まだまだだな、俺も」と反省する。
後ろからチクチクと幸村の精神攻撃を受けながら、柳は黙々とカップルの会話をメモしていった。
は嬉しそうに笑って、真田に続いて立ち食い蕎麦屋に入っていった。
憮然とする幸村と双眼鏡を手にメモする柳は不審者だ。
真田とは甘くもないが悪くもない雰囲気で、サラリーマンに交じって蕎麦をすすっていた。
立ち食い蕎麦屋では狭くて同じ店には入れないが、ガラス張りなので観察しやすい。
二人は会話もそっちのけで蕎麦を食べ続けている。
幸村は思った。
真田を見染めた女なのだ、きっとフツーじゃない。
だってフツーの感覚を持った俺なら、絶対に真田なんか選ばないもんね。
柳は思った。
弦一郎が良いという女性なのだ。きっとマニアックな趣味なのだろう。
とにかくお似合いの二人だということにして、なんとか幸村の興味を別に向けられないだろうか。
楽しくお喋りをして食事をする場所ではない立ち食い蕎麦屋だ。
蕎麦は数分で出てくるし、食べるのも数分。
十分もかからず二人は店から出てきた。
「俺はこれから部活へ行く。お前も学校に行くのだろう?」
「ううん。今日は予定ないし・・・」
「午前中に学校へ?」
制服姿のに真田は問う。
するとは恥ずかしそうに俯いて小さく言った。
「真田君、部活の前だからジャージ姿で来るだろうと思って。
だったら私服より制服の方が並んだ時に違和感ないかな・・・と思ったの。」
可愛いことを言うじゃないかと尾行している二人は思ったが、真田は真顔で「そうか。じゃあ、」と別れを告げた。
オイッと十メートル離れた場所からツッコミを入れても届くはずはなく、
真田は軽く手を上げると彼女を置いて歩きだしてしまった。
その時、柳の隣を疾風が吹き抜けた。
思った時には幸村が猛然と真田に向かって突進している背中が視界に入る。
「コラぁ、真田ーっ!」
「ゆ、幸村君!?」
突然現れた幸村はには目もくれず真田に向かっていく。
次に唖然とするの前に現れたのは双眼鏡を首にぶら下げた柳だった。
「柳君まで、どうしたの?」
「ああ。偶然だな、。俺たちはこの先の公園でバードウォッチングしながら昼を食べていたんだ。」
「そ、そうなんだ。さっき、幸村君が・・コラぁって」
「気にしないでくれ。公園に真田が生息すると言った野鳥がいなくてな。
幸村は楽しみにしていたものだから落胆が大きくて・・・」
苦しい言い訳をする柳の背後。
背中から飛び蹴りを食らわされた真田の「うっ」という呻き声が聞こえた。
真田弦一郎改造計画〜お付き合い編〜その4
2007/09/01
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