君がいれば楽園 〜甲斐編〜 5










今日は朝から部活。
うわの空の俺は、もう少しで木手の鉄拳を食らいそうになって避けた。


明日の朝にはハルちゃんが東京へ帰る。
共に過ごせるのは泣いても笑っても、今日しかなかった。



「今夜さ、一緒に花火しようって相談したさ。裕次郎も来るだろ?」
「ん・・・」


「かんなじ?」
「ああ、かんなじ。」



絶対だなと念押しされ、俺は頷く。
なんか凛にも気を遣わせてるなと思う。


「ラストチャンスだぞ」と凛に耳打ちされ、俺は無理に笑顔を浮かべた。



俺の携帯にはハルちゃんがくれたお揃いのストラップが揺れている。
凛はに探りを入れたうえで「あとは裕次郎の気持ち次第さ」と心強い言葉をくれていた。



遠距離だとか、ハルちゃんに好きな人がいるかもとか、いろんな理由を並べて逃げようとするのは俺の弱さ。
自分が傷つくことを恐れているだけなんだって気付いた。
人の気持ちは文字で書くみたいに見えないから、ちゃんと伝えて答えを貰うしかない。
それがどんな答えでも・・・このまま別れたら絶対に後悔する。



俺は覚悟を決めた。










いつものコンビニでハルちゃんたちと落ち合う。
ニコニコ顔のハルちゃんに少し胸を痛めながら、賑やかに買い物をすませた。
沈んでいく夕陽に向かって、コンビニ袋をカサカサいわせながら並んで歩く。
今までと同じように他愛ない話をしているはずなのに、なんとなく皆の会話が上滑りしてるのを感じる。
はしゃげばはしゃぐほど、僅かにできる沈黙の間が寂しさを感じさせた。


浜辺に着くと、デカイ太陽がゆるゆると海へ帰っていくところだった。
俺たちは感嘆の息を吐き、言葉もなく沈んでいく夕陽を見送る。


ハルちゃんの全てをオレンジが染めていた。
もちろん俺も、凛も、も。
足元に転がしたペットボトルまでもが夕陽に染まり輝いていた。


美しいって言葉は、こういう時に使うんだろう。


俺は携帯を出し、夕陽に染まるハルちゃんの横顔に向けた。
ハルちゃんが俺の携帯に残る。
そう思った時、ハルちゃんが俺の方を向いた。


携帯を向けてる俺を見て、そこに揺れるガラスのストラップに視線が気付く。
ハルちゃんは大きな瞳を弓のようにして微笑んだ。



「こんなに綺麗な夕陽、初めて見ちゃった。」



その笑顔が泣けるくらい愛しく思えて、俺は写真が撮れなかった。
開いたままの携帯を握りしめ、全てを自分の目に焼き付けようと強く思ったからだ。





日が落ちれば、最後の夜がやってくる。
俺達はコンビニで調達した花火を出してきて、次々と火をつけていった。



風が吹く浜辺では、花火セットについてる小さなロウソクは役に立たない。
花火から花火へと順に火を移していくのがマシだろう。
花火を持つ人間の傍に行き、火を移してもらっては離れていくを繰り返す。





「あがー!裕次郎、俺の手を焼いただろ!?」


「え〜、わりぃ。ほら、次はハルちゃん。火傷に気をつけろよ。」
「裕次郎、あからさまに態度が違うさっ」


「凛クン、平気?」
も気をつけろよ。やーの手を焼いたら大変さ。」


「ぐるぐる回すと楽しいよ〜」


「うわっ、ハルちゃん!」





子供みたいに花火を振りまわしてるハルちゃんから飛び逃げる。


喉に『好きだ』を詰まらせている俺は始めこそ緊張していた。
けれど明るいハルちゃんが本気で楽しんでいるのを見ると、少しずつ緊張もほぐれていく。


四人で走り回って騒ぎ、ひと汗をかいた頃だった。
隣に線香花火を持ったが寄ってきた。
凛とハルちゃんは鮮やかな花火を闇に向かって振りまわし模様を描いてる。


火が取りやすいように俺の花火を差し出してやると、は「ありがとう」と腰をかがめた。



「甲斐君・・・後でハルの話を聞いてあげてくれない?」
「え?」


「ハルね、昨夜泣いてた。帰りたくないって。」



唖然とする俺ではなく、線香花火を見つめたままが教えてくれる。



「ハルは甲斐君に会いに来たの。だから、お願い。」



線香花火に火がつくと、はニコッと笑って俺から離れていく。



俺に会いに・・・?ソレ、どういう意味だ?



