君がいれば楽園 最終話
校門を飛び出して、道も分からず目に見えるマンションを目指して走る。
真っ直ぐに辿りつけない苛立ちと焦りの中、やっと目的のマンションに着いた。
肩で息をしながら豪華な扉の前で、ハタ・・と気がついた。
何号室か分からない。
どっか名前の分かるとこ、あったポストさ。
管理人のオジィにジロジロと見られながら『』の文字を探す。
やっと見つけて、ドキドキしながらインターフォンのボタンを押した。
二度、三度とエントランスに呼び出し音は響くけど応答がない。
もう行ってしまったのか?
どうすればいい。次はどこへ行けばいいんだ?
焦る俺の隣で管理人室のオジィに電話がかかってきた。
携帯があるじゃないか!
そんな簡単なことにも気付かなかった自分の慌てぶりに眩暈がする。
マンションのエントランスを出て、あまりに恥ずかしくて一度もかけたことのないの携帯番号を呼びたした。
頼む、出てくれ!
道の真ん中、祈るような気持ちで携帯を耳にあてた。
間をおいて聞きなれた呼び出し音が聞こえ始める。
と心の中で名前を呼んだ時・・・プツッと雑音が入り、ざわめきが聞こえた。
「!?」
『・・・平古場クン?』
「やぁ、今どこだ!?」
『バス停・・バスを待ってるとこ。』
「バス停?どこの?」
『空港へ向かうバス停なんだけど・・・』
空港!?
本当に東京へ帰ってしまうのか?
そんなこと、絶対に嫌だ。
「いいか、今からわんが行くまで絶対に其処を動くな。わかったか!?」
『でも・・もうバスが、』
「そんなもん乗るな!とにかく、わんが行くまで絶対に其処を動くなって言ってるだろ!」
俺の剣幕にが言葉を失う。
携帯からはバスを待っているだろう周囲の人間の声が聞こえてきていた。
大通りに出れば空港行きのバス停があったはずだと、また俺は走り出す。
何が何でもに会いたい、その一心で俺は携帯を強く握った。
「、頼む!わんの話を聞いてくれ!」
『さっきのことなら私が悪かったんだから・・・』
「それもだけど、・・それだけじゃない!」
どの道を通れば早く行けるんだ?
右、左、まっすぐ?
息が切れる。
ここ最近、部活以外でこんなに走ったことがあっただろうか。
肺が焼けつきそうになりながらも走り続ける。
「わんは・・ずっとに言いたいことがあったんだ。」
『な・・に?」
「わんは、」
この角を曲がれば大通り。
苦しくて見上げた空は真っ青で、海のように澄んで広がっている。
「やぁが好きさ。」
大きな通りにでれば、急に携帯からの雑音が大きくなった。
左右を確認すれば、通りの向こうにバスが停まっている。
空港行きという文字を見て、俺は迷わず道路を横切ろうとしたが車が多くて渡れない。
「!」
ゆっくりとバスが動き出す。
いてもたってもいられず、俺は車の間をぬって大通りへ飛び出した。
クラクションを鳴らされ、何台かが急停車するのも構わず大通りを渡り切る。
なんとか無事に渡り切ったが・・・バスは既に大通りの角を曲がろうとしていた。
あのバスにが乗っていたら。
だが、俺は望みをかけて後ろを振り返った。
携帯を手に握りしめたまま、が残ってくれていることを祈って。
「あー、俺。あやうく車に轢かれて死ぬとこだったさぁ。」
誰もいなくなったバス停では携帯を耳にあてたままボロボロと泣いていた。
俺は比嘉高って胸に書かれたテニスウェア着てるし、その背中には汗が滝のように流れてる。
息も上がって、とてもじゃないけど人に見せられる姿じゃない。
でも、やぁにだったら見せてもいい。
俺は携帯を閉じるとの前まで行き、
もう俺の顔なんか見られないくらい泣いてるの体を思いっきり抱きしめた。
「わんは、やぁが好きだ。
好きで、好きで、どうにかなりそうなくらい。やぁが好きだ。
やぁが俺のために作ってくれたんならゴーヤだって食べられるくらい・・・
わんは、やぁが好きなんだ。」
ぎゅうっと抱きしめて、
ずっと触れたかった髪を撫で、憧れていた甘い香りを思いっきり吸い込んだ。
「ゴメンな。
なんか、ひとりで舞い上がって、誤解して、やぁの気持ちにも気付かずに傷つけてばっかりだったさ。
でも・・・その間もずっと、やぁのことが好きだったんだ。」
ウンとが腕の中で頷くのが分かった。
ヨカッタ、やっと俺の気持ちが通じたんだ。
そうだ、肝心なことが。
「やぁ、東京には帰らないでくれ!ずっと俺の傍にいてくれ。いて欲しい。駄目か?」
を胸から引きはがし、必死にひきとめる。
ここまできたら恥ずかしいも何も言ってられないだろ。
なのには鼻の頭を赤くしてキョトンとしている。
薄い肩をつかみ「頼むから!」と懇願すれば、首をかしげたが涙で潤んだ瞳を瞬かせた。
「いとこの結婚式に帰るだけだから、週明けには戻ってくるよ?」
「あい?・・・結婚式?」
あーっ、永四郎にハメラレタ!
肩をつかんだまま脱力した俺を心配そうに覗き込んでくる。
全ての疲労が押し寄せてくる中で顔を上げれば、
泣いてなのか、照れてなのか、どちらにしても白い頬をピンクに染めた可愛い俺の彼女がいた。
「まぁ、いいさ。
永四郎の事は後で考えるとして、今はやぁが居てくれるんなら・・・それでいい。」
そう、それでいい。
お前さえ居てくれるなら、俺にとっては楽園だからさ。
その日、は家族に怒られながらも一本遅れた便で東京に帰っていった。
の不在を永四郎に食ってかかることで紛らわそうとした俺だったけど、
一枚も二枚も上手の永四郎に勝てるはずもなく「感謝こそされ、恨まれる筋合いはないですね」と冷たく切って捨てられた。
裕次郎には「どう告白したんだ」と執拗に聞かれ、
よくよく考えて「好きだ」を何回口にしたのかと指折り数えて記憶から抹殺した。
そういえばから「好きだ」と聞いてないじゃないか。
ポンと浮かんだ真実に口元が緩む。
帰ってきたら、まずは俺のことを『凛クン』と呼ばせよう。
呼び捨てでもいいが、の『クン』という甘い響きが気に入っているからな。
俺は『』と呼ばせて貰おう。
絶対に他の奴らが『』と呼ばないよう牽制しとかなくてはな。
最後に俺のことを好きかと訊いてみよう。
好きだと答えてくれたなら、思いっきり抱きしめよう。
いっぱい、いっぱい、抱きしめるさぁ。
今日はが俺のもとに戻ってくる日。
見上げた青い空。
銀色の飛行機がジェット音を轟かせて青空を横切っていった。
君がいれば楽園
2007.07.05
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