片恋 1
ざわざわと会議室の前に生徒が集まっていた。
修学旅行のスナップ写真が張り出されているからだ。
は生徒達の壁に割って入ることも出来ずに、ただ順番が来るのを待っている。
おとなしい彼女が遠慮がちに並んでいる横から次々と生徒達が入って行き、
なかなか写真の前に辿り着けない。
いつものことに小さな溜息をこぼし、じっと待つ彼女。
そんな彼女の隣に、黒色の学生服が並んだ。
腕が触れ合うほどの距離。
何とはなしに顔をあげた彼女は、あまりの驚きに息が止まった。
彼女の隣に並んだのは、手塚国光。
ハッとして、すぐに俯いた。
勝手に熱くなる頬、心臓が急にドキドキし始める。
「手塚、どうだ?見えるか?」
「ああ。109番、菊丸と不二が一緒にうつっている。」
「えーっと、109番。城門で撮ったやつかな?」
「そうみたいだな。」
顔は確認できないが、手塚の隣には誰かいるらしい。
「あ・・・俺のところからも見えたぞ。手塚、横顔だけど、どうする?」
「ん?何番だ?」
「67番。俺の後ろに手塚が立ってる。何か、見上げてる感じだな。」
「大石と見学に回った時のものか?」
「そうみたいだな。あれ、タカさんは何処にいるんだろ?」
は、じっと二人の会話を聞きながら『67番』と頭の中で繰り返した。
そこへ急に他の生徒が割り込んできて、は横から押されて手塚の方によろけた。
触れそうだった腕がぶつかる。
「ごっ、ごめんなさい!」
慌ててが頭を下げると「いや。」と、ひと言、手塚が言った。
顔があげられない。
手塚は彼女のことなど気にも留めず、また隣の大石と話し始めた。
貧血でも起こして倒れそうなほどパニックになっているの腕を誰かがひっぱる。
その力に逆らうことも出来ず、あっという間に手塚が遠くなっていく。
が抜けた場所は、すぐに他の生徒に埋められてしまった。
「、何やってんのよっ、もう。んなとこで、いつまで立ってるつもり?
写真なら、のぶんも見てきたからさ。この番号、写しなよ。」
人だかりの中から引っ張り出してくれた友人は、苦笑しながらメモの切れ端をに渡した。
引っ込み思案で、いつも人の前に出られないのために気をまわしてくれたのだ。
「・・・ありがとう。」
呟いて、後ろを振り返った。
他の生徒より、頭ひとつぶん飛びぬけている手塚の後ろ姿が見える。
さっき彼に触れた肘に、そっと自分の手を添えては歩き出した。
今日、初めて。
片想いの彼と、言葉を交わした。
『ごっ、ごめんなさい!』
『いや。』
たった、ひと言。
会話なんて呼べるものではないかもしれない。
それでも。目立たないにとっては、泣きたくなるような出来事だった。
その夜。
は、写真申し込みの封筒を前に迷っていた。
友達が探してくれた番号はすべて書いた。
その下に、もうひとつ。
書き足そうかと・・・ずっと迷っている数字。
『67番』彼の横顔が写っているという写真。
1枚でいい。
手塚君の写真が欲しい。
こんなことでもなければ、絶対・・・自分では手に入れられない写真。
ほんの少しの勇気を奮って、ここに番号を書けば手に入る。
考えに考えて。
は、震えそうになる手で『67番』と書いた。
気が変わってしまわないうちにと、急いで代金を入れると封をしてカバンに仕舞う。
そこまでして時計を見たら、12時をまわっていた。
「うそ・・・。私、2時間も悩んでた?」
自分でも呆れる。
それでも、頑張って数字を書いた。
近いうちに大切な写真を手にすることができる。
手塚君、どんな顔して写ってるのかな。
そんなことを考えるだけでも、胸がいっぱいになった。
の小さな片想い。
手塚は、まだ。
彼女を知らない。
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