真田弦一郎改造計画 お付き合い編 その5











テニス部を見学に来るはずだった迷惑な学校は待てど暮らせど来なかった。
店舗改装のために休業していたはずの蕎麦屋は全く変わり映えせず営業を再開していた。
何故か仁王が幸村に苛められていた。
買ったばかりの帽子が再び紛失した。
幸村に牛丼屋に連れて行けと強制された。
今だに飛び蹴りを食らった背中が痛かった。



それでも、最近の真田は機嫌が良かった。



「赤也」



呼ばれたただけで反射的に自分の頭を庇った赤也は、次の瞬間・・・自分の耳を疑う。



「今日も天気がいいな。どうだ、俺のサーブ練習に付き合うか?」



恐る恐る開いた視界には白い歯を見せて笑っている真田がいた。
その爽やかな笑顔を見た途端、いつもの鉄拳を食らったほうがマシだったかもと本気で思った赤也だ。





「あの不気味なまでの機嫌の良さは何なんだ?」
「ふむ。俺たちが予想している以上にとの仲が順調なのかもしれないな」


「順調?あんな空気も読めない立ち食い蕎麦ジャージ男と、どうやったら順調に愛が育めるのか解説しろっ」
「この前はジャージではなく、制服だった」


「そんなこと言ってるんじゃないよ!だいだい真田は」



隣の幸村がまた怒りはじめ、柳は少しだけ『もうどうでもいいじゃないか』と投げやりな気分になる。
このまま幸村と真田の間にいたら、心の荒んだ嫌な大人になりそうだ。


既に荒んで表裏のある人間に成長していることには気付いていない柳だった。





笑顔の真田が赤也を鍛えているのを残し、他のメンバーは部室で涼んでいた。
相変わらず愚痴の多い幸村の声をBGMに各々が寛いでいる中、どこからか携帯の着信音が響いてきた。
ただの着信音なら気にも留めない。
その場にいた全員が反応したのは、着メロが『暴れん坊将軍』だったからだ。



「だ、誰の携帯だ?」
「このロッカーから聞こえてきたような」



丸井の呟きに、ジャッカルが隣のロッカーを指差した。
部員たちの視線が集まったロッカーには『真田』という筆文字があった。


爪の先ほどの躊躇いも見せず、幸村は真田のロッカーを開けて携帯を探し始める。
柳が黙って部室の鍵を閉め、見事なコンビネーションをみせた。



「あった♪」
「面倒くさがりな弦一郎が携帯に電源を入れていること自体が珍しい。何かあるな」


「ちょっと待って下さい。人の携帯を勝手に見るのは」
「そ、そうだな」



立海の理性である柳生と良心のジャッカルが声をあげてみたが、それぞれのパートナーが口を塞いで連れ去った。
触らぬ神には祟りもないのだ。


理性と良心の声など聞こえなかったということで、幸村は真田の携帯を開く。
ありがたいことに幸村と真田の携帯はお揃いだから、操作は簡単だ。
そりゃそうだ。嫌がる真田を連れて、無理やりに同じ携帯を買わせたのだから。



からだ」
「ふむ。履歴にもの名が並んでいるな。俺たちの知らないところで愛は育まれていたらしいな」


「どれどれ」
「待て。今のメールを開いてしまっては盗み見したのがバレてしまう」


「真田はボケてるから大丈夫だよ」
「いや・・・万が一にもバレたら、次の携帯チェックがしづらくなる」



仕方ないなぁと過去のメールを開きはじめた幸村。
その整った顔が段々と険しくなる。
部室の隅に避難して小さくなっていた他のメンバーは息を殺し、幸村たちの様子を窺っていた。



「なんだ、これは」
「弦一郎らしいと言えば、らしいが」



携帯を覗き込み溜息をつく二人の様子に、ジワジワと他のメンバーも近づいていく。
怖いもの見たさというか・・・野次馬根性というか、やはり好奇心には勝てなかった。



受信ボックスに並ぶ、の名前。
彼女のメールは多少首を傾げるところもあったが、付き合い始めっぽい初々しい内容のメールだった。



たとえば・・・



『今日は生徒会室から真田君の勇姿を見ていました
 みんな同じジャージ姿なのに、真田君は直ぐに見つけられるの
 真田君はキラキラと輝いていて光りを発しているかのように・・・』



「同じジャージなのに真田が目立っているのは、捨てても捨てても買ってくる帽子のせいだろ
 キラキラ輝いてる?ジャッカルが近くにいて反射してたのか?」


「で、真田の返事は?」



幸村の毒舌に、丸井が口を挟む。
いつの間にか携帯の周囲には小さな円陣ができている。



「弦一郎の返事はコレだ」



差し出された画面を見て、全員が無口になった。



『そうか』



「まさかと思いますが、この思い込み激しい絶賛のメールに『そうか』の一言だけなのですか?」
「ヒロ、見てみぃ。他のメールも全部がこんなもんぜよ」



『今日の委員会も真田君の発言が一番考えさせられました
   言葉の乱れは心の乱れ。服装の乱れも心の乱れ
   乱れまくった生徒たちを更生させるためには私たちが立ち上がらなくては
   まずは男子の垂れ下がった腰ばきズボンを引きあげましょうね』


