真田弦一郎改造計画 お付き合い編 その6












幸村の厳しいメール添削に耐えられなくなった真田は、再び携帯の電源を落としてしまった。
それでもしつこくメールにこだわる幸村の意図が分からない。


真田は思う。



『いつものことだが・・・幸村という男は訳のわからん男だ』



神は類まれなるテニスの才能を幸村に与えたが、
そのぶん人として持っていなくてはならない『常識』というものを根こそぎ奪ってしまったらしい。
(真田の考察は、ある意味正しい)。



変わり者の幸村を憐れむように見た真田は、小さく溜息をつくと赤也を呼んだ。



「赤也、俺の携帯をお前に貸してやろう」
「い、いらないっスよ。そんなの」


「遠慮はいらん。ただし勝手に使うなよ」
「そんなん借りるのに何の意味があるんスか!?」


「意味?俺の携帯だ。それに意味がある」
「わけ分かんないんスけど・・・」



赤也は大真面目な真田を前に思う。



『幸村部長とはまた違う意味で真田副部長も変だ』



第三者から見ると自分も人としての常識が疑われていることに気付いていない真田であった。





幸村はちっとも自分の思い通りにならない真田に苛立ちを募らせている。
昔から真田だけは右と言っても左を向く、白だと決めても俺は青色の方が好きだと言い返してくるような男だった。
だからこそ真田に執着してしまう幸村なのだが、なんだかもう小姑状態だ。


弦一郎も厄介な男に好かれたものだな。



「うん?茶柱か・・・」



延々と愚痴る幸村の隣で、淹れたての湯呑の中に幸せを見つけた柳は呟く。
真田がいる間は自分が標的になることはないだろうと安堵の息を吐いた。





その頃・・・
茶柱を見ていないジャッカルは、見てはいけないものを見てしまっていた。



真田が自分の靴箱から取り出した、可愛い花柄の封筒。
それを当然のように手にした真田は、あの厳しい顔を僅かに緩めて素早く自分のカバンに仕舞った。


あれは『果たし状』にちがいない。


そう自分に言い聞かせてみたけれど、どう考えても女のコからの手紙だった。
おまけにジャッカルには見えていたのだ。
封筒の裏に書かれていた『』という文字。



ああっ、なんで見えてしまったんだ、俺!



視力両眼2.0の自分が恨めしかった。
とにかく忘れよう。
さかのぼって、一、二分の出来事は記憶から消去しようと決心して振り返ると仁王が立っていた。
ヒッと息をのんだジャッカルだったが、仁王は苦々しい顔で「プリッ」と呟いただけだった。


ふたりは言葉もなく部室に向かって歩く。


仁王もアレを見たのだろうか?
ジャッカルは聞きたいのだが、仁王には『何も質問するな』オーラが立ち上っている。


真田とが手紙の交換をしている。
いや・・・あの真田が手紙を書いているかは分からないが、少なくてもカノジョの手紙を受け取っているのは確かだ。
それも今日の様子では、既に何度かやり取りをしているような『慣れ』があった。



「ああ、仁王クン。それにジャッカル君も」



角を曲ってきた柳生が、二人に気付いて軽く手を上げた。
邪気のない爽やかな笑顔が眩しいぐらいだ。


途端。
隣の仁王が「ヒロ〜!」と情けない声をあげて、柳生に突進していき抱きついた。
よろけながら仁王を抱きとめた柳生がずり落ちたメガネを押し上げて、何があったんですかとジャッカルに問う。



し、知らない。
知らないけど、ひょっとしてと思い当たることは大いにある。



「ヒロ、マズイことになった。見てはいけないものを見てしもうたんじゃ〜」
「な、なにをです?」



やっぱり、見たんだ!
ついでにジャッカルも柳生に抱きつきたくなったが、近づくと仁王が鬼のような目で睨むのでやめた。





「なんですって、ふたりが手紙のやり取りを?」


「この時代に何とアナログなことをしてくれるんか・・・」
「いや。交換日記じゃないだけマシかもしれない」



このテニス部で唯一の常識人である柳生は心のオアシスだ。
仁王とジャッカルは見たままを訴える。


柳生は内心、こんなこと聞くんじゃなかったと思ったが、聞いてしまったものは仕方ない。
そう諦めてしまえるところが彼の良心だ。



考えられるのは、とうとう幸村たちの携帯の盗み見がバレた。
もしくは細かい操作を嫌う真田が携帯より手紙を選んだ。


どちらにしても何でも知りたい幸村にとっては面白くないコトだろう。
手紙のやり取りを知ってしまった日には、盗んで来いと言いかねない幸村だ。



「とにかく・・このことは幸村君に内緒にした方がいいでしょう」



柳生の言葉にジャッカルと仁王が頷いた、その時だ。
背後からヒンヤリとした風が吹いた。



「で?俺に何を内緒にするの?」



三人はあまりの恐ろしさに後ろを振り向くことが出来なかった。










真田家にある、弦一郎の部屋。
彼が愛用している机には硯と墨、そして筆があった。
机の中には手紙を書くための巻紙もある。



夜な夜な硯に向かい、巻紙に文をしたためる。



幸村たちが知らないうちに、少しだけ恋愛経験値をあげていた真田であった。




















真田弦一郎改造計画 6

2008/08/30




















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