真田弦一郎改造計画その6 〜幸村、再び壊れる!〜
「つまんない」
幸村は、もう数え切れないほどの「つまんない」を言っていた。
部室のテーブルにベタッと伏せたまま、ボールペンを転がしては遊んでいる。
「何を言っている。ひょっとしたら、俺たちの計画が思わぬ展開で成功するかもしれないのだぞ。」
「でも、真田は年齢不詳のままだし。言葉はサムライのままだし。眉間の皺も減らないし。
それで、カノジョができるなんて納得できないよ。」
「いいではないか。ありのままの真田でも好意を持ってくれるのならば、それ以上のことはないだろう。」
「そうじゃ。あの美人、真田が趣味だったとは。マニアック趣味じゃけ、俺はフラレタんじゃ。なんか、救われた気持ちじゃの。」
「仁王君、それはちょっと違う気もしますけど。
とにかく、本当に彼女が真田君に好意を持っているのか確かめるのが先決ですよ。」
「そうだな。いきなり弦一郎に告白させて、思い違いだったなどということになったら・・・」
「真田副部長が失恋して暴れだしたら・・・死人が出ますよ!」
「赤也の言う通りだ。キレた赤目の赤也より酷いことになるかもしれん。」
「そ、それはマズイだろぃ。」
「とにかく。弦一郎は、あのまま放っておこう。改造は必要なさそうだしな、無駄な労力は使わないでおく。
で、ターゲットに確認をとる計画だが・・・」
柳が周囲のメンバーを見回したとき、ボールペンを転がしていた幸村がムクッと起き上がった。
「俺が聞いてくる。」
っ!メンバー全員が息を呑んだ。
「いや。幸村・・・お前が出ていったんじゃ、ぶち壊し・・じゃない、相手が萎縮して本当のことが言えないんじゃないか?」
「ジャッカルの言う通りだ。ハチャメチャ・・・じゃない、威厳のある部長のお前が出ていったのでは話しにくいだろう。」
「そんなことないよ。俺は、ソフトな語り口と女性のように優しい容姿の男と言われてるんだよ?大丈夫。聞き出せるよ。」
人は見た目で判断してはいけない、という見本のような幸村がニッコリ微笑んでいる。
止めようとするメンバーをチラッと睨むと言葉を続けた。
「だってさぁ。このままじゃ、つまんないし。それにさ、彼女には真田の何処がいいのか是非とも聞いてみたい!」
「幸村。お前を楽しませるために真田が存在しているのではないぞ・・・」
「ふん。もう別に真田がフラレたっていいや。アイツが独身のままシジイになったら、孫を連れて遊びに行って自慢してやる!」
「幸村、そんな歳になるまで真田と付き合う気だっのか・・・」
言い出したら聞かない幸村であることは、皆が知っていた。
性格に難はあってもテニスは誰より強いし、人を威圧する恐ろしいほどのオーラを持っている幸村。
心の中で真田の不幸を思いながらも、全員が口をつぐむしかなかった。
翌日。昼休みに真田が幸村を訪ねて教室にやってきた。
「おい、ジャッカル。幸村はどこにいった?」
「げっ。さ、真田・・・な、なんの用事だ?」
「げっ、とは?」
「げ?あっ、ああ・・・ゲッゲッゲロゲロ♪ってな。ははははは」
人の好いジャッカルがボケてみたが、真田は眉一つ動かさずに「で?」と冷静に聞き返してきた。
泣きたい気持ちになりながら、なんとか誤魔化す方法を考える。
「あ、あの・・・そ、そうだ。腹の調子が悪くて、トイレに行ったんだよ!そうそう、トイレ。
かなり苦しんでたから、きっと昼休み中はトイレから出てこないと思うぜ。」
「ふむ、何か拾い食いでもしたか。まぁ、いい。これを渡しておいてくれ。
他校からの練習試合の申し込みを先生に渡されたのでな、幸村も目を通しておいてくれと。」
「わ、わかった。」
教室から出て行く真田の背を見送りながら、ホッと息を吐くジャッカル。
その頭に冷たい汗が流れていった。
その頃の幸村は、裏庭でターゲットのと並んでベンチに座っていた。
ベンチの後ろでは、低木に隠れて柳と仁王が潜んでいた。
『絶対、うまくいくモンもうまくいかんぜよ?』
『シッ。分かっている。だからこそ、俺たちがここに控えているんだろう。いざとなったら幸村をさらって逃げよう。』
『後が怖いのぅ』
『まったくだな。なんでこう、部長と副部長は手がかかるのか。』