真田『うむ』



柳生がずれてきたメガネを押し上げて、仁王に耳打ちする。



「仁王君、言葉づかいに気をつけないと更生させられてしまいますよ?」
「いや・・・俺より先に赤也のスポンが引き上げられるじゃろ」


「ああ、確かに。この前もトランクスがズボンから見えていたので注意したのですが」



幸村が携帯を閉じ、頭を横に振った。



「ダメだ、こりゃ。真田はメールというものが分かっていないな 
 一番長い返信でも『たるんどるっ』の六文字だった。それって、どうよ
 このままじゃ確実にフラレル。俺なら初デートで真田の顔を見ただけで振っていた」


「それは幸村だからだろう?の方は別にコレでいいんじゃねぇの?」


「丸井は女心が分かってないな!
 こんな『うむ』とか『そうか』しかない返信貰って喜ぶ女がいると思うか?
 ああ・・・やっぱり俺たちが何とかしてやらないと真田は駄目なんだ
 このままだと真田がにメロメロになった頂点で『あんたみたいなボケは要らないわ』と捨てられるのさ

 前から思っていたのよ。あなたのそのオヤジくさい顔が嫌だったの
 三十代半ばの公務員みたいな顔して、見てると辛気くさくて嫌な気分になるのよ
 それにその服装。真田クンちにはジャージしかないの?サイテーってな」



延々と女ことばで実演する幸村をその場のメンバーは無口になって見ていた。



「ということで、ここは俺たちが一肌脱いで」



柳以外の全員が瞬時に首を横に振ったが、幸村は見ていない。



「真田を外に出しても恥ずかしくないカレシにしてやろう♪」



それはどういう真田なんだろう。
ジャッカルは聞きたかったが、口の中がカラカラに乾いていて声が出なかった。
人の携帯を盗み見するのに、罪悪感で緊張していたようだ。



「じゃあ、そういうことで。また俺が計画を立てるから」



幸村が提案したところで、ガチャガチャと部室のドアが鳴った。
次にはドンドンとドアを叩く音がして、真田の声がした。



「おいっ!何故、鍵がかかっているんだ!誰かいないのか!?」



中からロッカーの閉まる音がして、暫くのちに部室のドアが開く。
ドアを開けてくれたのはジャッカルなのだが、なぜか真田と目を合わせない。
ななめ45度下を見ながら、引き攣った顔で「お疲れ」と労われた。


ヘロヘロの赤也と共に部室に足を踏み入れた真田だったが、皆に避けられているような気がした。
だが笑顔の幸村と柳に迎えられ(もちろんコノ二人は目など逸らすはずもない)、気のせいかと思う。


それから後も何事もなく、いつも通りに着替えて部室を出た真田。
ただ部室を出てから、次々と部員に声をかけられたのが普段と少し違っていた。



まずは部室を出て直ぐ



「に、仁王君の言葉づかいは方言ですから、心は乱れていません」
「ヒロ、さんきゅうな。真田、辛いこともあるじゃろうが頑張れよ。お前なら耐えられる」



次にテニスコートの脇で



「真田、俺が言うのも何だけど・・・友達は選んだほうがいいぜ。な、ジャッカル?」
「ま・・まぁな。あと詳しくは言えないが、携帯にはロックをかける機能があるから」


「それ以上はマズイぜ」
「そ、そうだな。行こう、ブン太」



最後に校門前に幼馴染の二人が



「真田、お前に言っておきたいことがある
 これからメールの返信は三行以上だ。部長命令だからな!」


「なんだ、それは。俺はお前にメールなんぞ送ったことはない」


「今日から毎日、俺の所にメールをするんだ
 それを添削して返してやるから、ありがたく思うんだね」



唖然とする真田に柳が穏やかな笑みを浮かべる。
少しだけ憐れみをかけられている気がするのは考え過ぎだろうかと真田は思う。



「そういうことだ、弦一郎。頑張れよ」


「なんなんだ、それは?」



三人の影がアスファルトに長く伸びていた。





その頃のはというと・・・真田からの返信をうっとりと眺めていた。


『うむ』『なるほど』『分かった』


そんな短い言葉が酷く新鮮に思える。
彼らしい簡潔な言葉はの心をくすぐり、ますます彼に惹かれていく。
不器用そうなサムライがしたためる短い言葉が愛しい。



ホント・・・カッコイイ人だわ♪



そんなふうに恋をする、ちょっと変わった女心など、幸村が知る由もなかった。




















真田弦一郎改造計画 お付き合い編 その5 

2008/07/27

お待たせいたしました




















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