なんて男だと思う。


今まで何度も乾の恋愛話は聞いてきた。
だが、よくよく考えればカノジョを紹介されたことなどなかったし、乾の口から一方的に聞く話ばかりだった。


だから知らなかったのだ。
どんなふうに乾が女を口説くのか。


本気の彼に狙われたなら、逃げることなど至難の業だということも。












        確率は100パーセント2










静かな部屋に突然なり始めた着信音。
ディスプレイを見てから時間を確認すれば、深夜一時過ぎ。
非常識にも程があると思いつつ、彼には昼間と同じなのだろうと諦めた。



「もしもし」
『俺』


「俺なんて名前の人に知り合いはいません。」
『そんな意地悪を言うなよ。最終を逃したんだ。』


「あら、残念ね。」
『そっちに寄ってもいいかい?』



そら、きた。
呼吸を整え『ノー』と怒鳴ってやるつもりだったのに、続いて情けない乾の声が聞こえてくる。



『おまけに雨も降り出した。傘がなくて寒いったら。』
「タクシーで帰りなさいよ。高給取りなんだから。」



話しながらベッドから抜け出し、カーテンを少しだけ開ける。
窓には雨だれが流れ、気づかぬうちに随分と降っていたようだった。



『タクシーは長蛇の列さ。一時間待っても乗れそうにない。君の家なら歩いて直ぐなんだけど。』
「ちょっと、あなた・・どこに居るのよ?」


『君んちの最寄り駅だけど?』



この策士がと、舌打ちしたい気分になる。
小さな駅の周辺にビジネスホテルなどあるはずもなく、私が断ればタクシーに乗るまで雨に打たれ続けることになる。
分かってて、この駅で電車を降りたに違いない。



「傘をコンビニで買って歩いて帰りなさい。」


『コンビニの傘は売り切れだよ。考えることは、みんな一緒だろう?
 このまま俺が肺炎にでもなって入院したら、後悔するのは君だ。』


「まさか。自業自得だと笑ってあげる。」


・・・冷たくするなよ。』



意地を張ってみたけれど、最後にはアノ無駄に良い声で名前を囁かれてノックダウンだ。
一応は本気で嫌な声を出し、家に来るのを許してしまう。
途端に『たすかった。さんきゅ』と明るい声を出す乾に溜息をつくと携帯を切り、急いでパジャマを着替えた。





スッピンのうえに、まだ髪も湿ってる。
色々と思うところはあったが、外へ出られるぐらいのラフな服装で外へ出た。
駅から家までは一本道。余程ひねくれて裏道を通ろうと思わない限りは会えるはずだ。
いや・・・乾なら変な道を通るかもしれないが、それはその時。
私は彼の分の傘を持ち、暗い夜道へ迎えに出た。



雨のせいか自販機の明かりが、やけに眩しく輝いて見える。
お店のネオンがアスファルトの水たまりに映るのが鮮やかだ。



『迎えに出たのは風邪でも引かれると面倒だからよ。』



心の中で何度も言い訳を繰り返しつつ駅に向かう。
すると遠目にも長身の人間が傘を差さずに悠々と歩いてくるのが見えた。
意外と普通の道を通ってきたかなんて思いつつも、会えたことにホッとしている。


向こうも私に気づいたらしい。
軽く手を振って走ってきた。
その乾が頭の雨避けにしていたのは・・・



「やぁ。感激だな、が迎えに来てくれるなんて。」
「あなた、それ何?なんで花束を傘代わりにしてるのよ。」



乾の手には見事なカサブランカの花束があった。
ああ、これねと揺らしただけで、周囲に濃厚な甘い香りが立ち上る。



「どうぞ。」
「どうぞって、どうしたの?パーティーか何かの帰り?」


「いや。駅前の花屋でね、あんまり綺麗だったから。」



思わず瞳を大きくする。
まさか・・・私のために花を買ったの?
あの乾が女のために花を買うような男だったとは!


感激より何より、あまりのショックに呆然としてしまった。



「とにかく花はプレゼントだよ。それより傘に入れて欲しいんだけど。」
「え・・ああ、傘ね。はい。」



乾のためにと持ってきた傘を差し出したのに、それは素通りされりてしまい私が持つ傘が横取りされる。
かわりに純白のカサブランカが傘のなくなった手に渡された。



「ちょ、ちょっと」
「こういう場合は相合傘がセオリーだろ。」


「なによ、それ」



頬が赤くなりそうで焦って言い返せば、ものすごく近くに乾の顔があった。


あ・・と思った時には遅い。
手は花束と持ってきた傘に両方塞がれて使えないのだ。
肩を抱き寄せられたと思ったら唇が重なっていた。


私は乾の持つ傘に落ちる雨の音を聞きながら・・・仕方なく目を閉じた。










カサブランカを白い花瓶に活ける。



「結婚式のブーケはカサブランカで決まりかな。」
「そんなこと勝手に決めないでよ。」


はカサブランカが好きなんだろう?」
「それも乾のデータ収集力?」


「カサブランカを胸に抱いた時の顔を見て思った。」



雨の匂いがする大きな体が背中から覆いかぶさっていて動きにくいったらない。
ウエストに巻かれた手を振りほどく気力も失せるほど、ベタベタとしてくる乾。


ああ、もう信じられない。
乾がこんな甘い男だったなんて。



「確かに・・・カサブランカは好きよ。」


「ついでに言うと俺も好きだろう?」
「馬鹿。」



乾の観察力も大したことはない。
カサブランカは好きだけど、それだけじゃない。


あなたがくれた花だから嬉しかった。


ふとカサブランカを抱いた自分のウェディングドレス姿を思い浮かべて悪くないかと思った。
でも・・・それは内緒。


私の知らない乾をもっと見せてもらってから。ね?




















「確率は100パーセント 続編」 

2007.08.19




















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