今すぐに聞きたかった。
いや、違う。最後までが言わなかったのには意味がある。
俺がハルちゃんに聞くんだ。



どんどん続けて火をつけるもんだから、花火は瞬く間になくなった。
凛が物足りないと言って、追加の花火を買ってくるという。
するとが「ジュースか何か買ってくるね」と言って共に行ってしまった。


二人が俺らにくれた時間らしい。



「疲れちゃったね。」
「はしゃぎすぎだろ。」



笑ってハルちゃんが砂浜に腰をおろすから、俺も少し距離を空けて隣に座った。
途端に鼓動が大きくなって、隣のハルちゃんに聞こえるんじゃないかと心配になってきた。
すっかり辺りは闇に包まれたけど、月が俺らを照らしている。
お互いの表情ぐらいなら十分に分かった。



「星がイッパイ・・・」
「ん?ああ、」



えっと、どう切り出せばいいんだ。
こんなことなら凛に告った方法を聞いときゃ良かった。


まずはの言っていたコトだ。



「あのさぁ、その・・・」
「なに?」



クルッとハナちゃんが俺の方を向く。
その距離の近さと黒い瞳が潤んだように輝いてるのを見て、鼓動が跳ねた。



「え?ああ、いや・・沖縄は気に入ったか?」



なに、ありきたりなこと聞いてんだ?



「ウン!すごく楽しかった。また来たい。」
「そっか、よかった。」



何が良かったんだ、俺。
とにかく心臓が口から飛び出そうだ。
駄目だ。ぐずぐずしてたら、凛たちが帰ってくる。



「あ、あのさ、ハルちゃんはナンで沖縄に来たんだ?」



唐突な質問にハルちゃんが目を丸くして俺を見ている。
失敗したと直ぐに気がついた。



そんなのの元へ遊びに来たと答えるに決まってるだろ。



自分の間抜けさにキャップを取って頭をガシガシとかく。
すると隣で俺を見ていたハルちゃんが懐かしいものでも見るように瞳を細めた。



「甲斐クン、キャップをかぶってないと雰囲気変わるよね。」
「そうか?」


「ウン。一度だけ、キャップ無しで試合をしたことあったでしょう?」
「ああ、中学ん時の全国大会で・・・」



待て。どうして、そんな前のこと。
ハルちゃんは抱えた膝に顎を乗せると、波の音に消えてしまいそうな小さな声で言った。



「知ってたよ。
 中三の夏から・・・ずっと見てたの。」


「中三って、俺らが初めて全国行った時の?」


「全国大会の会場で、私たちは会ってるんだ。
 氷帝チア部と擦れ違ったの・・・憶えてない?
 狭い通路を擦れ違ってて、段差に躓いた私の腕を引っ張ってくれたのが甲斐クンだった。
 あの頃は比嘉中って名前も知らなくて、とにかく怖い人たちが歩いてくるって思ってた。
 でも甲斐クンは私に『大丈夫か?』って聞いてくれた。」



記憶を辿っている俺の表情にハルちゃんが笑う。



「私を助けた拍子にキャップが落ちて、それを後ろの田仁志さんが踏んじゃって。
 そしたら甲斐クン、すごい剣幕で怒って。聞いた事もない方言で怒鳴ってた。
 私・・・怖くて半泣きになってたら、お前に怒ってるんじゃないからって。
 困ったみたいに笑って・・・って、憶えてないよね。」



そうだ、確かに田仁志に帽子を潰されてキレたことがある。
思わず方言丸出しで口喧嘩したんだ。
あのデカイ足に踏まれたキャップをかぶって試合をする気にもなれず、その日はキャップ無しで試合した。
翌日の青学戦には東京で買った新しいキャップをかぶって出場したんだ。


あの時のコが、ハルちゃん?
そういえば派手なウェアとミニスカートだった気がする。



「あれから・・・ずっと?もう二年以上たってるのに?」
「ウン。」



頷いたままハルちゃんは顔を膝の間に埋めた。
そして、ホントに聞き取れないくらいの声で呟いた。





「私・・・甲斐クンに会いたくて沖縄に来たの。」




















君がいれば楽園 甲斐編 5




















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