サイト3周年リク二番目 「確率は100パーセント」
〜Thankk you 3rd anniversary present to 羽瑠
『今度の土曜日、夜七時。
俺のパートナーとしてパーティーに出席してくれないかな?
バイト料として一流ホテルの食事とスィートルームの宿泊をプレゼントするよ。
で、今は恋人いるのかい?いるなら恋人と。いなければ俺が付き合うから遠慮せず言ってくれ。』
一か月ぶりにメールを寄こしたと思ったらコレだ。
さっさと結婚でもして奥さんを連れていけばいいのに。
いや、乾の場合は恋人を作る方が先だろう。
『残念ながらカレシはいません。でも腐れ縁の乾とお泊りする気もありません。
一度ひとりでスィートに泊まってみたかったのよね。すごい贅沢だと思うでしょ?そのバイトお受けします!』
『例の高校教師とは別れたんだ?女子高生には勝てないよって忠告しといただろ。
俺は試したことないがスィートに一人って寂しいだけだと思うけどね。
ま、なんでもいいさ。じゃあ、土曜日。
追伸 ジーパンで来たら追い返すから、そのつもりで。』
『行かないわよ!』
いくらジーパンとTシャツが定番の私でも、ホテルのオープン記念パーティーに着て行くほど馬鹿じゃない。
それでも着ていくものには悩んでしまう。
建築士として名を連ねている乾に恥をかかせるのは忍びない。というか、後々まで恨まれても嫌だ。
ああ見えて乾はシツコイし、昔のことも忘れずに記憶していて何年たっても文句を言う。
美容師の友達にでも頼んで非の打ちどころのない女に変身してやるかと携帯を閉じた。
眩しいほどのシャンデリア。
高い天井と柔らかなクリーム色の壁を背に、スーツ姿の乾が呆れたようにメガネを押し上げる。
「俺が思うに・・・いつもそれぐらい綺麗にしてたら来年には結婚できると思うけど?」
「その言葉は、そっくりそのまま乾に返すわ。
あ、でも駄目ね。乾は性格にも問題があるもの。もう少し女に対してマメにならないと結婚は無理ね。」
「そんな時間があったら研究したいね。
電話やメールをしなくても怒らない。ひと月ぐらい会わなくても平気な女のコって、いないかな?」
「それ、恋人じゃないわよ?知り合いって言うの。」
「人付き合いは難しいな。」
お互いに着飾ってカクテル片手に立っている。
なのに話す内容は馴染みの居酒屋で話しているようなこと。
中学から友達として付き合っている乾には今さら気取ることもないし楽ちんだ。
友達に紹介されて付き合った高校教師は堅苦しくて、それに合わせていたら酷く疲れてしまった。
悪い人ではなかったし、職業も安定していて好い条件の人だったはずなのに。
「乾君、この方が君の自慢の恋人かね?」
上司らしい男性が近付いてきて声をかけてきた。
さっきまで馬鹿なことを言っていた乾が表情を引き締めて頭を下げる。
その隣で頬笑みながら恋人らしく振舞うのが私の仕事だ。
「優秀な君に縁談を勧めても、首を縦に振らない理由がわかったよ。」
「申し訳ありません。」
ふーん。乾が優秀なのは知ってたけど、縁談を断ってたとは知らなかったな。
ひょっとしたら逆玉の輿だってあるんじゃないの?
「こんなに美しい婚約者がいるとはね。で、いつ結婚するのかね?」
なんですって!?
聞き捨てならない言葉に思わず乾の顔を見た。
なのに乾は口元に笑みさえ浮かべ、さりげなく私の背中に手をまわして有り得ない事を言い出す。
「来年には、と思っています。」
「そうか、それはめでたい。是非とも結婚式には呼んでくれたまえ。」
「ありがとうございます。」
「ちょっと、待って・・痛っ」
いくらなんでも嘘が過ぎてると慌てた私の背中を乾がつねった。
私の呻き声に男性が怪訝な顔をするが、すぐに乾が仕事の話を持ち出し注意がそれた。
だけど私はそれどころじゃない。
男性がいなくなると速攻で乾の腕を掴んでホールの外へと引っ張り出した。
「さっきの人、誰よ!?」
「あの人はウチの部長だよ。」
「部長ですって?どうするのよっ、あんな嘘ついて!
けんか別れして婚約は破棄したとでも言い訳するつもり?」
「あの部長のとこには娘が四人もいるらしくて、誰でもいいから一人貰っていってくれってうるさいんだ。
猫の子じゃあるまいし『じゃあ一人・・・』ってもんでもないだろう?
だから婚約者がいるって言って諦めてもらったんだ。」
「だから私を呼んだの?」
「そうだよ。」
もう少し先のことも考えて嘘をつけばいいものをと頭痛がする。
昔からコレぞと思うものには驚異の観察力と知恵を働かせる乾だが、関心を引かないものに対するイイ加減さは潔いほどだ。
「来年は婚約破棄された男ね、ご愁傷さま。」
「それは困るな。婚約破棄なんてなったら、また部長の娘さんが押し付けられる。」
「もう貰っとけばいいじゃない?出世だって出来るかもよ。」
「人のことだと思って酷いじゃないか。俺にだって選ぶ権利がある。」
「ならどうするのよ!私は知らないからね。」
友達から借りたドレスの裾を捲り上げるほどの勢いで乾に迫る。
そんな私に乾は淡々と言い放った。
「この際だから俺と結婚しないか?それで全てが丸く納まる。」
あまりのことに一瞬は言葉を失った。
次に湧き上がってくるのは怒りと困惑が綯い交ぜになった複雑な感情だ。
「いくらなんでも結婚まで成り行きでするつもり?この馬鹿男!」
叫ぶように罵れば、乾が長い人差し指でメガネを押し上げ真顔で言った。
「成り行き?本当にそう思ってるのか?」
「な・・なによ。」
「この俺が行き当たりばったりで行動すると?俺がどんな男か知っているだろう。」
「い・・乾?」
頬に乾の手が伸びてきた。
節のある男の手の感触に勝手に体が後ろに逃げる。
向けられる熱い視線に身がすくむ。
この男は誰?私の知ってる乾じゃない。
恐怖を前に怯えて動けなくなったような私に乾が顔を寄せてきた。
思わずギュッと目を閉じた私の耳元に「俺が本気になれば・・・」と前置きして、
初めて聞く吐息のような乾の甘い声が落とされる。
「お前が俺に堕ちる確率100パーセントだよ。」
ああ、どうしよう。
その確率を覆す自信が・・・私にはないかも。
2007.08.04
サイト3周年記念リク二番目 「確率は100パーセント」
羽瑠様に捧げます
乾貞治 「お前が俺に堕ちる確率100パーセント」とのリクでした。
リクをありがとうございました!
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