真田弦一郎改造計画その5 〜幸村、壊れる!〜
部室からテニスコートに向かう途中、真田に後ろから声がかけられた。
「真田君、」
「ん?か。どうした?」
「この前の紙パックジュースの歩き飲み禁止の件なんだけど・・・」
「うむ。」
「ペットボトルなら、いいのか?とか。缶なら?水筒なら?って、幾つか質問が上がってきてるの。」
「なに?そんなことを言ってくるのは赤也ではないだろうな?」
「赤也?ほとんどが匿名よ。生徒会への意見箱に入れられてたの。」
「字を見れば分かる。今度、見せてくれ。赤也ならば、もう一度言って聞かさねばならん。」
「いいけど、」
クスッとが笑った。
なんだ?と真田が目で問う。
「あ、ゴメンナサイ。なんか、真田君・・・いいなって。そう思っただけ。」
「いいな?とは、どういう意味だ?」
「そのままの意味。で、どうする?」
意味深な会話なのだが、朴念仁の真田は全く気づかず話を進める。
「ふむ。赤也さえ抑止できれば後はどうでもいいのだが、そうも言っておれんな。
どちらにしろ校内で歩きながら飲食するなど、たるんどるっ。
ここで許せば電車の中でも飲み食いするような人間になることは間違いないだろう。
今のうちに公衆道徳たるものを身につけねば社会に出て恥をかく。」
「確かに、そうね。分かった。案を考えて提出してみるわ。」
「お前は話が早くて助かる。いい生徒会長だ。」
良いと思ったことは、良い。
真田は自分が認めた人間には、言葉にして褒める事が出来る男だった。
滅多に見られない笑顔で褒められ、がポッと頬を染めた。
「どうした、頬が赤いぞ?リンゴ病か?」
「り・・リンゴ病?」
「ウィルス感染の一種でな、頬が赤くなる病気らしい。昔、幸村の妹が罹患して・・それが幸村にも伝染って笑えた。
いや、しかし・・・は急に赤くなったな。熱か?」
真田は躊躇いもなく手を伸ばし、の額に触れた。
ビキッと石のように固まったの額に数秒間、手を当てると「平熱だな」と首をかしげる。
は、先ほどより更に赤くなって沸騰しそうになっていた。
二人は気づいていなかった。
真田弦一郎改造計画を企てるメンバーが校舎の陰で身を潜めていることに。
「これは、意外ナリっ!ひょっとしたら、ひょっとするぜよ?」
「予想外だったな。が、これで馬鹿馬鹿しい・・・いや、難しいミッションをこなさなくても済みそうだ。な、幸村?」
「むごむご〜!」
「ああ、すまなかった。ジャッカル、幸村の口を自由にしてやってくれ。」
ジャッカルに後ろから羽交い絞めにされて口を塞がれていた幸村が、やっと自由になって喚きだす。
「真田のヤツ!俺がリンゴ病で学校を休んだ時には親切そうな顔をして見舞いに来たくせに
腹の中では笑ってたんだなっ!」
「幸村。それは小学生の時の事だろう、もう時効だ。」
「真田に・・・あの真田に笑われていたのかと思うと、無性に腹が立つんだっ!」
「落ち着け、幸村。あ、何か話し始めたぞ。ジャッカル、幸村の口を頼む。」
「イエッサー」
再び静かになり、真田との会話が聞こえ始めた。
立海レギュラージャージにラケットを持つ真田は凛とした日本男児で、なかなか見栄えのいい男だった。
彼の性格も全て把握しているレギュラー陣には、べつにどうということもない姿だった。が、
は眩しそうに真田を見ている。
「テニス部・・・もうすぐ全国大会なんでしょう?」
「ああ。だが、まずは予選大会がある。」
「でも立海は全国行くのが当たり前の実力なんでしょう?」
「いや、油断は禁物だ。確かに我々は全国へ行って当たり前だと俺も思っているが、少しの油断で足元をすくわれる事もある。
気を引き締めて、いつも全力でいく。」
「凄いわ、真田君。なんだか尊敬しちゃう。真田君みたいな人が率いているから立海テニス部は強いのね。」
「あ・・・いや、皆が頑張ってくれているからだ。」
真田が少し照れたように頭をかいた。(注.帽子は幸村の部長命令により不本意ながらやめた)
はキラキラした瞳で真田を見つめ、二人はいいムードだ。
だが。
「ジャッカル、しっかり押さえろ!」
「そっ、そんなこと言ったって!痛っ!幸村、噛むなって!」
「落ち着け、幸村!ここで、お前が暴れたらもともこもなくなるじゃろっ」
「あ、幸村にラケットを握らせては危険だぞっ!離せ、幸村っ」
「真田にサーブを打ち込んだらに当たるきにっ、ここは我慢せぇって、」
ジャッカルに上半身を、仁王に下半身を。
腕は柳に抑えられながらも、幸村は真田に向かってサーブを打ち込もうとしていた。
「立海を率いているのは真田じゃないぞっ!俺だっ!」
「分かっちょるって、幸村じゃ!真田と以外は皆、知っちょるっ!じゃから、落ち着けって」
「だ、誰か・・・真田とターゲットを安全な場所へ!」
柳が言った時、中庭からペットボトルのジュースを飲みながら赤也がフラッと姿を現した。
目ざとく赤也の姿を見つけた真田。
「こらぁっ、赤也っ!飲みながら歩くなと言ってあるはずだっ!」
「ひっ、真田副部長!」
逃げ出そうとした赤也を目にも止まらぬ早業で捕まえると、
彼の頭を小脇に挟んで腕で締め上げながら後ろに立つを振り返る。
「すまない、。まずは自分の足元から規律を正さないとな。赤也には今から良く言ってきかせるから。」
「さ、真田君・・・スゴイ。刑事ドラマの刑事さんみたい。」
「お前・・面白い事を言うな。では、また委員会で。」
「あ、はい。委員会で、」
フッと真田は微笑んで、痛がる赤也の頭を小脇に挟んで引きずりながらコートに向かっていった。
そんな彼の後姿をウットリと見つめる。
その脇を何かが一瞬で通り過ぎていった。
バコン。と、いい音が響き・・・遠ざかる真田の足元に黄色いボールが跳ねて転がっていった。
真田は赤也を脇に挟んだままで周囲を見渡し首をかしげる。
「赤也、大丈夫か?今、お前の尻にボールが当たった気がしたが?」
「痛っ〜」
言葉も出ないほど痛くて苦しんでいた赤也だったが、真田は返事がないのは『平気』と解釈して歩き始めた。
「おかしいな?何処から飛んできたのか・・・」
そう、そのボール。
幸村が放ったサーブだった。
柳の手を振り払って打ち込んだものの、仁王とジャッカルに邪魔されたためコントロールが僅かに狂った。
「くっそぉぉぉぉ」
「幸村!お前、表では物静かで優しい人間だと思われてるんだから、もう少しイメージを大事にしてくれっ!」
「無理じゃ、ジャッカル。今の幸村には聞こえちゃあせん。」
「にしても、赤也はむごかったな。」
汗を拭いながら気の毒そうに語る柳の傍で、幸村は地団駄を踏んでいた。
※謝罪 本当の幸村部長は物静かですが威圧感のある実力者。こんな壊れた人物ではありません。スミマセン!
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