君がいれば楽園 1










「聞いたか?今日さ、東京から転校生が来るんだとよ。」
「わんは興味ないね。それより今朝の裕次郎の髪の跳ね具合のほうが気になるさ。」


「ほっとけよ!」



それは今朝の会話。
朝も早くから思いっきりハードな練習をこなし、教室に入った途端机に突っ伏し爆睡してた。
教室内のざわめきさえ子守唄。



ああ、気持ちいい。



「平古場!なぁ平古場って!」



誰かが俺を呼んでいる。
永四郎だと恐ろしいが、声が違うから大丈夫。


なんて呑気なことを思っていたら、背中をボールペンか何かで突かれて目が覚めた。



「あがー!なんだばぁ?」
「隣、転校生さ!」



はぁ?と隣を見れば、驚くくらい白い肌をした女が机にカバンを置いていた。
俺の視線に気がつくと、頬にかかる長い髪を耳にかけて微笑んだ。



「隣なの、よろしくね。」



色素の薄い女だな。
それが俺のに対する第一印象だった。










放課後の部活でも珍しい転校生のことが話題になっていた。
というか、裕次郎が勝手に騒いでいただけだが。



「例の転校生、凛のクラスに入ったんだって?どう?イケテルか?」
「わんの隣。」


「マジか?噂じゃ、でーじ可愛いんだろ?俺、明日は凛の教室で昼飯食うぜ。」
「はーやー。永四郎に怒鳴られる前に行くさ。」


「あい?待てって、凛。その子のこと聞かせろって。」



ウルサイったら。
俺は裕次郎を適当にあしらいながらコートに向かった。
が、そこには思いがけない人物が居た。



「え〜裕次郎、あれみちんまー?」
「アレ誰だ?」


「やぁが会いたがってた転校生だろ。」
「へぇ、アレか。確かに垢抜けた感じがするなぁ。」



顎で指した先、俺のクラスに転校してきた女がジャージ姿で永四郎と話していた。
光りに透けて栗色になった髪を後ろで一つに束ね、身振り手振りを交えながら永四郎に向かう姿は勇ましくもある。
永四郎は相変わらずの冷たい視線で聞き流しているふうだけど、女は怯むことなく何事が訴えていた。



「木手、どうかしたのか?」
「君達はコートに出てくるのが遅いですよ。ランニング5周追加です。」


「・・・5周にも言いたいことがあるけどよ、その子は?」


「あ、平古場クンってテニス部だったんだ。」



裕次郎が永四郎に訊いている脇で、俺に気付いた女がパッと笑顔を浮かべた。



「ああ。で、やぁは何の用さ?」


「私ねテニス部のマネージャーをさせて貰おうと思って木手君にお願いしているところなの。
 平古場クンからもお願いしてくれない?」


「マネージャー?そんなものココにはないぜ。必要ないだろ。」



「俺もそう言ったんですけどね、彼女は中々にシツコイんですよ」と永四郎が溜息をつく。



「私、中学からテニス部のマネージャーを続けてきたの。
 だからこっちでも続けたいと思って。お願いします。必ず皆さんのお役に立ちますから!」



勢いよく頭を下げれば結んだ髪が目の前で跳ねる。
一見は色白で大人しそうなコに思ったが、結構元気なヤツらしい。



「木手、ウチに可愛いマネージャーがいてもいいんじゃねぇ?」



調子のいい裕次郎が賛成する隣で、まぁ悪くはないかと俺も内心で思う。
だが永四郎は難しい顔をしていた。



「彼女は氷帝のマネージャーだったそうです。」
「ヒョーテーって、あの氷帝か?『わーぬびぎにいーれー』の俺様野郎がいるところか?」


「わーぬびナントカって、何?」


「俺様の美技に酔いな、でしたか?」



ああ、あれね。と、元マネージャーが苦笑している。
が、これで永四郎が渋っている訳が分かった。



「君がどういうつもりで我々のマネージャーになりたいと希望しているのか知りませんが、
 正直言って君を受け入れるのは危険すぎると判断しました。」


「危険?なにが?私、暴れたりはしませんよ?」


「はは。やぁは面白いな。永四郎だって、やぁが暴れることなんか心配してないさぁ。
 やぁが東京を代表する氷帝のマネージャーだったっていうのが問題なんだよ。」



本気で意味が分かってないらしい。
キョトンとしている本人に永四郎が淡々と説明を始めた。



「いいですか?君が我々のテニス部に入ってくれば、自然といろいろな情報を得るでしょう。
 その情報が氷帝に筒抜けになることを心配してるんですよ。
 氷帝が東京を代表する強豪校なら、我々比嘉高だって沖縄を代表する高校です。
 全国に行けば顔を合わすかもしれない相手に、みすみす情報を流す必要もない。」


「待って!それは私がスパイみたいな真似をするとでも?」
「端的に言えば、そうです。」



の白い頬が赤く染まっていく。
色の白い人間は瞳も琥珀色なんだと感心していたら、グッとの瞳に力がこもったのが分かった。



「そんなことはしません。ここに加わったら、私もチームの一員だもの。」
「口では何とでも言えますよ。」


「木手君、跡部と話したことある?
 跡部は確かに俺様だけど、それだけの実力とプライドがある人なの。
 もし私が比嘉高の情報を教えようとしたって『余計なお世話だ』と怒るような人よ。
 反対に私が氷帝の情報を比嘉高に流したとしても『力があれば恐れることはない』って気にも留めない。
 自らの力が全ての人なのよ。欲しい情報があれば、彼は自らの目で見て判断するわ。
 私の意見なんか聞くはずもない。それだけの強さと力のある人なの。」



永四郎の眉が僅かに上がった。
なんていうか、俺も俄かに驚いていた。
見た目からして鋭く強面の永四郎に、面と向かってハッキリ考えを言える女を初めて見た。
おまけに説得力のある物言いだ。



「私ができるのは皆が練習に集中しやすい環境を整えることなの。
 雑用とか練習以外に割く時間を私が引き受ける、それだけよ?」


「その細腕で、ですか?」


「私もともと色白だから、か弱そうに見えるらしいんだけど。
 実はこの三年ほど風邪もひいたことないくらい元気なの。
 それに見て!ボールの入った籠とか、洗濯物運びで鍛えた二の腕の筋肉よ。」



そう言っては俺たちの前で真っ白の腕を出して力こぶを作って見せた。マジ、面白い奴だ。



「あらら〜!永四郎、ちゃーすが?」
「どうすると言われましてもね。さて、どうしたものか。」


「なら暫く試験採用ということで使ってみてくれない?」



永四郎は暫く考えていたが、小さく溜息をつくと頷いた。



「いいでしょう。少しの間、チャンスをあげますよ。
 ただし、くれぐれも我々の練習の邪魔はしないでくださいね。」


「ありがとう!」


「で、君の名前を教えてください。」


「そうだったね。自己紹介します!
 私の名前は。これからよろしくお願いします!」



降り注ぐ日差しを浴びてが笑った。
なんていうか、青空に白い花が咲いたみたいだなと俺は思ったんだ。


それが俺たちの出会いだった。




















君がいれば楽園 1 

2007.06.30





















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