君がいれば楽園 〜甲斐編〜 3










翌日、ハルちゃんは俺らの部活に顔を出した。
気難しい木手は良い顔をしなかったけど、の親友ならばと半ば諦め気味に溜息をついた。


ハルちゃんが見てるんなら、カッコイイとこ見せないと。


当然の如く俺の気合いは半端なものじゃなく、凛には被害者となってもらった。



「サービスダッシュやさぁ!!」
「上等やさ!!」


「何ぃーっありぃ返ぇーするばい?」



前に出てきた凛の足元を狙って打ち返し、勝利。


自信満々で後ろを振り返れば、知念や田仁志に囲まれて笑顔を振り撒くハルちゃんが視界に入った。
隣にだって居たけれど、アイツらの視線はハルちゃんに注がれてる。
途端にテンションが下がるのを感じて、キャップをかぶり直した。



「アキサミヨ〜!裕次郎、ちゃーすが?」


「どうするって、どうもしないさぁ。」
「そんな激不機嫌な顔で言われてもよぅ。」



ネットに近づいてきた凛がラケットで肩を叩きながら俺に訊く。
意味ありげに笑ってるから、余計にムカつくんだ。


凛は知ってて言ってる。
俺が立ち話しているだけのアイツらに嫉妬してるってことを。



「裕次郎、本気だばぁ?」
「かしましいって!」



つい声を荒げると、凛は「わんは心配してやってるのにぃ」と肩をすくめた。
分かってるけど気持ちの治まらない俺は無視してコートから出る。
すると横から「甲斐クン!」と名前を呼ばれた。



誰の声かなんて直ぐに分かる。
ハルちゃんはペコリと知念たちに頭を下げてから、俺のもとへ走ってきた。



「甲斐クン、すごかったね!」



俺の試合なんか見てたのかよと内心で思えば、素直に「ありがとう」なんて出てこない。
チラリと後ろを見れば、知念と田仁志が物言いだけに俺らを見て笑ってる。



「アイツらと話さなくていいのかよ?」
「え?ああ、知念君と田仁志君?」



ハルちゃんも少し後ろを振り返ってから、可笑しそうに口元を押さえる。
その仕草は可愛いけれど、他の男に対するものかと思えば腹立たしい。
だがハルちゃんは「内緒ね」と小さく囁いて俺に近づくと、耳元に顔を寄せるようにして話し始めた。



「本当は怖かったの。知念君は顔が怖いし・・・、田仁志君は体が大きくて。
 話してる間も緊張して、ホラ。手に汗かいちゃった!」


「はぁ?」



そう言って俺に見せた手のひらは、ちっちゃくてメチャ可愛い。



「二人とも話したら怖くなかったけど、半分くらいは何を話してるのか分からなかったし・・・
 甲斐クンの試合、早く終わらないかなぁってドキドキしながら待ってたんだ。
 それで・・・逃げてきちゃった。」


「そっか。」



どうしよう。気分は急降下の後の急浮上だ。
自分でも現金な奴だと思うが、勝手に緩んでくる頬はどうしようもない。
俺を見上げてくる大きな瞳が陽射しを反射してキラキラと輝いて見える。





ダメだ、こりゃ。
完全に好きだ、俺。



頭を抱えたいような、空を飛びたいような、とりあえず走っとくかみたいな気持ち。



「とにかく部活が終わるまで、俺の隣にいればいいさ。
 帰りにブルーシールのアイスクリーム奢ってやるから。」


「本当!?やったぁ〜」



俺は意思を持ってハルちゃんの頭を撫でた。
ハルちゃんは、くすぐったそうに首をすくめて笑う。


触れた髪は柔らかくて温かかった。










部室で着替える間、もう何度目かも分からない溜息をついていたら木手に嫌味を言われた。



「甲斐君、その溜息はやめてくれますか。聞いてるだけでイライラするんですけどね。」
「・・・悪かったな。」



答えた後から溜息が出る。
木手の眉間に皺が寄り、凛が慌てて間に入る。



「え〜、まぁ仕方ないだろ?裕次郎も悩み多き年頃っていうか、」


「馬鹿馬鹿しい、何を悩む必要があるんですか?彼女も甲斐君のことを憎からず思ってるみたいでしたよ。」



さらりと言った木手の言葉に俺は言葉をなくす。
それは凛も同じだった様で、二人して絶句したまま木手の顔を見つめた。
木手は生真面目にジャージから制服に着替え、ワイシャツの一番上のボタンまで留めようとしている。
驚きで声も出ない俺達の顔を横目で見ると、僅かに眉を寄せて続けた。



「どうせ此処で好きになっても遠距離恋愛になるとか、うまくいくはずがないとか考えて悩んでいるでしょう。」



凛が俺の顔を見て、また木手の顔を見て、落ち着きなく見比べている。
俺はというと木手に心の中を覗かれたような気持ちになって、勝手に顔が熱くなってきた。



「はぁやぁ!永四郎の観察力は、恐ろしいな。」
「普通、見れば分かりますよ。平古場君ほどではないにしても、甲斐君も単純で分かりやすい人間ですからね。」


「わんのどこが単純だっ」


「とにかく距離があるぐらいで諦められるものなら、たいしたことはない。
 溜息をつくだけ無駄ですからやめて下さいよ、迷惑です。」



木手に噛み付く凛の隣、俺は言われたことを反芻していた。



そうなんだ。ネックは距離だ。
もしハルちゃんがうちなーんちゅだったら、俺はこんなにも悩まなかったはずだ。
離れてるから、いつも会えないから、今度って約束できないから・・・俺は諦めようとしている。


だけど芽生えたばかりの『好き』って気持ちは、どんどん大きくなって消せはしない。
それどころか残り僅かしかないハルちゃんとの時間が惜しくて、胸が痛くて堪らないんだ。



「だって・・・仕方ないだろう?
 好きだって告げたって、もう二日もすれば居なくなるんだぜ?
 もしハルちゃんが俺を好きだったとしても、次に会う約束だって出来ないくらい距離があるんだ。」



俺は木手に言うというより、自分に言い聞かせるようにして言葉を搾り出した。
隣で凛が小さく「裕次郎・・・」と呟く。
なのに木手は表情一つ変えず襟元までボタンを留め終わると、眼鏡を直して俺に言った。



「想いに距離など関係ない。
 離れたぐらいで冷めるような想いなら、それは本物じゃないってことですよ。そんなもの壊れて当然だ。
 だから言ってるんですよ。どうでもいい想いなら、溜息をつく価値もないってね。

 俺は帰りますよ。部室の鍵、閉め忘れないで下さい。それじゃあ、お先に。」



キッパリと言い切って、カバンを手に背を向けた木手は部室を出て行った。
部室のドアが閉まって木手の姿が見えなくなった途端、凛が興奮したように喋り始める。



「木手が恋愛について語るのを初めて訊いたさ!」
「そ・・だな」


「にしても、いんちきだろ。何で、裕次郎だけ。」
「いんちきって、何で?」



まだ考えが纏まらない俺がボンヤリとして聞けば、凛が半分怒ったみたいに説明し始めた。
自分がと擦れ違っている時、木手は分かっていて教えてくれなかった。
なのに俺には早々にヒントを与えたのが贔屓だと拗ねている。



「そうか?俺には覚悟もないなら、さっさと諦めろって聞こえたけどな。」


「違うだろ。本物なら、距離なんか関係ないってことさ!」





ええ?と凛の顔を見れば、二ッと笑って肩を力強く叩かれた。




















君がいれば楽園 甲斐編 3

2007.10.11



















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