君がいれば楽園 〜甲斐編〜 4
ハルちゃんが東京に帰る日まで残り二日しかなかった。
俺達は観光客よろしく、色々な場所で写真に納まる。
出会った頃は写真を撮るのだって、なんでもなかった。
ゲラゲラ笑って、ただ肩を並べたもんだ。
だけど今は違う。
シャッターが押されるたびに、一瞬で全てが思い出になっていくんだと思えば寂しかった。
ここでの数日は思い出として紙にプリントされてしまう。
ハルちゃんの手元に、時を止めた俺だけが居続けることになるんだ。
凛は俺の肘を突付いては『もう日がないぞ』と急かすけど、まだ俺は告っていいものか悩んでいた。
ハルちゃんにソノ気がなければ、沖縄での楽しい日々を俺がイヤな思い出に変えてしまうことになる。
運良くハルちゃんが俺の気持ちと同じだったとしたも・・・それは遠距離恋愛の始まりだ。
どっちに転んでも、ツライ。
言われなくても分かってるんだよと、凛をヘッドロックして八つ当たり。
親切で言ってやってるのにと怒る凛と喧嘩してたら、「仲良しよねぇ」ととハルちゃんに温かい目で見られた。
「しにわじわじ(イライラ)ーする!」
「かしまさいって」
凛が自分のことのように歯痒がってるのがわかる。
言わせてもらえば、凛がに片思いしている間は俺がイライラしてたんだ。
お互い様だと諦めてくれ。
不機嫌な凛から離れ、俺はデジカメをカバンに仕舞うハルちゃんに話しかけた。
「その写真さ・・・出来たら俺にもくれるか?」
「もちろん!プリントして送るね。」
当然のように言ってハルちゃんが目を細めた。
写真を送ってもらえば、帰っても繋がりが残せるかなと頭をかすめる。
なんだか自分が女々しくて情けなかった。
「ね、ね、甲斐クン、コレとコレ。どっちが美味しそう?」
土産物屋の店先で、ハルちゃんが俺を振り返り菓子箱を見せてきた。
帰り支度で土産物を選ぶ、その無邪気さに泣けてくる。
人の気も知らないで。
それでも俺は真剣に考えて「チョコがついてるヤツ」と指差してやった。
「あ・・・これ、可愛い。ガラス玉の中に星砂が入ってる。」
ハルちゃんが俺の勧めた菓子を胸に抱きしめたまま何かを見つけた。
丸い小さなガラス玉の中に色水と星砂が入った携帯ストラップだ。
「ふーん、色々な色があるんだな。」
「幸運ストラップだって。ほら、色によって効果が違うの。
青が健康で、緑が集中力。ピンクが・・・恋愛だって!」
ぎょっとした。ハルちゃんは目を輝かせてピンクのガラス玉がついたストラップを手のひらに載せている。
鼓動が速くなるのを感じながら、何でもないように訊いてみた。
「それ・・・自分に買うのか?」
「ウン!気にいったし、沖縄の思い出になるから。」
そう言って、迷わずピンクのストラップを小さな手に包んだ。
まさか、向こうに好きな奴がいるのか?
愕然とした。
他愛ない話しの中でカレシがいない事は確認済み。
だが片思いの相手がいるかどうかまでは訊けてない。
俺は自分の気持ちばっかり考えてて、ハルちゃんに好きな奴がいるとか考えてもなかった。
なんとなく自分とイイ雰囲気かもとか思ってたが、とんでもない自惚れだったのかもしれない。
そう思いあたると眩暈がしそうになって、「ちょっと、ノド乾いた」と呟きハルちゃんから離れた。
小銭を入れた自販機の前で立ち尽くす。
溜息といっしょに頭を自販機にぶつければ、キャップと一緒に選んでもないジュースが落ちてきた。
「わん・・・ふらーあらに。」
俺、馬鹿じゃん。
出てきたのはジュースじゃなくて『さんぴん茶』だった。
飲む気も失せて皆の元へ戻れば、ハルちゃんが『さんぴん茶』を欲しがった。
東京じゃ売ってないお茶だと珍しがってる。
「ほら」
ハルちゃんに見慣れた缶を渡してやると、大事そうに両手で包んだ。
「お礼、あげるね。」
「お礼なんか、別に」
ハルちゃんはカバンに手を入れると小さな紙袋を取り出してきた。
それを俺に差し出して、恥ずかしそうに缶で口元を隠し俺を見上げる。
はにかんだハルちゃんの姿に、俺は頬が熱くなるような気がして焦った。
凛やも興味津々で俺の手元を覗き込んでるし、俺は変な咳払いをして包みを開く。
手のひらに傾けた紙袋から滑り出てきたのは、青いガラス玉のストラップ。
驚いた俺がハルちゃんを見れば、言いにくそうに視線を逸らされた。
「テニスで怪我をしないよう、青にしたの。
お揃いになっちゃうから嫌かもしれないけど。その・・・嫌なら使わなくても、」
「い、嫌なわけないだろ。でーじ、いや・・すげぇ嬉しい。」
「本当?良かった!」
パッと顔を上げたハルちゃんが、心底嬉しそうに笑った。
ありがとう。
何より誰の言葉より元気が出る。
ハルちゃんが笑えば、俺も笑っていられるよ。
君がいれば楽園 甲斐編 4
2007/10/12
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