君がいれば楽園 〜甲斐編〜 最終回
ハルちゃんは俺に会いたくて沖縄に来たと言った。
「ちゃんが沖縄に転校することになって、テニス部のマネージャーを続けたいからって比嘉高を選んだ。
あの時・・・ちゃんが転校する寂しさより、甲斐クンのいる比嘉高に行けるのが羨ましかった。
だからね、ちゃんにお願いしたの。甲斐クンのことを教えてって。
転校してから、ちゃんはイッパイ普段の甲斐クンを教えてくれた。
そしたら・・・どうしても会ってみたくなって。」
ハルちゃんは抱えた膝の間に顔を埋めたまま震えていた。
頭が真っ白になってる俺の目に、月の光りを僅かに反射している小さな光りが映る。
それはハルちゃんが砂浜に置いた荷物の上の携帯。
俺とお揃いのガラス玉がついたストラップが月光を反射していた。
暗くて色は分からないけれど、それはピンクのはず。
「ここで会うまでは・・・憧れだった。カッコイイ人だなって。
一年に一度だけ全国大会の会場で会える、私にとっては王子様みたいな人だった。
でも・・・実際に話して、一緒に遊んで。甲斐クン、思った通りに優しくて、カッコよくて。
話す時は私が分かりやすいよう方言使わずに話してくれてたり。
やっぱり転びそうになったら私の腕を掴んでくれて、大丈夫かって心配してくれて。
私、本当に甲斐クンのこと、」
「待った!」
俺の声にハルちゃんの肩が目に見えて竦んだ。
ハルちゃんだって怖いのは一緒だよな。傷つきたくないのは同じはずだ。
それでも言おうとしてくれているのが分かるから・・・
宣告を待つように緊張しているハルちゃんの頭に手を伸ばした。
ポンと軽く頭を撫でれば、恐る恐るハルちゃんが顔をあげる。
その目が明らかに潤んでいるのを見れば、胸にグッと熱いものが込み上げてきた。
一度は離そうと思った手は自然とハルちゃんの頬を包む。
幸せな気持ちになる温かさと柔らかさ。
この温もりを手にできた俺に、もう迷いはなかった。
「会いに来てくれて、ありがとな。
今度は俺が会いに行くから・・・俺と付き合ってくれるか?」
ハルちゃんの大きな目が更に丸くなる。
俺は笑い出しそうになりながら、頷いて見せた。
「俺、ハルちゃんが好きだ。」
瞬きを忘れたみたいなハルちゃんの目から、みるみる涙が溢れてきた。
ゴシゴシと手の甲で涙を拭い、夢見てるみたい…って小さく呟く。
その仕草が幼くて、可愛くて。
やっぱり俺はハルちゃんがとても好きなんだと思った。
「なだぐるぐるーだな。」
「え?」
「涙うるうるなのが、可愛いよ。」
キョトンとするハルちゃんの頭をそっと抱き寄せた。
甘い女のコの香りがする髪に頬を擦りよせる。
昼間だったら絶対に出来ない。
夜たがら。明日には暫く会えなくなるから。
真っ赤になってるだろうハルちゃんと視線を合わした。
今までで一番近い俺たちの距離。
俺の思ってることは通じたんだろう。
お互いに、とても慣れてるとは言えないぎこちなさで顔を近づける。
伏せる瞳の瞬間に胸を高鳴らせ・・・
俺たちは触れるだけのキスをした。
あれから五カ月。
待ちに待った全国大会に出場するために、俺らは那覇空港にいた。
「裕次郎、落ち着けよ〜。」
「ぬーやが?」
とぼけたところで凛にはバレバレだ。
ハルに会える。そう思うだけで、心はすでに東京だ。
大事に背負ったラケットバッグには、ハルへのプレゼントも入ってる。
とにかく一日でも長く傍にいられるよう、絶対に決勝まで残ってやるさ。
空港のロビーに立てば、俺の胸にしがみ付いて泣いてたハルを思い出す。
『毎日、メールするね。手紙もイッパイ書く。電話もするから。』
『俺もするよ。』
『絶対・・・私は甲斐クンだけだから、忘れないで?」
『分かってる。ハルちゃんも忘れるなよ?』
『大丈夫だよ、私は。だって、ずっと甲斐クンが好きだったから。』
ハルちゃんは、とうに距離も時間も超えて俺を想ってくれていた。
だから大丈夫だよって、迷いもなく口にした。
飛び立つ銀の翼を見送れば、心に穴があいたみたいな寂しさを感じた。
けれど隣に立つ凛とが笑ってくれたんだ。
『ずっとハルに口止めされてて辛かったんだけど・・・これでスッキリした。』
『おーよ。
俺もからハルちゃんの気持ちを聞き出してからは、裕次郎がグスグスしてるのにわじわじー(イライラ)してよ。』
『なら、早く教えてくれよ。』
『けど、なぁ?』
『大事なことは、自分たちの口から伝え合うのが一番だと思って。』
まぁ、うまくいったんだからと凛は誤魔化すように笑い、が『ゴメンね』と頭を下げた。
俺は苦笑いを浮かべてから、ふたりに礼を言った。
ハルちゃんに出会わせてくれて、ホント感謝してる。
飛行機に乗る直前、ハルの携帯にメールした。
それから電源を落とし、揺れるガラス玉のストラップを指で弾いてからポケットにねじ込む。
今から、そっち行く。
すぐ会いに行くから、待っててな?
携帯を開くハルの笑顔が目に浮かぶ。
色違いのガラス玉を揺らして、ハルは空を見上げるだろう。
俺たちが欲しいのは思い出なんかじゃない。
欲しいのは、今と未来なんだ。
さぁ、君のいる楽園へ飛び立とう。
君がいれば楽園 甲斐編 最終回
2007/10/14
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