『柳は中間管理職じゃから、一番ツライのぅ』
『仁王、後はお前に任せて引退したい。』
『無理じゃ、無理っ』
二人がコソコソと話し合っている間に、幸村はニッコリと柔らかな笑みを浮かべてに切り出した。
「突然呼び出してゴメンね。話というのはね、うちの真田の事なんだ。」
「真田君?」
の瞳が大きくなる。ウン、と頷いて幸村。
「真田が君のことを押し倒したいぐらい好きらしいんだけど、さんはどうかな?」
ベンチの後ろで、柳と仁王は『うわぁぁぁぁぁ』と尻餅をついていた。
『いかん、止める間もない電光石火の技じゃった!』
『もう・・・オシマイだな。許せ、弦一郎・・・』
しばらく問われた意味が分からず茫然としていただったが、
脳の隅々まで幸村のセリフが行き渡る頃には真っ赤になって俯いてしまった。
「あははは、真っ赤になっちゃったね。そうか、さんも押し倒されても我慢できるぐらい真田が好きなんだ。」
明らかに幸村の悪意を感じる。柳と仁王は頭を抱えていた。
「ね、真田のどこが好きなの?」
には答える義務もないのに、真面目な性格ゆえ恥ずかしそうにしながらも答えてしまう。
「他の男の子とは違って・・・落ち着いてるし。」
「落ち着いてるっていうより老けてるんだよ。」
「言ってることもシッカリしてて・・・」
「シッカリというより、頭が固いんだよね。融通がきかないっていうの?」
「見た目も男らしくて素敵だし・・・」
「なんか、オッサンくさいけどねぇ。家では着物、外ではジャージだよ?」
「テニスも強いし・・・」
「僕には負けるけどね。」
「ゆ・・幸村君、真田君と仲が悪いの?」
「まさか!無二の親友だよ♪」
花でも舞いそうに爽やかな笑顔を浮かべて幸村が答えた。
後ろでは柳と仁王が、どうやって幸村をから引き離すか相談している。
「幸村っ!」
その時、二人の頭上から声がした。
皆が一斉に顔を上げれば、ニ階の窓から真田が手を振っている。
柳と仁王は更に身を低くして息を殺した。が、幸村はにこやかに手を振り返した。
は頬を染めながら真田を見つめる。
真田はなど目にも入っておらず、下に居る幸村に大声で言った。
「お前、腹をくだしてトイレに籠もっていたんじゃないのか?外にいると冷えるぞ!
とにかく部活までには治せよ!梅干でも食っておけ!あと、書類をジャッカルに渡しておいたからな!」
幸村が笑顔のまま凍りついていた。
真田は言うだけ言うと、さっさと窓を閉めて消えてしまった。
「幸村君。お腹が痛いの?大丈夫?」
が心配して幸村を覗き込んだが、その顔から笑顔が消えていた。
「ゆ、幸村君?」
ザザッと音がして、頭に葉っぱを乗せた柳と仁王が後ろから飛び出してきた。
「なっ、なに?」
「、すまない。危険だから幸村は連れて行く。とにかく、弦一郎をよろしく頼む。
アイツはいい奴だ。どうか、嫌いにならないでやってくれ!さっ、避難を!」
「避難?」
「、こっちじゃ。幸村の傍は危ないっ」
訳が分からないうちに仁王に腕を引かれて裏庭から避難させられた。
安全な場所まで来て仁王が青ざめた顔で呟いた。
「頼む。真田と一日も早く引っついてくれ。じゃないと、俺らが大変な事になる。
行きたくないが・・・俺は柳を助けにいかんとな。じゃあな、頼んだぜよ!」
唖然と仁王を見送った。
テニス部って変な人ばっかりなのね。
真田君、あんな人たちをまとめてるんだもの苦労してるんだわ。
でも・・・両想いだったなんて。どうしよう。いやん。
熱い頬を抑えながら、はスキップでもしそうな足取りで教室に戻っていった。
その頃。
「ジャッカル〜!コートに立たせてスマッシュ練習の的にしてやるぅ!!」
「幸村ッ、正直者のジャッカルが必死でついた嘘なのだ!勘弁してやってくれっ!」
「真田もだぁーっ!今度の試合、赤也の補欠にしてやるぅ!」
「分かった。分かったから、落ち着けっ!ここは部室じゃない。他の生徒に壊れたお前を見られるぞっ!」
とりあえず、の真田への恋心は確認できた。
それだけでもヨシとしよう。
暴れる幸村を宥めながら、柳は心の中で盛大に溜息をついた。
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