君がいれば楽園 〜甲斐編〜 2










ハルちゃんはチア部。
体を動かすのが大好きで体育は常に5。
テニス部の応援にも氷帝カラーのユニフォームで応援に行く。


4人家族で上に大学生の兄が一人。
去年からトイプードルの『カイユ』♂が家族の一員に加わる。
やんちゃで甘えん坊らしい。


好きな食べ物は抹茶のアイスクリーム。
好きな科目は体育と古典、苦手なのは数学と英語。


好きな音楽、映画、ゲーム。
楽しい友達との会話。普段の遊び、出かけるところ。



見たわけでもないのにハルちゃんの日常が目に浮かぶようだ。



「ねぇ、甲斐クンは?何が好き?普段は、どんなことしてる?」



丸い瞳に俺が映ってる。
俺の瞳にもハルちゃんが映ってるだろう。


楽しい春休み。
生活の大半を占める部活がおろそかになってしまいそうなほど、ハルちゃんとの時間が俺を夢中にさせた。





部活が終わると、凛たちと共に待ち合わせしてるハルちゃんとおち合う。
もマネージャーとしての仕事があるから、部活の間のハルちゃんは一人だ。
活発なハルちゃんは一人の時間もガイドブック片手に歩いたりして、それなりに楽しんでいるようだった。


速攻で着替えて学校近くのコンビニに行けば、雑誌の並ぶガラス窓に立ち読みしてるハルちゃんの姿を見つけた。
自然と顔が緩んでしまったのだろうか、ツンと凛に肘を突かれる。



「裕次郎、ハルちゃんが気にいってるだろ?」
「べ、別に・・そんなこと、」


「ハルちゃん、可愛いもんなぁ。やったー気が合ってるみたいだし。」



意味ありげに言われて言葉に詰まる。
凛はニヤニヤとしながら「チバリヨー」と俺の背中を叩いてに並んだ。


俺が凛の変化に気付いたように、凛にだって俺の気持ちは筒抜けらしい。
出会ったばかりで、好きだとかハッキリ言えるわけじゃない。


だけどハルちゃんは可愛いと思うし、話すと楽しい。
もっと話したい、ハルちゃんのことを知りたいと思う。


ただな・・・ハルちゃんはやまとんちゅだ。
来週には東京に帰ってしまう。


恋なんかしたって、あまりに遠いし続けられるものじゃないだろ。
凛だって分かってるはずだ。


俺は知ってる。凛が心のうちではとの未来を不安に思ってるってコト。
うちなーの人間でないだって、いつかは東京へ帰る日がくる。


好きになればなるほど、失う日が怖くなる気持ちが俺にだって分かるんだ。





コンビニのガラス越し、俺らに気付いたハルちゃんが笑顔をイッパイにして手を振る。
その視線が俺にとまると、おどけたように頭を指差した。


なんだ?
ハルちゃんの口が大きく動く。



ぼ・う・し・か・わ・っ・た・ね



ああ、帽子。キャップな。
俺が頷けばハルちゃんが嬉しそうに目を細めた。



可愛いな。



ハルちゃんが沖縄に住んでいたなら・・・
頭を掠める思いを振り払い、好きにはなるまいと心にストップをかける。


一時のトキメキを味わえれば、それでいい。
俺は小さく息を吐いて、凛と共にコンビニの扉を押した。





ハルちゃんと過ごす三日目の今日は学校近くの海へ遊びに行くことにしていた。
学校の近くによく遊ぶ浜があると教えてやったら、ハルちゃんが行きたがったからだ。


観光地でもない普通の浜だが、俺らにはお気に入りの場所。
コンビニでジュースと菓子を買い、俺らはハルちゃんの冒険話を聞きながら浜へ向かった。


俺らの格好はいつものジャージ。
ハルちゃんはTシャツに膝までのパンツ姿で、サッサとスニーカーと靴下を浜辺に放り投げて走り出す。
その素早さに呆れながら小さな背中を追いかける。



「うわっ、冷たい!でも気持ちいい〜。見て見て、水が透明だから足が綺麗に透けて見える!」
「そんなの当然だろ?」


「東京じゃ、当然じゃないよ?」
「それも当然だって。」



東京の海が此処と同じ美しさだったら、そっちの方が驚くだろ。
屈託ないハルちゃんはゲラゲラと笑って、裾が濡れるのもお構いなしで水の底に揺れる白い砂を足先でかきまわす。
子供みたいな喜びように呆れつつ、その素直さが愛しくも思った。



「おいおい、あんまハシャグと転ぶ・・・おいっ!」



転ぶぜ、と言い終わらないうちにバランスを崩すハルちゃん。
咄嗟に肘を掴めば、軽く指がまわってしまう腕の細さに鼓動が跳ねる。
尻もちをつきそうになった体を力で支えれば、顔を上げたハルちゃんが「あ!」と声を上げて身をよじった。



「ちょっ、なんだ!?」
「あった!」



俺に支えてもらってるくせに横に手を伸ばすハルちゃん。
足場の悪い海の浅瀬で耐えられる筈もなく、ダメだと思った時にはハルちゃん共々転んでいた。


あがる水飛沫とハルちゃんの悲鳴。
凛の笑い声とのハルちゃんを心配する声が重なる。


俺は辛うじて顔面から海に突っ込むことなく膝を突いた体勢で堪えた。
が、当然のことながらウエストから下が海の中だ。
ハルちゃんは胸の下まで海に浸かった状態で四つん這いになっている。



「おーい、大丈夫か?」



笑いを噛み殺しながら訊ねれば、ムクッと起き上がったハルちゃんが俺の方を向いた。
手には鮮やかな赤のキャップ。



「ゴメン、さっき支えてくれた拍子に甲斐クンの帽子が落ちたの。流されると思って手を伸ばしたら・・・」
「あー、それでか。」


「なんか余計に酷い事になっちゃった。」



前髪からポタポタと雫を垂らしながら俯く姿に笑みが零れる。
俺は差し出された海水漬けのキャップをかぶり立ち上がると、ションボリしてるハルちゃんの頭をポンと叩いた。



「ありがとな。コレ、気にいってたから失くさなくて良かったさ。」
「け、けどお気に入りなのに濡れちゃった。」


「ヘーキさ。高いヤツじゃないし、水洗いして干しとけば大丈夫。」
「本当?」


「ホント。それよか、ハルちゃんのほうが大変なコトになってるぞ?」



全身ずぶ濡れの自分の姿を見下ろし、困った顔を見せるハルちゃんが可笑しい。
俺はハルちゃんの前に手を差し出した。


まだ下半身を海の中に沈めてるハルちゃんが戸惑いがちに俺の表情を窺う。
頷いて「ホラ」と指先で促せば、ハルちゃんがおずおずと手を伸ばしてきた。
その手をかなりの勇気でもって掴むと海から引き上げてやる。


想像より、ずっと軽い女のコの重さ。
その重さを腕の中で感じてみたいと思ってしまってから、なんてことを考えてるんだと恥ずかしくなる。
放したくない手を無理矢理に引き剥がし、誤魔化すように濡れたキャップをかぶり直す。



「あ・・ありがとう。」
「あ、ウン。服、濡れたな。」


「い、いいの。着替えあるし。」
「そ、そうか。ならいい。」


「ウン。」



お互いが他所を向いての会話。
凛とが近づいてきて、派手に濡れたなと話しかけてくるから助かった。



勝手に走り出す鼓動に深呼吸してチラリと盗み見たハルちゃんは、
エメラルドグリーン一色の中で強烈な光りを放って笑っていた。




















君がいれば楽園 2 

2007.07.28




















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